ゆいにしお、なぜアラサー女性の“平日”に寄り添う? 社会人4年目、仕事や恋愛への意識の変化

ゆいにしお、人生観に対する意識の変化

今回はとにかく自分の日常と向き合った

ゆいにしお

――リード曲「BFF」はどんなきっかけで生まれたんですか。

ゆいにしお:まず、「BFF」は“Best Friends Forever(永遠の親友)”の略で、先ほども言ったように前々から友達の歌を書きたいと思っていたんです。でも友達は深く狭くタイプで、濃い付き合いをするのかと言ったら案外そうでもなくて。何て言うんだろう? ベタベタした付き合いではない。だから、世間にある友達ソングがあんまり共感できなくて。ちょうど20代中盤で共感できるような友達ソングを作ろうと思って、「BFF」を作った感じですね。

――世間の友達ソングが共感できないのは、例えばどんなところが?

ゆいにしお:夜中に泣きながら呼び出されて会うとか、失恋して泣きながら電話が来るとかはほぼないですね。後から「実は別れてました」みたいな感じで、目をガッと開きながら女子会をするのはよくあるんですけど。

――もはや吹っ切れて、次の恋愛への闘志を燃やしている状態で会うと。

ゆいにしお:そうですそうです。あと「ウチらはズッ友だよね!」みたいな感じもあんまりなかったので、分かりやすく絆っぽい友情の曲が自分にはハマらないと思いましたね。

――「BFF」で描かれている友情って、言葉では直接「頑張って」とか「大丈夫だよ」とは言わない代わりに「じゃあビールでも飲むか」がイコール「頑張って」になっているというか。そういう空気感の曲だなと思いましたね。

ゆいにしお:まさにそうですね。「大丈夫だよ」と励ます友達ソングは世の中に結構あるような気がするんですけど、私の友達はみんな「大丈夫だよ」と言われなくても、自分の中で大丈夫にしちゃう感じの気が強いタイプが多いから、それが大きいのかもしれない(笑)。

――あと、曲を聴いて劇中劇のような印象を受けました。自分たちの青春時代を示す表現として〈あの時代 あのとき〉〈私たちいまだにあの曲歌ってる〉というワードが登場しますけど、この「BFF」自体がその“青春の曲”というメタを表現しているように感じまして。

ゆいにしお:あー、なるほど! それは面白い! 確かに、自分たちにとってある種の一つの時代だった時を振り返る歌っていうのは、おっしゃる通りですね。私は中高6年間、女子校に通っていたんですけど、その時の友達とこの曲(「BFF」)を歌いたいなと思って書いていて。中高時代に一緒になって聴いていた曲って、私たちにとって大事な時だったというか。「あの時のウチらは本当にヤバかったよね」みたいに今でも会うたびに言うんですけど、その時を振り返りながら、みんなにも聴いてほしいなって思います。

――サウンドに関しては「ラララ」のコーラスや口笛によって、幸福感が出ていますね。

ゆいにしお:それは私のデモには入っていなくて、アレンジのHajime Taguchiさんが足してくださったんですよ。きっと友達というキーワードから、連想した音を入れてくださったのかなって。すごく素敵ですよね。

ゆいにしお

――そう考えると、今回は最初にご自身で作ったデモから、それぞれのアレンジャーさんがいろんな色を足してくれたような感じなんですかね?

ゆいにしお:そうですね。

――楽曲それぞれの雰囲気は違うんだけど、“ゆいにしおの音楽”という一貫性を感じますよ。

ゆいにしお:ああ、良かった! このリリース前の期間はすごくドキドキしていて(笑)。いつもそうなんです、もうマタニティブルー状態なんですよ。本当に大丈夫かな? 受け入れられるかな? とソワソワしていたので、嬉しい感想をいただいてホッとしました。

――ちなみに「BFF」の中で〈アプリは惨敗 戦う姿に献杯〉というフレーズがありますけど、これが今のアラサー女性のリアルな恋愛の探し方なのかなと思って。

ゆいにしお:新しい出会いを求めると言ったら、今はほぼマッチングアプリだと思いますよ。女子会をすると絶対にアプリの話が出ますから。「顔写真はこれでいいかな?」と確認し合ったり、プロフィール文をみんなで添削したりとか、勝手にスワイプしたりとか(笑)。

――ひと昔前はマッチングアプリをやるのは後ろめたいことというか、利用してるとは言えなかった風潮がありましたよね。

ゆいにしお:そうそう、昔は“出会い系”みたいな、少しネガティブな印象が強かったですよね。

――僕が若い頃はmixiとかモバゲーが流行っていたんですけど、出会い目的のアプリじゃないから、メッセージに電話番号とかメールアドレスを書いちゃいけなかったんですよ。それをしたら、運営から警告メッセージが来て、アカウントを削除されちゃう。みんなその規制という名のバリケードをかい潜りながら、一生懸命接触していました。

ゆいにしお:ハハハ、面白い。

――その時代と比べたら、だいぶフランクになりましたよね。

ゆいにしお:そうですね。みんな事前にLINEのやり取りをして、電話もした上で会うみたいな。ちゃんとしてるんだなって思います。

――「TWO HANDS」の〈無意味な合コン〉とか「yyyymmdd」の〈結婚願望ないね でも持ってるの I love you〉とか、ゆいにしおさんだからこそ描けるアラサー女性のリアルな価値観や情景が細かく描かれていて。以前よりもどこの誰のことを歌っているのか、というピントが絞られている感じがしました。

ゆいにしお:それで言うと、今回は私の日常を切り売りしてる感覚がだいぶ強いですね。前のアルバムは「女子会で聞いた話を詰め込みました」って感じだったんですけど、今回はとにかく自分の日常と向き合って「自分のここの日常の瞬間って好きだったな」と思い出す作業が多かった気がします。

――あ、なるほど。じゃあドキュメント的な要素が強いわけですね。

ゆいにしお:ですね。完全に自分の日常でもなくて、誰にでも当てはまりそうなところをいい加減に切り抜いてたっていうところですね。

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