香取慎吾、自身を楽しむ現在地 『SMAP×SMAP』、映画『座頭市 THE LAST』……1990年代の葛藤

 もうひとつ、インタビュー記事から言及しておきたいのは、香取が自分自身のことを“ロボット”と表現していたところだ。

 香取は「若い頃の僕は『俺なんてピエロだ』とか『ロボットとして働いてきた』みたいな感覚を持っていました」と語っている。しかし主演映画『座頭市 THE LAST』(2010年)で監督を務めた阪本順治から、「もうそんな考えはよくないから。もっと人として、自分として生きた方がいい。君はロボットなんかじゃないから」と言われたそうだ。そこで香取は、自分の捉え方が変化していったという。そして撮影後、香取は阪本監督に、ロボットが市に斬られている様を描いた絵をプレゼントした。

 ロボットもまさに大量生産を表すワードでもある。それを斬りつける絵というのは、いかにもメンフィス的……いや、エットレ・ソットサス的ではないだろうか。いいか悪いかは別として、もしかすると1990年代の香取は“人間味”を確立できていなかったのかもしれない。香取がメンフィス柄に接近していった理由には、彼のそういう背景が感じられる。

 香取は記事の終盤、「自分になれた」と話している。その実感は「メンフィス」の精神性に通じるものがあるだろう。香取は「なぜ今、1990年代ブーム?」という問いかけについて、「自分らしさというものをある意味、失っていた1990年代とあらためて向き合うこと」と解釈したのではないか。そう考えると香取は今、誰よりも“香取慎吾”を楽しむことができているように思える。

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