島谷ひとみ×山本加津彦、『PEACE STOCK』に込めた願い 音楽で未来へ広げていく平和の輪

島谷ひとみ×山本加津彦 対談

「島谷さんの新しい歌声の良さを出したかった」(山本)

――山本さんが今回の楽曲制作で一番こだわった部分は?

山本:島谷さんとHIPPYさんが歌うということですね。僕の中で「島谷さんの音楽を作るなら、こういう島谷ひとみ像だ」っていうのがあったんですよ。

――それはどういうものですか?

山本:島谷さんとお会いしたら歌声も人柄も印象が全然違ったんです。周りのサウンドに負けないように声を張って出していてビブラートも強め、民謡のイメージもあるから少し堅い印象っていうのがもともとあったんですけど、今回の歌録りのときに「そこはビブラートなしでお願いします」とディレクションしたりしていて。あと、これまではボーカル1本で、声を重ねるイメージがなかったんですけど、島谷さんのウィスパーを重ねるのもいいなと思っていたので、今回やってもらったんです。たぶん今までの島谷さんの歌声と趣が違うと思います。

島谷:そう。アップデートしてもらった感じがすごくありました。声の明るさの種類とか。声質もそうだし、歌うときの気持ちとか。柔らかく遠くまで響くような感じはあまり意識したことがなかったから、「山本さん、ものすごく分析してくださっているな」と思いました。

山本:「広島 愛の川プロジェクト」では子どもたちと一緒に歌うから、あまりクセをつけずに歌ってもらうんですが、「島谷さんってこういう曲をこういう風に歌ったらこんなに素敵な声が出るんだ」「イメージと全然違う。めちゃめちゃいい」っていう発見が僕の中であったので、その島谷さんを出したいと思っていたんです。だから声の処理の仕方も、エンジニアさんは当初、今までの島谷さんのようにしようとしていたんですけど、下の音を足したりとか細かくこだわって。ここから10年先に聴いても飽きないような、島谷さんの新しい歌声の良さを出したかったんですよね。

――今回の歌詞は3人の共作になっています。ベースは山本さんが書かれたそうですが、島谷さんが入れた言葉は?

島谷:山本さんの仮詞もすごく素敵だったんですけど、ちゃんと私たちの伝えたい言葉とか思いとか、曲を聴いたインスピレーションを1回書きたいということで、3人それぞれに1曲分書いて、それをミックスしたんです。

山本:だから大変だったんですよ(笑)。お二人がめちゃくちゃ真剣に書いたものなのに不採用になる部分が出てくるわけじゃないですか。その作業を僕にやってくれと言われて、めちゃくちゃプレッシャーだなって(笑)。

島谷:それは、だって、山本さんの仕事だから(笑)。

山本:しかも、どちらもいいんですよ。これはこれでイケる、こっちもいいって。だから、最後は「僕はこう思うので、ここはこうしていいですか」って相談しながら作りました。

島谷:大まかに言うと歌詞の1番はHIPPYの思いを汲んでくれて、2番は私の方っていう感じかな。

――最後に出てくる〈守ろう地球〉というフレーズは?

島谷:それは私です。〈響け願い〉とか〈守ろう地球〉というのは、私の訴えの言葉ですね。私たちって地球に住んでいるのに、自分たちで痛めつけていると思っていて。地球温暖化と言われたり、氷河期が来るって言われたり、いろんなところで悲しい戦いがあったり、災害が起こったり、今は地球が怒ってるんじゃないかという思いがあって。いやいや大事にしようよって。みんなが地球という球をアタックして投げ合うんじゃなくて、もうちょっとやわらかくトスしよう、みたいな。この『PEACE STOCK』というコンテンツは、広島だけじゃなくて全国、そして海外に発信していけたらという思いもあったので、こういう言葉が出たんじゃないかと思います。

山本:ただ、曲を作っているときにフェスは始まってなかったですからね。当日、フェスで聴いて、自分が思っていたイメージとぴったりだったから良かったです。

島谷:今回、この曲をフェスで歌うのは間に合わなかったんです。でも、テーマソングなのでフェスの最初と最後に流して。あと、花火をこの曲に合わせて打ち上げました。花火は鎮魂の願いが込められたものだし、火薬の使い方の違いをアピールしていきたいんです。平和に使う火薬と戦争に使う火薬は、意味合いが全然違うんだっていう。メッセージの伝え方っていろいろあるよね? っていうのが伝わればいいなと思ってます。

山本:それであんなに上げたんですね。1000発くらい?

島谷:10分で1000発上げました(笑)。このフェスは私たちの思いに賛同してくれた方が手を貸してくださっていて、花火師さんは福岡の方なんですけど、最初は400発くらいで話してたんです。そしたら「任せてください。僕の思いを花火で打ち上げさせてください」っていうことで、あれだけ打ち上げてもらったんです。花火が上がったときに歓声が上がったし、この曲でみんなが高揚しているのをすごく感じて。バラードとかしっとりした曲で感動したり、涙ぽろぽろっていうのはありますけど、盛り上がりながら泣いたり、感動したって言ってもらえるんですよ。これはすごいことだなって。楽曲の力を感じましたね。

「『PEACE STOCK』が世界共通語になってくれたらいい」(島谷)

――当日を振り返るとどんな1日になりましたか?

島谷:感動する1日でした。初回だったので忙しさの大変さはあったんです。いろんな段取りがあるし、司会もやったから、自分のステージのことを考えてなかったっていうくらい、他のことでバタバタしていて。でも、始まったときにもうゴールじゃないかっていうくらいの涙を流して(笑)。ステージからの景色を見て、みんながこんなに協力して集まってくれたと思っての号泣でした。

――観客はどれくらい集まったんですか?

島谷:約1万人集まりました。この景色をちゃんと噛みしめようと思って1日過ごして。最後は私だけじゃなくてスタッフもみんな泣いてました。みなさんが感動したって言ってくださったのが印象的で。いろいろ不手際な部分もあったんですけど、伝えたいことは伝えられたなっていうか、受け取ってくださった感があったんで、成功だったなってすごく手応えを感じています。

――このフェスは2024年、長崎での開催が発表されています。

島谷:はい、長崎でやります。2024年は東京も考えてますし、もちろん広島も考えてます。

――そして、その先も考えている。

島谷:今、目標を10年と言ってるんです。「88」までやりたいなって。10年経ったら私、いくつなんだろう……? っていうこともありつつ(笑)。

――このフェス自体が大きなバトンとなって受け継がれていけばいいですね。

島谷:そう。このコンテンツが羽ばたいてくれて、「ピースストック」とか「ピースアクション」みたいな言葉が世界共通語になってくれたらいいなって。

山本:そういうことを想定している曲なので、合唱用の譜面とか、いろいろな楽器が加わったときの準備をもう始めてるんです。例えば東京でやるときは、この団体に演奏してもらうのはどうだろうとか。

――このテーマソングが一人歩きして、フェス以外でも演奏される機会が増えていくといいですね。ご当地の吹奏楽団に演奏してもらったりとか。

山本:そういう作りにしている曲だから、その地域の人がこの曲に参加していって、各土地でいろんなバージョンが作れたらいいなと思っています。

島谷:ライブ発信はアリですよね。それぞれの街の色が曲に反映されると嬉しい。

山本:そのためにいろんなパターンの譜面を用意しておいて、音を出してくれればちゃんと合わさりますっていうようにしておこうと思ってます。

島谷:フェスを作るにあたり、学生のボランティアをはじめ、協力してくださった若者たちがたくさんいて。今回は叶わなかったんですけど、最後に全員ステージに上げて、ステージからの景色を見せてあげたかったんです。ステージに上がって一緒に歌ったら、その人たちはスタッフでもあり演者にもなるわけだから、思い出に深く刻まれるだろうなって。そのためにもこういうテーマソングが絶対必要だと思っていました。次回、長崎からはそれを実現したいし、そうして平和の輪が少しずつ広がっていくことを願っています。

『PEACE STOCK / ナガレボシ / HAPPY DAYS』

◾️リリース情報
HIPPY & HITOMI
『PEACE STOCK / ナガレボシ / HAPPY DAYS』
2023年12月24日(日)発売
AI.R LAND RECORD/AILCD-5005/¥2,000(税込)

島谷ひとみ公式サイト
PEACE STOCK公式サイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる