ONCEが届けた他者と共有・共感した先にあるポップス ビルボードライブ公演レポ

 本編ラストブロックに入ると、ステージ前方にエレピが登場。ここで披露されたのがもう一つの新曲「夢でもし逢えたら」で、80年代UKソウルに現代的な感覚を掛け合わせたポップソングだった。観客も手拍子して大盛り上がり。杉本は初めはエレピを弾いていたが、途中でマイクをスタンドから抜いてステージ上を歩きながら歌ったり、グランドピアノに戻ったりと自由に立ち回っている。阪井がワウペダルを踏みながら大胆なソロを披露したアウトロでは、杉本もエレキを手に取り、2人でハモりながらフレーズを奏でた。続く「Dusk」もかなりロックなアレンジ。極めつけはドラムのクレッシェンドとともにカーテンが開き、六本木の夜景をバックに「愛とか恋とか」へ突入するという熱い展開だ。リズムが細かく複雑な曲だが、縦のラインをしっかり合わせつつも、グルーヴを失っていないところに演者の腕を感じる。のちのMCで神宮司が「あそこはみんな緊張する。変態なことするから(笑)」と振り返った変拍子の間奏では、みんなで神宮司の方を見ながら演奏し、ばっちりとコンビネーションをきめた。そうして本編は終了。

 アンコールでは、「2024年、いいスタートを切れたなと思います」と手応えを語りつつ、年始に起きた能登半島地震に触れ、「自分にできるのは音楽で笑顔を届けること」「少しでも小さな幸せを届けられたら」と自身の立場を改めて表明した。神戸出身、かつ2011年や2020年をプロのミュージシャンとして過ごした身として思うことがいろいろあるのだろう。

 「今日のライブでみなさんの背中を押せたら」という想いを込めた「記憶」を最後に届け、ライブを終えたONCE。一人で作ったアルバムをバンドで鳴らし、聴き手と分かち合って初めて“完成形”になると言っていたところに、他者と共有する音楽としてのポップスを志向するONCEの眼差しが感じられた。同時に、音楽家として攻めの姿勢、こだわりも随所から感じられ、ともに音楽を楽しむリスナーやONCEを囲むプレイヤーの存在によって、ライブが遊び場化しているような印象を受けた。総じて、ニッチをポップに昇華する杉本のバランス感覚が表れたライブだったように思う。ONCEという楽しくも痛快な遊び場がここからどのように広がっていくのか。今後の活動に期待だ。

ONCE、たった1人で完遂した多彩なサウンドのステージ 視覚的にも興味の尽きないライブに

杉本雄治(ex.WEAVER)のソロプロジェクト・ONCEが、初ワンマンツアーのファイナル公演をSHIBUYA PLEASURE…

Kitri、時代を超えた初のカバーコンサート 豊かなメロディで内省を届けるポップソングへの共鳴

Kitriとしては初めてとなるカバー曲のみで構成された『名曲カヴァーコンサート』が東京文化会館 小ホールで開催された。Monaと…

関連記事