小森まなみ、最後のベストアルバムに込めた40年の思いのすべて “マイクオフ”を控えた今を語る
1983年のアーティストデビュー以降、ラジオパーソナリティを中心に歌手、声優、作家と多岐にわたって活動してきた小森まなみ。彼女が、アーティストデビュー40周年を迎える節目でもあるこの春に、自身の活動を“マイクオフ”する。
2月21日リリースの最後のベストアルバム『JEWEL』をもって、今40年を振り返った彼女は何を思い、そしてなぜ“マイクオフ”をするに至ったのか。その心境を語ってもらった。(編集部)
この声のままきちんと「ありがとう」を伝えたかった
――マイクオフをされることについて、どのような思いでそこに至ったのか、またなぜ“マイクオフ”という表現をしたのか、あらためて小森さんの思いをお話しください。
小森まなみ(以下、小森):きっかけは、キングレコードさんから40周年を祝うベストアルバムのお話をいただいたことからです。企画書にはアルバム発売やイベントや展示会など楽しいことが書かれていて。「新しい活動をしようよ」と背中を押してくださるキングさんになんとお返事したらよいのかすごく悩みました。というのも、ベストアルバム『JEWEL』のDisc4でもお話ししてますが、私は2011年に倒れて休養中です。検査の結果、喉に病気が見つかり、急遽すべての活動を休止した経緯がありまして。その後、いろいろお声がかかってもお受けできずにいました。「ずっと待ってる」と関係者さんやリスナーさんは今も言ってくださいますが、復帰後に悪化して手術となり、声が出なくなったらもっと心配をかけてしまいますよね。
考えに考えた結果、大好きな皆さんに誠実でありたかったから、この声のままきちんと「ありがとう」を伝えようとマイクオフを決意しました。
“マイクオフ”って変わった表現ですか(笑)? 私はスタジオでカフが上がると、自分自身がまるでラジオになったような、言葉の発信器になったような感覚なんですよね。だからすべての活動を停止することをマイクオフという言葉に込めました。
――秋元康さんのプロデュースでデビューし、アイドル、ラジオ、アニソン、声優、アーティスト、童話作家、講演など多彩に活動されてきました。この40年を振り返り、どのような時間だったと思いますか?
小森:最高にステキな40年でした。やりたい表現はすべてさせていただきました。周りの方々が素晴らしいんですよ。関係者さんはいつも少し上の展開を用意して手を差し伸べてくださる。私はそれに全力でお応えする。するとそれを応援してくれるリスナーさんやファンの方々が日本中に広がっていって。そんな40年です。ありがたいなあ、宝物ですよね。
そうそう、リスナーさんもすごいんです。以前、名古屋球場で番組のイベントを開催した時、終演後に会場の偉い方が興奮気味に「君の番組のファンはすごいね。始まる前より会場がきれいになってる」と褒めてくださったんです。リスナーさんたちが率先して会場のお掃除をしてくださったようで。そうやって陰から番組の評価をあげてくださるんですよ。もうもう大好きなBuddyたち、私の誇りです。
――アルバムではリクエストを募ったとのことで、リクエストを見てどんなことを感じましたか? あらためてファンやラジオのリスナーの存在はご自身にとってどんなものだったのか、教えてください。
小森:いやあ、驚きました。1カ月半募集させていただき、予想以上にたくさんのリクエストも嬉しかったんですが内容がとてもよくて。単に好きな曲の人気投票ではありませんでした。皆さんのメッセージには一曲一曲に思い出が詰まっているので、時間をかけてすべて読ませていただきました。受験の時、いじめで苦しんだ時、震災に遭った時、結婚した時、子どもが生まれた時、社会人で頑張ってる時……それぞれの人生とともに小森ソングも一緒に生きているんだと知り、読みながら泣いてました。
ファンやリスナーの存在ですか? 彼ら彼女たちは私の人生のBuddyです。音楽家の伊藤銀次さんにその思いを伝えて歌詞を書き、「BUDDY」という曲も作っていただきました。ファイナルベストにも収録されている大好きな歌です。
――DISC1〜3で52曲を収録。各盤の「FIGHT」などのタイトルの由来や、収録曲について「これは入れたかった」「これはリクエストが多くて意外だった」など思った曲を教えてください。
小森:FIGHT盤とYELL盤、いずれもタイトルの由来は小森まなみを象徴する曲から付けました。阪神淡路大震災の復興支援のために作った「YELLを君に!」と、ゲーム『3×3EYES吸精公主』オープニングテーマ「Fight!-最後の天使-」です。どちらもあきらめない思いや信じる気持ちを歌っていて前向きな直球ソング。リクエストの多かった楽曲たちがこの2枚に入っています。
3枚目のDREAM盤はアニメやゲームなどの主題歌コレクションです。夢と希望がテーマで明るく楽しい曲が満載です。特に、ゲーム『海腹川背・旬』のテーマソング2曲は幻の名曲と言われてたんですが、今回メーカーさんを越えて収録していただけたのはうれしかったです。
リクエストが多くて意外だったのは「魔法のシグナル」。丸尾めぐみさん作曲、私が作詞したTVアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ-夢を抱きしめて-』の挿入歌ですが、アニメと連動していて亡くなった命への鎮魂歌で重めのバラードなんです。予想以上のリクエストだったので急遽収録が決まりました。
「これは入れたかった」という曲は、木根尚登さんがメロディを書いてくださった「1999・地球に願いを…」です。美しいバラードでリクエストも多かったのですが、もうパンパンで。泣く泣くあきらめました。ああ、ほんとに聴いてもらいたかったです。
――今回のアルバムでは、高橋直純さんとのユニット“AsR”の曲も収録されているほか、新曲「JEWEL~君と歩いた青春〜」ではコーラスにも参加されています。今回のマイクオフやAsRの楽曲を収録することについて、高橋さんと何かお話しされましたか? 高橋直純さんとの思い出や印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
小森:高橋直純さんとはレコーディングのことは1ミリもお話ししていません(笑)。というか参加は秘密だったみたいで。私は知らなかったんです(笑)。昨年の会議では、直くんにも歌ってほしいとスタッフさんにお伝えはしてましたが「高橋さんはスケジュールなどの関係で難しい」と言われてて。
コーラスの収録が完了したとキングさんから電話があり、その時初めて知りました(笑)。アレンジの大森俊之さんやスタッフさんが無邪気に「どうだった?」と尋ねるのですが、もう待って待ってという感じでした。サプライズなんてずるいですよね(笑)。大サビは直リーダーと竹内浩明さん、久保田薫さんが最高にかっこいいコーラスで盛り上げてくださって、感動して号泣しました。
思い出ですか? たくさんあるのですが印象的なのはふたつかな。ひとつは「夏色の翼」という楽曲のモチーフになった豪雨の山形イベント。集まってくれたリスナーさんの思いとAsRのめざす方向と東北の美しさがシンクロして……忘れられませんね。もうひとつは彼がソロ活動を始める最初のライブです。友人たちが作った小さなステージを、終演後の誰も見てない所で直くんは愛おしそうに撫でてたんです。その姿を見てああこの人は本当にライブが好きなんだと。私がラジオを好きでたまらないのと同じなのだとわかり、ちょっと見方が変わりました。それまでは「アイドルを目指してるのかな」くらいに思ってて(笑)。ああ、ごめんなさい(笑)。それからは歌の師匠と尊敬してるので“直リーダー”と呼んでます。