SymaG×ナナホシ管弦楽団、信頼関係が生むガラパゴス的な音楽 カロンズベカラズの進化を聞く

 歌い手・SymaGとボカロP・ナナホシ管弦楽団による音楽ユニット・カロンズベカラズの1stアルバム『Sprout』が1月24日にリリースされた。

BABYLON / カロンズベカラズ

 2022年夏より活動を始め、これまでに複数のシングルやEP『曲者』をリリース。そんな
彼らの初のフルアルバムとなる今作は、一言で言えば非常にバラエティに富んだ楽曲が揃
う、まさに変幻自在の1枚と呼ぶに相応しい作品だ。

 今回作品のリリースと、同月から初の全国行脚も行う彼らにインタビュー。今作
制作の逸話から、ユニットの現在地点についてなど。相棒であると同時に正面
から“殴り合い”、独自の関係性を築く二人ならではの言葉で、様々なエピソードを語って
もらった。(曽我美なつめ)

洒脱かつドープに、より幅を広げたカロンズベカラズを

カロンズベカラズ

ーー今回のアルバムですが、制作自体はいつ頃から始まっていたんでしょう。

ナナホシ管弦楽団(Gt/Cho):「天使の分け前」が出来た辺りかな。去年5月にあった写真家の国府田利光さんの個展に足を運んで、その頃にはもうアルバムの話が出ていたような気がします。

ーー「天使の分け前」も国府田さんの作品からインスパイアされたそうですし、今作もその個展の影響が大きいと仰られてましたね。

SymaG (Vo):「Sprout」って「芽吹く」「芽を出す」みたいな意味なんですけど、内側から外側に向かっていくイメージというか。なので僕らの意識的にも、より外側に向けて開いていった感覚が制作の中でありましたね。

ナナホシ管弦楽団:去年8月のワンマンの「SOIL」、「土」とか「土壌」って意味のタイトルも、元はこの「Spout」の前段階として出てきたものというか。

SymaG:ここで咲くためにはちょっと種蒔いとかなあかんな、みたいな流れやった気がします。

ーー今回はユニット初のフルアルバムですが、全体感としてまず曲のテイストの多彩さが非常に印象的で。前作のEP『曲者』からも一部楽曲が収録されていますね。

ナナホシ管弦楽団:「娑婆駄馬」は僕らの名刺代わりの1曲なので絶対必要だろうと。「残光」は当初アルバムのテイストから少し毛色が外れるかな、と思ったんですけど、ラグビーチームNECグリーンロケッツ東葛さんのプロモーションビデオに起用いただいたこともあって収録しました。結果的に全体感を見ても上手くハマってくれた気はしますね。「こういうのも1曲あっていいかな」というか。

SymaG:「HitBit」も元々「曲者」でもわりと異色な曲……それこそ曲者でしたけど(笑)。違う意味で幅を広げてくれるかな、という意図も込めての収録でした。「クリエイター募集」企画のMVの投稿もあったし。

ーー「名刺代わりの1曲」でいくと、「カロンズベカラズ」の収録にはならなかったんですね。

ナナホシ管弦楽団:スピード感がある和モノで「病葉」とテイストが近かったので、幅を広げるという意味では今回あえて入れなかった感じです。

ーーそれらに新録曲が複数加わった形ですが、個人的にはオープニングナンバーの「BABYLON」や「Oh well」~「くらませて吉祥寺」の流れから“洒脱さ”を感じたというか。前回の「曲者」にはない空気感を感じるポイントにはなりました。

ナナホシ管弦楽団:「BABYLON」が当初1曲目に来ると思ってなかったので、あまり開幕の雰囲気を意識したわけじゃなかったんですけど(笑)。デモ自体はかなり初期からありましたが、一番最初に完成したのは「くらませて吉祥寺」で。前作の「曲者」のテイストの幅がこれぐらい、「くらませて吉祥寺」がそこから飛び出したこのへんなら、その間に位置するような曲もできるな、という感覚で。

くらませて吉祥寺/カロンズベカラズ

ーー重ねて本取材の写真撮影も吉祥寺でしたが、楽曲でこの場所をピックアップした経緯というか、思い入れ的なものもあるんでしょうか。

SymaG:少し前に事務所が吉祥寺になったんですよ。5月頃の移転作業の時、まだ荷物もないから新事務所の床に座ってみんなで飯を食いながら喋ってたんですよね。たぶんその時の会話をモチーフにして、先生が膨らませたんじゃないかと(笑)。

ナナホシ管弦楽団:学生の時ってこんな部屋やったやんな、みたいな話をぼやっとしてて。ワンルームでベッドがあって、網戸が開いていて線路が走っていて。自分の学生時代の情景を持ち込んだというか。

SymaG:かなり美化されてる気はしますけどね(笑)。

ナナホシ管弦楽団:モチーフを気取った街にしたくなかったんですよ。心地好い雑多さがある街が良かったので、そういう意味でも吉祥寺という場所がベストやったかなと思います。オシャレであり、下町感も残ってる、みたいな。

ーーお二人それぞれが制作中に一番手ごたえを感じたのはどの曲なんでしょう。

SymaG:やっぱり「BABYLON」じゃないですかね。さっきもあった洒脱感……「曲者」にはなかった雰囲気を一番押し出せて、かつカロンズベカラズの要素が詰まってる感じもあったので。またひとつ新しい所に行けたというか。

ナナホシ管弦楽団:僕は「Oh well」ですかね。一番力んでない自然体で出来た曲だと思います。こういう力の抜き方も今後ありだな、っていう気づきもありましたね。アルバム全体の流れも「BABYLON」からファンタジー・空想に舵を切っているのが、「Oh well」でガッと現実に戻される気がして。そこからの「くらませて吉祥寺」なので、ポジションとしても良い所に収まってますね。

ーーファンタジーでいくと、それこそ「病葉」はマンガ「兄だったモノ」のモチーフソングでもあります。今作はサウンドこそ変幻自在ですが、歌詞は空想と現実を行き来しつつも、一貫してオリエンタルな匂いを感じていて。ナナホシさんが普段様々な楽曲提供・制作を行う中で、ユニット・カロンズベカラズらしさをそこに置いたようにも感じたんですが。

ナナホシ管弦楽団:特に意識はしてないつもりですが……台詞回しとか言葉選び、みたいな部分ではカロンズベカラズらしさの意識はあるのかな。

SymaG:僕が歌うからっていうイメージとか、そこでワードチョイスは変わってくるかもしれないですね。

ナナホシ管弦楽団:ああ、そうですね。“カロンズベカラズとはSymaG”ですね(笑)。SymaGさんの声から引っ張って来たワードで構成されるのはあるかもしれないです。

SymaG:僕はナナホシ先生が作った曲をどれだけ増幅させて、より解像度を高められるかにすべてを賭けているので。なので、僕は“カロンズベカラズとはナナホシ管弦楽団”だと思ってるんですけど(笑)。

ナナホシ管弦楽団:お互いがユニットの概念を擦り付け合っている(笑)。 

ーー以前、お二人が曲作りをドッジボールに例えたお話を拝見したことがあって。それが今ふと頭をよぎりました。

ナナホシ管弦楽団:ドッジボールですね。思ったより強い球返って来たな、みたいな(笑)。

SymaG:別に二人とも喧嘩をしてるわけではないので(笑)。より良いものを作る意思は揃ってるので、ちょうどいい感じの“殴り合い”なんじゃないかな。

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