香取慎吾と寺山修司、“表現者としての宿命”への共鳴 自分と他者と世界へ問いかけ続ける姿の重なり

 多くの人から注目を集める存在でありながら、圧倒的に“個”を見つめ続けてきたことでも似ているふたり。物語では、様々なものが混ざり合う象徴として“蚊”がキーキャラクターとして登場するが、まさに彼らはそれぞれが生きた時代の渦と、個が混ざり合うことで育まれた唯一無二の存在だ。

 だが、シンバルが音を鳴らした直後には静寂が待っているように、生み出せば生み出すほど、人は孤独と直面するものだ。創り出されたものは、どうやったって自分自身のなかから生まれたものでしかなく、その絶対的な現実と向き合っているようで、どこか虚構を創り出しているのではないかというジレンマもつきまとう。

 言葉にした時点で、自分のフィルターを通したという想像や理想が含まれたフィクションになってしまう。そこに含まれた嘘こそが真実だというアイロニー。劇中では、心の奥底から母の愛を求め、その母の像に涙を流しながらも「台本通り」なんて言い放つシーンがあったが、その姿はプライベートをあまり表に見せない香取が“くろうさぎ”という心の闇の象徴をアート作品として描き続けていくさまとも重なるように思えた。

 だからだろうか、舞台挨拶では香取の口から「寺山修司じゃなくなる時もあったり、時には香取慎吾だったりするような気もします」との発言も飛び出した。もちろん、そこには脚本を務めた池田亮による“当て書き”もあったというが、それ以上に「僕から慎吾さんにこれをやってもらえますか、という“質問”に台本がなっているような気がします」という話も。

 自分に、他者に、世界に、問いかけ続けるということ。そして、想像力をふくらませること。それこそが生きている者にしかできない創作であり、夢とも言える。もし香取と寺山が同じ時代を生きていたとしたら、もし彼らが顔を合わせることができたとしたら、どんな言葉が交わされ、どんな作品が生まれただろうか。この舞台もまた私たちに問いかける。

 そして、寺山の死を描いたこの舞台の稽古中に、奇しくも寺山がこの世を去った年齢になった香取。寺山が作詞を手掛けた劇中歌「質問」も、実は3年ほど前から音楽プロデューサーの朝妻一郎、テレビプロデューサーの黒木彰一を通じて「いつか歌えたら」と温められていたものだという。こうした偶然を引き寄せてしまうのも、表現者としての宿命だろうか。

 
 
 
 
 
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