「可愛くてごめん」「全方向美少女」……“自己肯定感爆上げソング”がZ世代に刺さる理由 SNS時代をサバイブする鎧に
自己肯定感が低いからこそ上げたい、Z世代の葛藤
実のところ、“自己肯定感爆上げソング”を支持するZ世代はそもそも自己肯定感が低い人が多いと言える。2023年5月に『SHIBUYA109 lab.』が15~24歳(当時)のZ世代を対象に行った「Z世代の美容に関する意識調査」(※2)では「自己肯定感が高いと思う」という質問については「あてはまらない」という回答が67.5%で、「自己肯定感を高めたい」かという質問に対しては、「あてはまる」が77.7%となった。多くのZ世代が自己肯定感の低さを抱え、その上昇を願っていることが分かる。
自分に自信がないという葛藤やコンプレックスを抱いて劣等感に苛まれるのは若者にとっては通過儀礼だろう。特に10代前半からスマホを持ち、SNSでの交流が日常であるZ世代はその葛藤や劣等感が過度に強くなり得る。友人の動向が可視化され、同年代の活躍が常に目に飛び込んでくる、そんな環境に身を置くことで、周囲の輝きと自分を比べ、負の側面ばかりを意識してしまうのかもしれない。こうした環境が背景にあり、それゆえに多くの若者がSNS上で着飾り、過剰なほどの加工と編集によって理想的な自己像を演出するのだろう。
常に他者の目線を意識せざるを得ず、他者に自分をどう見せたいかを悩み続けるーーそんなZ世代にひたすらポジティブな“自己肯定感爆上げソング”は深く刺さったと考えられる。実際「全方向美少女」には〈熱い眼差しが無きゃ千年の恋も冷めちゃうわ〉というフレーズがあり、「可愛くてごめん」ではSNSでのリプライや陰口といった他者の目線を受けた上でそれを跳ね除けるタフさが歌われている。“自己肯定感爆上げソング”は他者の目線が可視化されるようになった現代をサバイブするために身に着ける鎧の1つなのかもしれない。
@noa_aburasoba 自己肯定感ブチ上げる曲作ったよ
@honeyworks_official 可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)#HoneyWorks #ハニワ #可愛くてごめん ♬ 可愛くてごめん (feat. かぴ) - HoneyWorks
TikTokやSNSの中だけでこれらの楽曲を消費し続けることは、そうした他者の目線への期待に応え、終わりなき承認欲求に囚われてしまうリスクもあるだろう。しかし加工や編集ができない現実世界にもこれらの楽曲の効力を持ち出すことができれば、楽曲の意義はより大きくなる。例えば、登校前や出勤時に楽曲を聴くことで、必要な自信を取り戻したり、ポジティブな目線を自分に向けたりすることは、健康的な自己肯定感の発露にほかならない。
ヒットソングはリスナーが根底に抱く欲求を反映しているものでもある。このタイミングで“自己肯定感爆上げソング”が支持されているのはスマホ/SNSの発達が極まってきた時代の必然だと言える。他者の目線に対抗するための加工した現実、そこでさえ自信を持てない心を鼓舞するためのBGMとして、その需要はしばらく続くはずだ。
※1:https://magazine.tunecore.co.jp/stories/362494/
※2:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000227.000033586.html