サカナクション 山口一郎、話題の配信活動で見せる人間性 うつ病と共に生きる“新しい自分”

 山口が現在の状態に至るまでには長い道のりがあった。2024年1月、ソロツアーの千秋楽で彼は、2022年からうつ病を患っていることを公表。5月には『NHKスペシャル 山口一郎 "うつ"と生きる ~サカナクション 復活への日々~』で闘病する姿が放送され、反響を呼んだ。

 番組内でメンバーや関係者が口々に語っていたのは彼の責任感の強さである。「逆境になればなるほど頑張りたくなる」と形容されていたようにコロナ禍でもアイデアを尽くしてオンラインライブやリリースを続け、率先してバンドの顔であり続けた。「自分には音楽しかない」と語る山口にとって、自身の消耗をよそにサカナクションのために身を捧げることは当然だと気を張り続けていたが、その疲労感は確実に蓄積していたのだ。そうした負荷に耐え続けた末、ツアー直前にうつ病と診断されるに至った。

 そこから2年を掛け、ゆっくりと回復に向かう過程で徐々に考え方は変わってきたことが、番組内や配信での発言からは感じ取れる。「昔の自分に戻ることは諦めた」と語り、周囲のサポートを受けながら責任感やアイデアに突き動かされ続けていた自分をセーブしているようである。頑張りすぎていた自分を自覚し、新たな活動スタイルを探っているのが現在の山口一郎だ。

 今、生配信を行なっているYouTubeチャンネルは活動休止中にゲーム配信をひっそりと行うために開設されたものだった。これまでサカナクションのために、音楽のためだけに活動を続けてきた山口だが、この配信については「勝手にやってる」と語っている。”表現の一部”ではあるものの、自分の根源的な楽しさに基づいたコンテンツであるからこそ彼は構えることなく飾らない姿を見せることができているのだと考えられる。

サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。

 裏表のない自分を自由に見せることのできる、画面越しのラフな繋がりが彼にとって気持ちの拠り所になっている部分は大いにあるはずだ。音楽の話題も多く、サカナクションの活動と完全に分離されてはいないものの、その行動原理の根底にあるのが山口自身のシンプルな欲求である点はとても健康的だと思う。山口の言う「新しい自分」とは心を擦り減らすことなく、他者の目を気にすることなく、やりたいことをできる姿も含まれているのだろう。

 とはいえ、うつ病の公表ですら「救える人が一人でもいればいい」「(メンタルヘルスを)相談できる組織を音楽業界の中で作りたい」という他者に向けた目的もあった(※2)ため、配信にもまた負荷をかけ始めないか? という心配な部分はある。一方、周囲にいる関係者、そしてこの配信で山口の姿を知っているリスナーが見守ることで変化に気づきやすくなった、という状況は確かにあるだろう。彼自身の健康のために、彼自身の人間味を、彼自身が楽しみながら開放できる。配信番組がそんなコンテンツとして続いていくことを祈るばかりだ。

※1、2:https://www.youtube.com/watch?v=XUtR7vQ9d2o
※3:https://news.yahoo.co.jp/articles/1cec100ec34a0fdefca6bd2b24b618cabd84c4a0

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