文藝天国、“破壊”と“茶会”の2部構成で誘う音楽の旅路 新音楽ユニットも登場した2ndワンマン

 色彩作家・すみあいかと、音楽作家・ko shinonomeを中心としたオルタナ的藝術徒党・文藝天国。 文藝天国は、文藝音楽班、文藝映像班、文藝服飾班 、文藝食卓班の4つの班によって成り立っており、公式ホームページのプロフィールから引用すると、「音楽と映像を軸に五感を通して天国をつくり続けている」徒党である。

文藝天国

 2月17日、それぞれの班の活動の成果を示すイベント『アセンション』が都内3拠点同時開催された。『アセンション』は、文藝服飾班による「PARFUM de bungei」、文藝食卓班による「喫茶文藝」、そして、文藝音楽班/映像班による2nd one-man live 『アセンション』の3つのイベントから成るもので、それぞれ、嗅覚、味覚、聴覚と視覚に訴えかける表現にあたる。この記事では、日本橋三井ホールにて開催された2nd one-man liveの模様を振り返っていく。

 今回の公演は、文藝天国にとって2度目のワンマンライブ。3年前の1st one-man live『瞬間的メタ無重力空間 2021』 はキャパシティ60名の会場で開催されていたが、その後に新しいファンが増えていることを踏まえると、この日おそらく多くの人が初めて文藝天国のライブを体感したのではないだろうか。

 会場には、開演前から凛とした緊張感が張り詰めていて、そしてその静けさの中に「当機体は〜分後に離陸いたします」「業務連絡です。乗務員は〜」「皆様、間もなく離陸いたします。快適な空の旅をお楽しみください」というアナウンスが響く。今回のイベントタイトル「アセンション」は、物理的、もしくは、精神的な高まりや進歩を意味する言葉で、アナウンスの中の「離陸」という言葉は、このコンセプトに則ったものなのだろう。まだライブは始まっていないにもかかわらず、すでに文藝天国が描き出す世界に深く引き込まれ始めていることに気付く。

 開演時間を少し過ぎた頃、場内が暗転し、「第一部 破壊」が幕を開けた。ステージを覆う白い幕に、勢いよく発射するロケット、宇宙から見た地球の映像が映し出される。そして、1曲目の「尖ったナイフとテレキャスター」へ。白い幕には、すみあいか(VDJ)、ko shinonome(Gt)、ハル(Vo) のシルエットが映っており、楽曲の終盤で幕が下ると3人が観客の前に姿を見せた。並々ならぬ高揚感の中で、そのまま「メタンハイドレート」へ突入。そして同曲の終わりで、今回のライブタイトルがステージの背面に表示される。

 その後も、MCを挟むことなく次々と披露されていく歴代の楽曲たち。両手で深くマイクを握りながら、ほとんど微動だにせず切実な歌声を届けていくハル。超絶テクニックを活かした渾身のギターソロを通して、胸の内で昂るエモーションを解き放っていくko。そして、2人と共に体全体でリズムを感じながら、それぞれの楽曲世界をライティングと映像の力によって彩っていく すみ。ずっと聴き込んできた文藝天国の楽曲、そこに秘められた世界観が、目の前の3人が紡ぐ音や光、声の力によって豊かな立体感をもって立ち上がってゆく光景に、フレッシュな驚きと深い感慨を抱いたファンは多かったはず。

 ハルの歌声、koのギターサウンドは音源以上の気迫をもって力強く響く。また、スモークをはじめとした舞台演出も相まって、聴覚や視覚のみならず、身体全体で文藝天国が描き出す世界へ没入していく感覚を味わえた。第一部の幕締めを担ったのは、「破壊的価値創造」。そのパンキッシュに弾けるライブパフォーマンスに圧倒された直後、突如としてステージ上に深くフードを被ったsoanが現れ、まるであらゆる逆境を跳ね除けるようなパワフルな歌声で「ラスト・フライト」を歌い上げる。後に説明があったが、これはsoanを主演に据えた新音楽ユニット・破壊的価値創造(ko shinonomeが音楽、すみあいかが視覚を担当)の始動を告げるライブパフォーマンスで、文藝天国の世界のさらなる広がりを予感させるアクトだった。

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