デビューアルバム1枚で解散 UGUISS、“伝説のバンド”が80年代音楽シーンに残してきたもの

僕らは大人にはエラそうなガキに見えただろうね(松本)

上段:松本淳、山根栄子、佐橋佳幸 下段:伊東暁、柴田俊文

ーー3人の音楽の好みは共通していたんですか?

松本:それぞれ少しずつ違うんだけど、3人の真ん中にアメリカのロック、女性ボーカルのロックがあった気がする。

佐橋:そうだね。俺は柴田んちに初めて行ったとき、プログレを聴かされた。

柴田:ああ。ジェネシスとかキャラヴァンとか。

松本:あと、フランク・ザッパはマスト。

佐橋:淳が高校を中退してアメリカに行ったときは驚いたけどね。

松本:古文の授業中にはたと気がついたんですよ、「俺はミュージシャンになりたいのに、こんなことやってんのは時間の無駄だ!」って(笑)。

佐橋:淳はアメリカの空気をたっぷり吸いこんで帰国したんだけど、今思うと、俺たちはキーボードが入っているバンドのサウンドに惹かれていた気がする。

柴田:そうだね。ロックのサウンドが一気に多様化していった時期とも重なる。

佐橋:とにかく洋楽の新譜しか聴いていなかったよね。日本のロックはほとんど聴いていなかった。

松本:僕がバイトしていた自由が丘は陸サーファーのメッカだったから、『RIDE ON TIME』とか『COME ALONG』がすごく流行っていたけどね。

ーーのちに佐橋さんと柴田さんが山下達郎さんのバンドに入ることになるとは……?

佐橋:夢にも思っていなかった頃ですよ。そうこうするうちにデモテープを録ることになったんだけど、ベーシストが決まらなくて、柴田がシンセベースを弾いたんだ。

柴田:シンベがまだ全然ポピュラーではなかった時代でした。

佐橋:それで僕らの先輩の伊東暁さんがハモンド・オルガンを弾けたので、ベース・パートを補うかたちでメンバーに加入。都内のライブハウスで活動しながら、色んなレコード会社でデモテープを録ったね。

松本:10年前の『UGUISS 30th Anniversary Edition』のボーナス・トラックにはその頃のカセットテープ起こしのデモ音源も収録して。

佐橋:ボーカリストが山根栄子に代わったときのデモテープは、有名なビクターの401スタジオで録音したんですよ。

柴田:ちょうどスタジオが改装されるタイミングで、僕らはそのサウンドチェック要員だった(笑)。

佐橋:で、ビクターで録ったデモテープを持ってソニーに行ったんです(笑)。

ーー山根栄子さんとの出会いは?

佐橋:伊東暁さんが山根麻衣(麻以)さんのサポートをしていて、僕もギターで駆りだされ、そこでコーラスをしていた麻衣さんの妹の栄子と知り合った。彼女の存在はすでに業界からも注目されていたし、UGUISSの英語の曲を日本語にしてくれたりして、急にデビューに向けて動き出したんです。

松本:高校時代からデビューを目指していた僕らも、栄子の加入でやっと日の目を浴びる時期が来たと思った。僕は栄子にパット・ベネターを貸して、栄子は僕にパティ・スミスを貸してくれたな。

佐橋:栄子は残念ながら、2012年に亡くなってしまったんだけど、UGUISSのデビューの推進力になったのは間違いなく彼女でした。

ーー1stアルバム『UGUISS』は1983年9月、EPIC・ソニーからリリースされました。

柴田:1stはそれまでライブでやっていた曲を中心に録音したから、まぁ、勢いだけはありますよね。

佐橋:わざわざ三重県の鈴鹿まで行って合宿レコーディングしたんですよ。

松本:音楽雑誌「Player」でLOUDNESSがそのスタジオでレコーディングしたという記事を見つけて、提案したんですよ。

佐橋:そのスタジオで一緒だったのが上方フュージョンの雄、NANIWA EXPRESS。80年代前半は、フュージョンも勢いがあった。

ーープロデュースも自分たちで手がけていますね。

佐橋:僕たち、人の言うことを聞かない生意気なバンドだったんですよ。

松本:あの頃の僕らは大人にはエラそうなガキに見えただろうね。

佐橋:当時のEPIC・ソニーには、シャネルズ、佐野元春さん、THE MODS、一風堂がいて、僕らと同期がThe Street Sliders。

松本:EPIC・ソニーは何か新しい、面白いことをやりそうなレコード会社という雰囲気があったのかな。

佐橋:でも、ばんばひろふみさんもいたし、俳優の渡辺徹さんや真田広之さんもEPICからレコードを出していたんですよ。俺、真田さんとLAで会って、当時の話ですごく盛り上がったことあるもん(笑)。

柴田:今でこそ、イノベーションを起こしたレーベルとして語られているけど、そういう試行錯誤があったからこそ、UGUISSのような一風変わったバンドがデビューできたのかもしれないと思うこともありますね。

佐橋:大江千里くんも僕らと同期なんですよ。その後、僕や淳は千里くんのレコーディングやライブに参加するようになるんですが。

ーーThe Street Sliders、大江千里、UGUISS。同期とはいえ、確かに音楽性も志向もかなり違いますね。

佐橋:で、翌年の1984年にデビューしたのが、BARBEE BOYSとTM NETWORKですよ。

柴田:今、思うと、時代的に絶妙なタイミングでしたね。

佐橋:僕らが練習していたスタジオにイマサ(いまみちともたか)が来て、「今度、EPICからデビューすることになったんだ」と言ったことを覚えている。でも、こっちもデビューしたばかりで、「俺たちが一番だ」って思っていた。

柴田:あらためて1stアルバムを聴いても、若い勢いとはち切れんばかりのやる気だけは漲っていますよね。

佐橋:鼻っ柱だけは強かったんですよ。デビューするに当たって自分たちで楽器車を買い、関西、広島、福岡にもライブに行ったし、評判も上々だったと思う。東京もルイードやクロコダイルだったのが、だんだん動員も増えて渋谷のLIVE INNで出来るようになった。

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