小森まなみ、最後のベストアルバムに込めた40年の思いのすべて “マイクオフ”を控えた今を語る

小森まなみ、“マイクオフ”のすべて

親と大ゲンカして日芸に入ったところから私の運命が変わった

――小森さんの楽曲には、元気をくれる応援ソングが多い印象があります。小森さんの青春時代、ご自身を元気にしてくれたものは何でしたか? 

小森:音楽です。高校ではフォークソング研究会に入り、うまくないんですがアコースティックギターを弾いていました。大学時代は佐野元春さん、伊藤銀次さん、杉真理さんなどナイアガラ系サウンドが大好きで、愛犬には佐野元春さんの『Heart Beat』にちなんで“ハービーちゃん”と名づけました。伊藤銀次さんとは駆け出しDJの頃、ラジオ『サタデーナイトクラッビング』(HBCラジオ)でご一緒させていただいてうれしかったですね。毎週銀次さんの視野の広さと深さに感動してました。

 あと、直接元気をもらっていた曲は杉真理さんの「Key Station」です。私はラジオパーソナリティーとしてデビューした後たくさんレギュラー番組をいただくのですが、一生懸命に話しても「下手くそ! やめちまえ」の大バッシングで。しょんぼりしたまま、生放送の前には必ず放送局のレコード室に入ってこの曲を聴いてました。ひとしきり聴いて泣いてよっしゃ頑張るぞ! と元気をもらうんです。だいじょうぶひとりじゃないよと語りかける優しい声……私もこんなラジオをしたいと心から思いました。

 そうそう、辻仁成さんが書いてくださったメロディに私が歌詞をつけた「ハートのKey Station」という楽曲はこの時の思いがあります。

――小森さんと言えば、『3×3 EYES』『魔法のプリンセス ミンキーモモ』『おジャ魔女どれみ♯』など多くの人気作品の主題歌なども担当されています。「【Disc3】DREAM -キャラクターコレクション-」では、そういったキャラクターに関連する楽曲が収録されています。印象に残っている作品にまつわるエピソードがあれば教えてください。

小森:どの楽曲も大好きなんですが、故・岡崎律子さんとの出会いになった『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の主題歌「夢見るハート」は忘れられないですね。アニメ総監督の湯山邦彦さんがレコーディングでも「ここはこんな風に歌って」と細かく指導してくださったんですが、同じようにその場で作詞の岡崎律子さんにも「この歌詞はもう少しこんな感じに」と。スタジオの片隅で私たちふたり、モモちゃんの世界観を表現しようと語り合いました。そこから岡崎さんと仲良くなり、ゲストに来ていただいたり、文通したり(笑)。ゲーム『3×3 EYES』のエンディングテーマ「Holy Eyes-君の夢はぼくの夢-」も二人で作りました。とても愛された曲で今回のリクエストでも上位でした。もちろんファイナルベストに収録されてます。

――「【Disc4】JEWEL-プレシャスコレクション-」には、ラジオのトークを収録しています。アニラジの火付け役のおひとりである小森さんらしいアイデアですが、どうしてこういったトラックを収録しようと思ったのか、収録にあたってこだわった部分などあれば教えてください。

小森:アルバムで同じ楽曲が流れるにしても、間をDJがつなぐとより楽しいですよね。リクエストの中にも私のトークが聴きたいという声が少なくなかったし、キングさん的にも同じ考えでいて下さって。

 私はもともとラジオ番組が作りたくて日芸(日本大学芸術学部)の放送学科で学んでいるので、構成するディレクターの視点とおしゃべりで表現するパーソナリティの両方を持っています。今回のDisc4のラジオは、ゼロから構築したのでその意味でもやりがいがありました。ディレクターの小森は「ラストはきちんと自分の言葉でマイクオフの理由を話しなさい」と指令を出すのだけれど、パーソナリティの小森はお別れが近づくにつれて胸がドキドキして……淋しさとありがとうでいっぱいになり、やっぱりラジオが大好きなんだ、って全身が叫んでるみたいでした。4枚目のCDは、涙あふれるファイナルディスクになりました。

――小森さんにとってのラジオの思い出や、今小森さんにとってラジオとはどういうものなのか教えてください。

小森:ラジオは私そのものです。受験勉強中に聴いたラジオの深夜放送に感動して「この世界が作りたい」と、親と大ゲンカして日芸に入ったところから私の運命が変わったんです。それから40年以上、大好きなラジオと歌、声優、執筆……ずっと言葉の世界で歩くことができて本当にしあわせでした。

 ラジオは人と人を結ぶ温かいメディアです。有事の際には大事な情報の発信地になるし、平時にはそこに安心するいつもの声がある。これ大事なことだと思うんです。AMが停波になるというニュースで胸がざわめきましたが、よく考えると私自身「短波」「AM」「FM」と3種類の波でレギュラー番組を持たせていただていて、大きな違いはなかったことを思い出しました。

 ワイドFMへ移行してもAMラジオの文化は保ったまま、ずっとラジオの良さは続くと信じています。

小森まなみ
小森まなみ

――「JEWEL~君と歩いた青春〜」は小森さんが作詞をされています。どんな思いを込めて作詞をしたのか教えてください。

小森:どうやったら大好きなリスナーさんや仲間たちと歩いてきた40年を技術的に表現できるのか考えました。単なるお別れソングにはしたくなかったので、お別れの言葉は一切使わず「ありがとう」と「さようなら」を表現したかった。そこで、まず歌詞に私の曲のタイトルとフレーズをちりばめました。あの曲一緒に歌ったな、あのフレーズ覚えてる! そんなことを思い出してもらえたら、一緒に過ごした証になりますものね。どれが入っているか、楽しくチェックしてみてくださいね。

 それから、今つらい人を励ましたかったので岡崎律子さんと私のひみつの合言葉「小さくファイトしよう」も歌詞にしました。

 曲のはじめとおしまいにでてくるのが「マイク」です。こちらラジオパーソナリティや声優、歌手だけじゃなく、日々使う携帯電話のマイクも意味してるんですよ。マイクはどんな時代も人と人をつないでいる。皆さんのマイクの向こうの大事な人のことも感じてもらえたらと思いモチーフにしました。

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