Leina、Yaffleとのクリエイティブで獲得した新しい表現 “具体”と“抽象”のバランスが生む共感

 「どうでもいい話がしたい」と「うたたね」がSNSを中心にロングヒットしているLeinaが、前作『tulip』からわずか半年で2ndEP『ReUnion』をリリースした。本作は「ReUnion=再会」を意味しており、人生における大切な人との再会や、もう二度と会えなくても思いを巡らすことで叶うことのできる再会など、さまざまな意味合いでの「再会」が楽曲の中に織り込まれている。なお、2月に先行リリースされた「Highway」では、気鋭のプロデューサー・Yaffleとともに「パートナー以外の相手と堕ちていく危険な恋」をテーマにスリリングなサウンドを展開している。そこで今回リアルサウンドでは、LeinaとYaffleによる対談で、二人の出会いの経緯や「Highway」の制作秘話、お互いのクリエイティブについてたっぷりと語り合ってもらった。(黒田隆憲)

YaffleがLeinaのアーティスト像に感じた“新しい風”

ーーお二人の交流はどのように始まったのですか?

Yaffle:Instagramのタイムラインに彼女の曲が流れてきて。めちゃくちゃいいなと思ったのでEPをちゃんと聴いて、全く面識がなかったんですけど感想をDMしたんです。「どこかでいいタイミングがあったら、ご一緒したいですね」みたいなことも書いたかな。

Leina:最初は信じられなかったですね。Yaffleさんが、私の曲を聴いてくださっただけでも嬉しいのに「ご一緒できたら」みたいなことまで言ってくださって。「このチャンスは掴むしかない!」と思い、すぐに連絡させていただきました。

ーーYaffleさんは、Leinaさんのどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

Yaffle:まず、僕にとっての音楽の入り口はオルタナティブロックだったんですよ。

Leina:え、そうだったんですか?

Yaffle:そう。世代的に、ちょうど1990年代末から2000年代初頭くらいで音楽に目覚めたので。当時のムーブメントとしては、客のことを考えない、あるいは考えないように見せている方がかっこいい、みたいなアンチコマーシャリズム的風潮だったんです。アーティストは同じことはやらない、常に新しいものを作り続けなければ死んでしまうくらいの気持ちでいる方が、アティチュードとして正しいみたいな。

 で、Leinaちゃんの音楽を聴いた時に、僕が10代の頃とはまた違った“かっこよさ”の定義があると思ったんです。リスナーに媚びてはいないけど、突き放してもいない。そういうアーティスト像をカッコよく提示している姿に“新しい風”を感じたというか。

Leina:そんなふうに言っていただけるとニヤニヤしちゃいますね(笑)。私自身、オルタナロックに詳しいわけじゃないけどもちろん聴いてはいますし、自分にしかできない新しい音楽を届けたい、ありふれたものの中に馴染みたくはないという気持ちがありつつ、聴き手にもちゃんと寄り添わなきゃという思いがあって。だから今Yaffleさんに、「リスナーを突き放してはいない」という感想をいただいて、「ちゃんと伝わっているんだな」と思って嬉しくなりました。

Leina

ーーでは、今回のコラボ曲「Highway」はどうやって作っていったのですか?

Leina:Yaffleさんとお会いした最初の頃に、J-POPについて色々お聞きしたことがあって。自分が今回、Yaffleさんとご一緒するにあたり、どういうものを作りたいのかを考えたときに、やはりYaffleさんが作っているかっこいいトラックをそのまま使いたいというか。受け入れやすいよう変に間口を広げたくないですし、尖っているYaffleさんのセンスは貫いてもらいたい。そこに、自分が考えるメロディラインや歌詞をうまく馴染ませることができたらなと。

 とはいえ自分自身、「J-POPとは?」みたいなことがずっと引っかかっていて……。YaffleさんはずっとJ-POPシーンでも活躍されている方だし、しかもかっこいいサウンドをされている方だから、どんなふうに思っていらっしゃるかを聞いてみたかったんです。

Yaffle:J-POPの定義は一概に言えないけど、日本でいろんな人に聴かれる“いい曲”を作る上で、いわゆるトラディショナルなJ-POPのスタイルは必要条件なのか? みたいな話だったんです。そうではないアプローチでも、日本語の曲として聴ける素地があるのか? みたいな疑問が、彼女の心の中でぐつぐつと煮えたぎっていたようですね(笑)。

ーーそんなLeinaさんに、Yaffleさんはどんな言葉をかけたのですか?

Yaffle:「そういうのは、好きな人に任せておけばいいんじゃない?」って(笑)。例えば自分のスタイルとは違うけど、広く世に受け入れられている楽曲があった時に、「自分もそっちに寄せて……」みたいなことをしても、本当にそれが好きで作っている人の方がいいに決まっているし、そもそも敵うわけがないじゃないですか。それより自分が好きなことや、得意なことを磨いていった方がいいよね? みたいなことを言いましたね。

Yaffle

ーー実態のわからない“不特定多数”に寄せるより、自分がいいと思うものを作り、届けるべき人に届ける方がいいという話ですよね。

Yaffle:そうです。作り手としての喜びを完全に排除した状態で、「いいな」と思えるものを作るのはとても大変なんですよ。しかも、仮にそれで“いい曲”が作れたとしても、それまでに苦労した痕跡……「ここ、めちゃ考えたな」「ここは妥協してしまった」みたいなノイズがたくさん入ってしまう。しかも2年くらい経つと、自分でもわかるんです。「なんでこんなことしちゃったんだろう」って。

Leina:それは辛いですね(笑)。とにかくYaffleさんに話を聞いてもらい、今みたいな話を聞かせてもらったことで自分の気持ちがパーッと解放されていきました。

ーー曲作りの具体的なプロセスは?

Yaffle:最初から「いい曲作るぞ」みたいに気負って作り始めるとプレッシャーになってしまうので、まずはラフスケッチみたいなものをいくつか作り、それをLeinaちゃんに聴いてもらいました。それでピンときたものがあれば、そこから膨らませていこうと。

Leina:Yaffleさんのスタジオで、ラフスケッチをゼロから作ってくださっている時、私は後ろのソファに座って聴いていました。そして、いくつか候補を挙げてくださった中から「これ、めっちゃいいかも」と思ったものを選び、そこにサビメロをつけていたんです。その時にメロとほぼ同時に浮かんできたのが、〈Highway〉というワードでした。「Yaffleさん、これドライブの曲にしましょう」とすぐ提案したところ、「今から車の音を録りに行こうよ」って(笑)。それで着いて行ったら、iPhoneのボイスメモで車のエンジン音とか録り始めましたよね?

Yaffle:そうそう。そのうちに興が乗ってきて、そのまま首都高をドライブしたね(笑)。

Leina:そのあとスタジオに戻って車の音をイントロに入れ、浮かんだメロを吹き込んで……みたいに仕上げていきました。

歌詞で目指したのは「品のあるエロス」

ーー歌詞は、パートナー以外の人との危険な恋愛がテーマです。

Leina:もともとリファレンスで挙げていた曲のうちの一つ、ザ・ウィークエンドさんの「One Of The Girls」もかなり官能的な歌詞やサウンドだったんですよ。Yaffleさんが作ってくれたトラックも、私が考えたサビメロのラインにも色っぽさを感じたので、夜のドライブがイメージするちょっと危険な雰囲気が入れられたらいいなと。官能的といっても「品のあるエロス」を目指しながら歌詞を書いていきましたね。

ーーたとえば、〈毛繕いをして寂しさ埋めるだけ/問い詰めても答えないのは知ってる〉というフレーズはどのようにして浮かんできたのでしょうか。

Leina:実は、今回のEPや次のツアーのテーマを「オオカミ」も取り入れようと思っているんです。それでこの曲には「毛繕い」という言葉を入れようと。動物の毛繕いって、人が寂しさを埋めるために会ったり縋ったりしている行為に少し似ている気がするんですよね。

ーー「一匹狼」という言葉があるように、本来群れで行動するはずの狼が持っているかもしれない、つがいでいても埋められない孤独みたいなものが、言われてみればこの歌詞に含まれている気がします。

Leina:なるほど。確かに、寂しさを埋めるために恋人以外の人と会う行為は孤独ですよね。自分の本質的なところに触れてもらえなかったり、理解してもらえなかったりする寂しさを抱えた人たちが、もしかしたら「危険な恋」や「一夜だけの恋」に縋ってしまうのかもしれない。

ーー〈隠さずに見せて君の全てを全部僕だけに教えて〉も、すごく寂しいフレーズのように感じます。

Leina:〈君〉は〈僕〉よりもどこか寂しげで、その人だけが持つテリトリーに入れそうで入れない……みたいな。それって「一匹狼」の寂しさでもあるし、「来てほしい」とちらつかせてくる割には、そこまで深くは受け入れてもらえない“駆け引き”がある気もする。ずるい人ってそんな感じじゃないですか(笑)。だからこのフレーズは、官能的でもあると同時に“切実な寂しさ”がありますよね。私は歌詞を書くとき、いつも余白を大事にしているんです。こんなふうにリスナーが自由に想像を膨らませ、それぞれの解釈に任せられる歌詞が書けたことを嬉しく思います。

関連記事