V.W.P、5人の魔女が音楽と共に届けた壮大な物語 Vシンガーのライブ体験を更新する圧巻のステージ
第三部は、5人がそれぞれゲストアーティストを迎えて1曲ずつコラボレーションする“ヴァーサス”。一番手は幸祜と、KAMITSUBAKI STUDIO所属の越境型フィメールシンガー・CIELによる本邦初披露の楽曲「此処で咲かせて」。どこかダークで重々しさを感じさせながらも流麗なサウンドに、力強くて美しい二重唱が響き渡る。
続いては理芽とシンガーソングライター/ボカロPのGuianoによる「絵画のように美しくいたかった」。2023年にリリースされた2人の連名アルバム『imagine』からの1曲だ。上段ステージに登場したGuianoは、軽やかにステップを踏みながらエモーショナルに歌い上げ、理芽もそれに応えて熱っぽく返す。
そしてヰ世界情緒はバーチャルガールズグループのVALISと一緒に新曲「異世界転調リクヱスト」をパフォーマンス。VALISと混ざって6人で息を合わせて踊りながら歌う姿が愛らしい。しなやかな動きと甘い歌声が媚薬のようにファンを魅了する。
さらに春猿火は男性シンガーの梓川と共に「friction」を歌い、疾走感溢れる楽曲に乗せて熱気溢れるボーカルをぶつけ合う。ラストは花譜が存流と明透によるバーチャルシンガーユニット・Albemuthを迎えて、新曲「千年奏者」を披露。壮大なシンフォニックロックと3人の透明感に満ちた歌声の組み合わせが新たな可能性を描き出していた。
コラボ相手はいずれもKAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティストで、同レーベルの層の厚さを改めて感じさせると共に、Guianoや梓川といったリアルアーティストとのステージ上での共演もまた、「現実」と「仮想」を繋ぐうえで重要な演目だったように思う。
そして魔女たちの「パーティーを始めよう」という声と共に幕を開けたのが、第4部の“THE PARTY”。まずは女性ダンサーたちによるダンスパフォーマンスが披露されると(BGMにはV.W.Pメンバー関連曲のリミックスが使われていた)、続いて下段ステージのLEDスクリーンにV.W.Pの5人と、メンバーそれぞれの音楽的同位体(「CeVIO AI」とのコラボ―ションで生まれた音声合成ソフトウェア)によって結成されたグループ「V.I.P(Virtual Isotope Phenomenon)」、そして上段ステージにはVALISが今度はオリジンと呼ばれる実体の姿で登場し(VALISはアバターとオリジンを使い分けてバーチャルとリアルの二軸で活動している)、新曲「プロトコール」と音楽的同位体のために制作された「機械の声」を披露。ノリの良いダンスナンバーの前者、実体のない存在が歌うことの悲哀とそれを肯定する優しさに満ちた後者(特に花譜が〈大好きだ 大好きだ 僕は機械の声が好きだ〉と感情むき出しで歌うくだりは感動的だった)、どちらも音楽的同位体を含む総勢15名でパフォーマンスされたわけだが(VALISはダンスのみで歌は残りの10名で歌っていた)、5人のバーチャルシンガーによる生歌と、彼女たちの歌声をベースに作られた音声合成ソフトによる機械の歌声、ステージ下のLEDスクリーンの中で歌う10人と、その上のステージで生身の体で踊るVALISの5人――「仮想」と「現実」が色々な形で交差した圧倒的な光景に、バーチャルとリアルの境界を超えた瞬間を感じたのは自分だけではなかったはずだ。
ここから「SINKA LIVE SERIES」の物語はさらなる核心に向けて深化していく。第五部「覚醒1」は、建設中のメタバース「神椿市」にまつわる魔女たちのモノローグを導入に厳かにスタートする。このブロックでは、まず5人の魔女たちが1人ずつ登場し、これまでの「SINKA LIVE SERIES」でのバーチャルライブの映像を背にしながらソロ曲を披露。“EP. 0”から“EP. 4”までの物語を回想しながら、“EP. 5”となる本ライブのメインストーリーへと繋いでいくような趣向だ。ヰ世界情緒が繊細さと芯の強さを併せ持ったボーカルを聴かせる「描き続けた君へ」を皮切りに、理芽のイノセントボイスが心に刺さる「百年」、幸祜の力強いハイトーンが願いのように遠く響いた「ゲンフウケイ」、春猿火らしい抑揚の効いた表現がドラマを描く「身空歌」、花譜の全身全霊をぶつけるような歌声が感動と喝采を呼んだ「邂逅」。いずれも各自のバーチャルライブでも歌われた楽曲で、その思い出が自然と呼び起こされる。
そして各々のライブで鍵を入手して集結した5人は、ここから本公演で初披露となる魔女特殊歌唱用形態“八咫烏”を身に纏い、全員で新曲「花束」をパフォーマンス。16ビートの躍動感あるリズムと明暗が混ざり合ったようなドラマチックな曲調、途中で別の楽曲になったかのように急変する組曲的な構成、不安を越えて希望を見出すような歌詞など、これまでの物語を経て新しいステージに進んだような印象を与えるナンバーだ。さらにMCで「カンザキさんに作っていただいたあの楽曲たちを新たな試みでお届けします」(春猿火)と告げると、なんと「祭壇」と「言霊」をマッシュアップした楽曲「祭霊」を歌唱。スモーク演出が幻想的な景色を作り出すなか、V.W.Pが活動初期から歌ってきた2曲が新たな形で表現される。
ここでライブは最後のブロックとなる第六部「覚醒2」へ。怒涛の新曲ラッシュで観測者たちを熱狂させる。「同盟」はV.W.P史上もっともポップ路線に振り切った楽曲と言えるかもしれない煌びやかなダンスポップチューン。ユーロダンス系の懐かしいフレイバーも感じさせつつ、エネルギッシュに駆け抜けていくようなアレンジ、ディスコ風の振り付け、コール&レスポンスがしやすいコーラスパートなど、ライブで盛り上がる要素が満載で、実際にこの日が初披露だったにも関わらず、客席は沸きに沸いていた。続く「強気」は、ゴリッとした質感のアップテンポなロックナンバーで、“やれやれ”といったフレーズがやさぐれたかっこよさだけでなく愛嬌も感じさせる。そして春猿火がセンターポジションで歌った「感情」。5人によるラップパートや「万歳!」のフレーズでみんなでバンザイして飛び跳ねる見せ場もありつつ、終盤に向けての高揚感が感情を爆発させる。そこからヰ世界情緒がセンターの鋭いロックチューン「切札」を畳みかけ、バンドメンバーの紹介もしながらラストスパートを突っ走る。
その後のMCでは、メンバーからファンに向けて1人ずつ感謝のメッセージを伝えるも、ほぼ全員が感極まって涙声に。そしてこの日のライブを締め括るラストナンバーは、V.W.Pの始まりの楽曲でもある「魔女(真)」。この楽曲のみスマホでの撮影がOKとなり、両サイドのLEDスクリーンにはライブ配信で観覧している人たちのコメントも表示され、現地組と配信組の気持ちも一体になっていく。楽曲が始まると同時にステージからはシャボン玉が噴出されて、大きな月が浮かぶ映像演出と合わさって神秘的で美しい空間が広がっていく。そしてそれぞれまったく違う色の個性を有した魔女たちによる、魔法のような歌声。「仮想」も「現実」も含め不安定で寄る辺ない世界において、自らの存在を証明する歌の力、音楽の力が、そこにあることを確かに感じられるフィナーレだった。
合計32曲、3時間半にもおよぶ長大なライブだったが、振り返るとあっという間の出来事だったように感じる。それは演者たちのパフォーマンスの素晴らしさが大前提としてありつつ、きっと「仮想」と「現実」を行き交うようなステージ演出やストーリーラインの組み立てがあまりにも鮮やかで、まるで映画や物語の中に没入しているような体験だったからなんだと思う。今やバーチャルシンガーやVTuberのライブは珍しいものではなくなったが、会場の規模やスケール感も込みで、ここまで完成度の高いライブ体験はそうはないはずだ。その意味ではV.W.PおよびKAMITSUBAKI STUDIOの真価に触れることができたように感じるし、今後も続く「SINKA LIVE SERIES」でさらなる進化が期待できそうだ。
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