『SXSW 2024』“TOKYO”を冠した2つのショーケースで世界へ プロジェクトメンバー座談会
アジア全体のコミュニティを意識することも必要
菅原:『SXSW』は日本の企業もかなり出展してるんですよ。音楽業界以外の企業とコラボしたり、ショーケースライブに協賛してもらえるのが理想なのですが、なかなかそこまでの整備は進んでいないですね。
林:『SXSW』は前半がITやテック系の企業、後半が音楽なんです。情報共有ができていないと、前半に出展した企業はすぐに帰ってしまう。他の国ではその連携がしっかりできているように感じます。過去に、韓国が主催しているステージを見たんですけど、サムスンが協賛に入っていて、ステージやディスプレイのクオリティがすごく高かったんです。日本の企業ともこういうことができたらいいなと。
増田:去年は、日本企業、音楽業界を含めて300人くらい参加していたのですが、ようやく情報交換が行われるようになって。事前のミートアップ、現地での交流、事後の意見交換を含めて、かなりコミュニケーションを取れる場を事務局が作ってくれるようになっています。意欲を持って参加する人が増えれば増えるほど活性化できると思っています。先ほど企業とのタイアップや協賛の話が出ていましたが、国に対しても実は様々なリクエストがあります。韓国、台湾、タイなどは国の補助がしっかりしてるんですよね。
菅原:日本でも2003年頃からエンターテインメントの海外市場拡大の動きがはじまって。それが2013年のクールジャパン機構につながるのですが、アニメ、ゲームなどに比べると音楽に対する補助が極端に弱いと思うんです。この20年の間に欧米に進出したのが韓国ですよね。00年代前半にSM EntertainmentのBoAさんが日本で成功して、その後、東方神起がブレイクして。当時からSM Entertainmentのスタッフは「とにかく世界を見据えて活動しないと勝てない」と言っていた。
——その後も韓国のエンタメは着々と世界進出を進めました。
菅原;比べるわけではないのですが、どうしても日本の取り組みは見劣りしてしまうんですね。『SXSW』のショーケースにしても、自腹を切って行っていますし。もちろんいろいろな形の助成金は出ているのですが、海外進出に向けて、もう少し国からの支援があってもいいんじゃないかなと。
——日本のアーティストの海外進出に向けて、今年の『SWSX』が一つの起点になりそうですね。
山崎:そうですね。そもそも日本のアーティストが海外に出ていくためのルートが整備されていないんですよ。「アメリカだったら、まずは『SXSW』。この国でライブをやるときは〇〇」というルートがあればいいのですが、現状は個々のアーティストやマネジメント単体で道を切り開くしかない。そのために最初の一歩が遅くなっていると思うんです。音楽にはトレンド、潮流があって、そこにアプローチするのがいちばんオーソドックスな方法だと思うのですが、海外への道筋を探しているうちに遅れてしまうというか。今回はアメリカですが、アジアを含めていろんな国にルートを作っていきたいですね。
増田:マーケットに身を置くのがいちばん早いのですが、それがいちばん難しいんですよね。楽曲はリアルタイムで届けられますが、いちばん効くのは、その場所でライブをやることだと思うんです。リスナーに訴求できるのはもちろん、アーティストの友達ができたり、ライブを観たイベンターが別のフェスなどに呼んでくれることもあって。
山崎:私たちがマネジメントしているThe fin.がまさにそうでした。もともと海外に出たいという強い意志があって。最初が2015年の『SXSW』だったのですが、その後、台湾、タイ、香港、イギリスから声がかかったんです。『SXSW』に出ることで、海外の関係者が注目してくれるし、「このバンドは日本以外でも活動しようとしている」と認識してもらえるんですよね。
林:そういう意思表示、大事ですよね。
菅原:『INSPIRED BY TOKYO』『TOKYO CALLING』を継続できれば、いろんなルートにつながると思います。海外で活動したいと思っているアーティストはぜひアプローチしてもらって、いろんな人とつながってもらえたらなと。
増田:アーティスト自身が海外での活動とどう向き合うかということも問われると思います。もちろん私たちもできる限りバックアップしますが、どれだけチャンスを掴めるかは本人次第です。まず「海外に出ていきたい」という気持ちが必要ですし、現地でいろいろなアーティストやクライアントと交流することができるか。今、日本のアーティストはすごく注目されていますし、チャンスだと思うんですよ。The Orchardの海外スタッフもこちらの情報を欲しがっていますし、「こういうイベントに合うアーティストはいない?」という問い合わせや、コラボ相手を探している海外アーティストも増えているので。
林:そうですね。ストリーミングで聴かれるためにも、その国のアーティストとコラボするのはとても効果的。そのつながりを作るためのサポートも我々の役目だと思っています。
菅原:春ねむりはまさにそうですよね。『SXSW』で一緒になったPussy Riotとコラボ作品を出しましたし、オーストラリアのJaguar Jonzeと共作した「ANGRY ANGRY」を昨年の『SXSW』で披露しました。海外でのツアーも増えているんですよ。『TOKYO CALLING』にも台湾のアーティストから「出演したい」という依頼があったり、少しずつですが海外との交流も広がっています。
山崎:アジア全体のコミュニティを意識することも必要なのかなと思っています。今年の『SXSW』に台湾の『Taiwan Beats』というショーケースがあるのですが、我々のショーケースの会場と隣接していて。それぞれのショーケースを行き来してもらったり、アーティストの交流を促すために、『INSPIRED BY TOKYO』に出演するWez Atlasが『Taiwan Beats』のステージに参加することになっています。
——アジア全体で世界にアピールしていこう、と。
山崎:そうですね。先ほど話したThe fin.は中国にファンベースを作ることができたのですが、彼らが海外でライブをすると、現地の中国系のファンが足を運んでくれる。それを積み重ねることで、より多くの国にアプローチできるのではないかと思っています。そういうスタンスは『INSPIRED BY TOKYO』のもともとのコンセプトにも入ってるんですよ。
林:東京を経由したアジアの音楽を世界に発信する、という。
山崎:今回の『SXSW』におけるショーケースもそうですが、日本の音楽をアピールすると同時に、“アジアの音楽”という打ち出し方もカギになってくるかもしれないですね。
■イベント情報
『TOKYO CALLING showcase LIVE supported by The Orchard Japan』
日時:2024年3月11日(月) 20:00〜26:00
会場:Austin, TX – Elysium
<出演>
東京初期衝動
バックドロップシンデレラ
HALLEY
眉村ちあき
CHAMELEON LIME WHOOPIEPIE
『SXSW MUSIC FESTIVAL 2024 “INSPIRED BY TOKYO”』
日時:2024年3月12日(火) 20:00〜26:00
会場:Austin, TX – Elysium
<出演>
The fin.
Wez Atlas
Helsinki Lambda Club
ドミコ
くだらない1日
luvis
TOKYO CALLING オフィシャルサイト
FRIENDSHIP. オフィシャルサイト
Spincoaster オフィシャルサイト
Orchard Japan オフィシャルサイト