怒髪天 増子直純が明かす、“メンバー解雇”決断の経緯 4人最後のステージは「感謝しかない」
錚々たる豪華ゲストを迎えた『怒髪天結成40周年特別企画 “オールスター男呼唄 真冬の大感謝祭 -愛されたくて・・・2/5世紀-”』。初日は増子直純(Vo)の体調不良というアクシデントに見舞われたものの、2日間を大盛況に収め、その図太いロックバンドの生き様を見せつけてくれた。このまま〈人生の大サビに乗って〉と声高らかに、大はしゃぎしていくものだと思っていたのだが……。
2月9日に突如発表された「怒髪天より大切なお知らせ」——。
ベーシスト・清水泰次の解雇という衝撃。併せて、本人をはじめとしたメンバーの実直すぎるコメントは大きな反響を呼んだ。バンドにとって大事な節目である40周年にこうした決断をした経緯とは。そして、これからの怒髪天はどうなっていくのだろうか……? 3月7日よりスタートする『ザ・リローデッド TOUR 2024』の初リハーサルを終えたばかりの増子にたっぷりと話を聞いた。(冬将軍)
嘘が生まれてしまうのが思った以上に耐えられなかった
——O-EASTでの『大感謝祭』、初日はどうなることかと心配しましたが、無事に大盛況に終わって何よりです。
増子直純(以下、増子):いやぁ、初めて気絶した。初日、中盤ぐらいからもうクラックラして、やべぇなと思ったんだよ。でも本当に倒れると思わなかった。怖いよね。終わったあと、病院が近くになくて救急車呼んだ方が早いって言われてさ。だけど道玄坂までしかこられないから、歩けるって言ったんだけどストレッチャーに乗っけられてね。それで病院で調べたんだけど、恥ずかしいくらい何ともなかったんだよ(笑)。レントゲン撮って、心電図取って、血液検査もフルでやってもらったんだけど、全部正常値。心臓もすごい綺麗だった。若い先生だったんだけど、ちょっとニヤニヤしながら結果を持ってきたもんな。「ものすごく健康ですよ」って。だから、自律神経をやっちゃって、という感じだね。ストレスで目眩とか貧血を起こしちゃって。身体には出るんだね。
——清水さんのことでの心労でしたか……。
増子:今回の件はさ、何十年もの付き合いの中でスタンプカードが何冊も満杯になった結果なんだよ。バンドメンバーとはいえ、友達から始まってるからね。最初は「仲良いから4人でやろうよ」で、ずっとやってきたんだけど、昨年のクリスマス過ぎくらいにいろいろあって。もう駄目だってことになった。そこから長野で2日、the pillowsと年明けに1本ライブをやったんだけど。本当はね、40周年の今年いっぱいは一緒にやりたいな、何とか騙し騙しできないかなと思ってたんだよ。でもその3本をやってみて、ちょっと無理だったね。
——限界だった、と。
増子:うん。双方ともに、すごいストレスかかっちゃって。それに、やっぱり曲が嘘になっちゃうんだよ。「俺たちは行くぜっ!」と言ってるバンド側に不和が生まれてるっていうさ。それはもう俺たちじゃないから。そこで嘘が生まれてしまうのが思った以上に耐えられなかった。“解雇”っていう言い方がキツいというのもあったんだけど、罪を犯したことに対する罰じゃないといけない。そこまでの厳罰じゃないと、あいつは本当に破滅する。バンド云々の前に健康面を1回ちゃんとリセットしなきゃいけない。今回の件を例えで言うと、内臓の一部がすごく悪くなっちゃって、騙し騙しいけるかといったら、このままだと死ぬなと。だったら命に関わる手術かもしれないけど、切除してとりあえず生きる方を選ぶかと。チバ(ユウスケ)のこともあってさ、本当に死んじゃって会えなくなったり、解散して聴けなくなったりするよりはいいんじゃないかっていう究極の選択だったね。3人でアー写を撮り直したりするのは、もう切ないよ。「何やってんだ?」と思うけど、でもバンドがなくなるよりはいいでしょうっていうさ。
——悩みに悩んだ最終的な決断だった。
増子:ピンチはチャンスとかさ、マイナスをプラスに変えて、なんてよく言うじゃない。そんなの無理だって。ピンチはピンチなのよ。ただそれをどう自分で解釈して乗り越えていくかっていうだけの話でさ。朝起きるたびに全部嘘だったらいいなって思うよ。でもやっぱり、武道館やった時点で本当に思ったけど、自分たちだけのバンドじゃなくなった感覚がある。自分たちを応援してくれる、好きでいてくれる人のためのものでもあるんだよね。昔は自分が面白くなくなったら、明日やめてもいいやと思ってたけど、もうそう簡単には思えない。O-EASTであれだけゲストがいっぱい出てくれて、バンドをすごく大事にしてくれてさ。歳上も歳下も関係なく俺がリスペクトしてる人たちだからね。自分のバンドがそうやってみんなにとっても大事なものになったからさ。
——だからこそ、バンドを続けるという選択ができたわけですね。
増子:でも俺の中には「やめる」という選択肢もあった。俺はこの4人でやるのがロマンだとずーっと思ってたから。でもそれによって周りに我慢させてしまったこともあったという反省はある。結果的に誰にとってもあまり良くなかったっていうか。自分の好きなバンドも、出会ったときのメンバーが一番好きなんだよね。もっとうまいやつ、カッコいいやつが入ってきたとしても、やっぱり最初に好きになったメンバーが好きだから。それを我々も重々承知の上で、バンドを存続させるために解雇することを選ばざるを得なかったことはわかってほしいかな。
——このあいだのO-EASTは、4人最後のステージということで臨んだわけですね。
増子:あそこまで4人でやろうと決めて。これまで40年間やってきたことすべてに感謝を込めて、一番いいライブにしようぜって。でも、そういう状態でライブをやるとやっぱりストレスかかるよね。本当に具合悪くなっちゃったし。バンドは生き物っていうか、平坦な道じゃないよね。俺、今年58歳。60歳手前で「いま?」っていうね。俺が全然違うバンドにいてこのニュースを聞いたら、「え? いまさら?」って思うよね。熟年離婚じゃねぇんだからさ(笑)。
——そうやって4人最後で臨んだライブ2日間を終えて、何を考えましたか。
増子:やってよかったなという、あとはもう感謝しかない。あらゆるものに対して本当にありがとうございますっていう感謝。そのけじめはちゃんと作れたかな。あとはもう、次のページに進むんだなっていう、寂しさもあるけど楽しみもある。あの日は大雪が降って、中止にする公演もあったでしょ。俺らはあのときには言えなかったけど、絶対あの日にやらなきゃいけなかったから。「じゃあ、来月ね」っていうことにはできなかった。大雪でみんな大変な中来てもらったけど、ちゃんとけじめをつけられたのは良かった。知らせてからやるのはちょっと違うかなっていうのもあったし。悲しすぎるからね。
——発表についても、包み隠さずコメントしているのが怒髪天らしくあり、増子さんらしくて。応援してきてくれた方々に対するけじめと信頼を感じました。
増子:他のいろんな発表とかを見てきて、何か釈然としないことも多かったじゃない。そりゃ言えないこともいっぱいあるだろうけど、あんまり隠しすぎてもね。事細かにまではいかないけど、ある程度の納得できる材料を渡さないとやっぱりモヤモヤするだろうなと思って。高校の同級生からメールが来たりしてさ、本当に思ったより反響があってね。ネットニュースのコメントを見たら、ロックだパンクだ言ってるバンドが酒飲んで暴れたくらいで解雇なんて時代が変わったな、みたいなことも書いてあったけど、それは違うよね。ヤクザやマフィアなんて、一般社会より強固な掟があるから(笑)。バンドにもそれがあるってことよ。もちろん俺らだけで決めたわけじゃないからね。ちゃんと本人と時間を掛けて話し合って決めたことだから。
——あのメンバーコメントを読んだら、応援する側もバンドの決断として受け入れるしかないなと。
増子:お客さんたちが、俺らが思ってた以上にちゃんと受け止めてくれた。ここに来てこの選択をした、苦渋の決断であるっていうことを理解してもらえれば。寂しいことは寂しいだろうけど、それは俺らも同じだからね。
——反面、そこまでして続けることを選んだ責任もありますよね。
増子:そうだね。でも、できることも増えるだろうし。いろんな心配事がクリアになって、俺の心情的にも肩の荷が下りた感じがするね。やると言ったからには進むしかないからね。めちゃめちゃ入ってんだよ、スケジュールが。「もうこれは駄目だな」って話し合って、そっからもうツアーのサポート探さなきゃならないって、えらいことだよね。今日初めてサポートのベース入れてリハやってきたんだけど、新曲(「ザ・リローデッド」)もレコーディング以来、初めて演奏してさ。作った本人が演奏しないってどういうことだよ(笑)!