小山田壮平、音楽との関係性を信じる気持ち andymori時代から変化した聴き手への意識
衝動や怒りに任せていた時期も 精査を重ねた丁寧な曲作りへ
――なんで聴き手のことを意識するようになったんでしょう?
小山田:やりたい放題に、衝動や怒りに任せていたような表現もしてきた中で、「曲を聴いて元気になりました」とか「いつも通勤する時に聴いてます」って言ってくれる人がいて、自分の手を離れて音楽が聴かれているということを考えるようになりました。そもそも自分も音楽に助けられてきた人間ですし。そういうことを重ねる中で、曲を聴いてくれている人たちのことを意識する心境になりました。
――andymoriの楽曲には、混沌や混乱をそのまま出したような曲もありましたよね。
小山田:うん。曲を作ることが自己表現であり、「その後は知らん」みたいな気持ちがあったのかもしれない。衝動って曲を作るときの源でもあるから大事なんですが、衝動だけで生きているわけではないし、後から振り返ると悔いが残ることも多かったんです。出しっぱなしっていうか。どんな感情で出会っても自分が納得できるような作品を作りたいっていう気持ちも生まれてきて。だから、すごく細部までこだわって丁寧に作るようになりました。 当たり前のように悩んだりしながら生きているっていう部分も含めて、作品として表現したいって思ってます。
――何を考えているかわからない得体の知れなさみたいなものはなくなりましたよね。
小山田:そうですね。あえて真意がわからないようにしたり、煙に巻こうっていう考えもありました。昔の曲に対して「純粋な音楽だった」とか「若さの音楽」って言われることもあるんですが、衝動的ではあるけれど純粋とはまた違うと思うんです。それに、andymoriを始めた時は24歳で、いろんなことを考えてましたから。
――作為や天邪鬼なところもあったという。
小山田:そう、作為もあったし、天邪鬼でもあるっていうところが見えるから、自分ではちょっと恥ずかしくて聴けない楽曲も多いんです。 でも、20年、30年経っても、今回のアルバムはちゃんと聴けるだろうなと思います。
――曲作りの向き合い方が大きく変わったってことですよね。
小山田:そうですね。やっぱりすごく精査するようにはなりました。環境的に自分のペースで作れるようになったのも大きいとは思います。昔は「世の中に自分の才能を知らしめてやろう」っていう野心に溢れてもいて、その気持ちは消え去ることはないと思うんですけど。
――時間を重ねることで、小山田さんの曲を聴いているっていう声はどんどん届くようになってると思うんですが、例えばずっとライブにお客さんがしっかり来てくれることへの感謝の気持ちはありますか?
小山田:それはすごくあります。この間、スーパーに行ったら、4~5歳くらいの男女の子どもがすごく仲良さそうに歩いてて、顔は全然似てないし同じ歳くらいだから「友達同士なんだろうな」と思って見てたら、男の子のお母さんがよくライブに来てくれる人だったんです。それで話して、「あの二人は将来結婚するって言ってるんです」って言ってて。実際、その男女は大はしゃぎしてるんですよ。あと、「『ゆうちゃん』を子どもが好きでよく聴いてます」って言ってくれて、「ありがとう!」って言って握手して別れました。そういう出来事があると、自分の音楽を通じて出会った人の生活や人生のことを考えるんですよね。感謝の気持ちが湧くし、「共同体として繋がっているんだな」って思います。
――その気持ちと「音楽を大事にしよう」っていう気持ちは繋がってる気がしますよね。
小山田:そうですね。これだけいろいろな音楽がある中で、自分の曲を聴いてくれてるってすごいなと思います。この間、中国でライブをしたんですけど、そこでも聴いてくれている人たちがいて。上海で300人ぐらい集まってくれたんですが、8割くらいの人が歌詞だけじゃなく、日本語を喋ってくれていたんです。ライブ中に「頑張れ!」とか「名曲ばっかやないか!」っていう声が飛んできて(笑)。
――しかも関西弁なんですね(笑)。
小山田:そう。「どっからきたんだ?」って思って(笑)。そうやって国境を越えて自分の音楽が鳴っていることに対してこの上ない喜びを感じます。
国外での活動や他者から得られる原動力
――そうやって国境を越えて音楽を楽しむ小山田さんの姿はアルバムに入っている「マジカルダンサー」でも描かれてますよね。
小山田:そう。2018年にネパールに行った時に、同じ福岡出身のダンサーと出会ったんです。この歌詞の通り、出会ってすぐに盆踊りを始めるようなエネルギーのある人で。僕は踊るのがちょっと恥ずかしいんですよ。ギターがあったり、家でひとりでいるときは踊っているんだけど、それ以外の時に人前で踊るのは恥ずかしい。でもそのダンサーが、「そんなかっこよく踊れなくてもよくて、自分の好きなように踊ればいいんだよ」っていうバイブスを出してる人で。その人と一緒にいたのが、インド人のロイくんで、二人は兄弟みたいな関係性で、二人と出会ったことで自分の心が解放された。その出会いへの感謝の歌です。
――音楽や踊りっていう言語を超えて繋がり合えるものへの喜びや感謝が詰まっているアルバムですよね。
小山田:そうなんです。1枚を通して、楽しんで聴けるものがいいと思ったので詰め込んでいきました。それで、自分のできる範囲でバリエーションのあるものを選んだつもりです。
――「コナーラクへ」は19歳の頃に作った曲ということですが、andymoriのアルバムにも入れず、取っておいたっていうことなんでしょうか?
小山田:忘れていたっていう方が近いです。1回ラジオでこの曲を弾き語りしたことがあるんですが、それがYouTubeにアップロードされていて、存在を思い出しました。僕の父親もすごく好きな曲なんですよね。たぶんバンドを組む前に聴かせてたんでしょうね。その時は今の形にはなってなくて、24~25歳の頃に加筆して完成しました。それで、何回かアルバムに収録する候補にはなっていたんですが、自分の感覚からするととても単純な構成で「なんか面白くないな」って思ってたんじゃないですかね。それが突然、「いい曲だな」っていう気持ちになって、今回のアルバムにも合うんじゃないかと思って入れました。
――インドのコナーラクに行った時の曲ですかね? 最初に生まれた時から20年くらい経ってるわけですが、何か変化は感じますか?
小山田:そうですね。東インドにあるコナーラクのスーリヤ寺院っていう聖地に自転車で向かっている時の情景をそのまま書きました。その場で他の旅人のみんなにも曲を聴かせて、帰国後に「あの曲良かったよ」とか「君が帰った後もずっと口ずさんでたよ」っていうメールをもらったりしたので思い出深い曲です。でも、今この曲を書ける気はしないですね。だいぶ若々しい感覚の曲です。
「こんなに自信をもって出せたアルバムはこれまでない」
――ソロ活動を始めた頃からある「サイン」も入っていて、改めてすごく良い曲だと思いました。これはどういう時にできた曲なんでしょう?
小山田:これも2018年に久々のインド旅行から帰ってきた時に、自分の今の暮らしや周りの人たちのことに思いを巡らして、人生の儚さを意識しながらも、「その先にある何かに向かっていってるんじゃないかな」って思って書いた曲です。人生は1回きりだけど、幻のようにただ消え去るものではなくて、何かに繋がっていくようなものがあるっていう願いを込めて書いた記憶があります。
――「サイン」と「君に届かないメッセージ」は、人に思いが伝わる/伝わらないということや、人と人との結びつきを歌っている2曲だと思いました。
小山田:うん、そうですね。どっちも別れを意識した曲です。楽しくてぶち上がるようなものも音楽の良さだし、自分のすごく深いところにある感覚を呼び覚ましてくれるものでもある。そういうものが伝わるアルバムになっていればいいなって思います。
――そういうアルバムだと思います。「サイン」は本当に音楽やメロディがなかったら気づかなかったであろう気持ちを感じさせてくれる曲だと思いました。
小山田:あ、そうですね、歌詞にも〈忘れないでいてね〉ってありますけど。人によって幸せなポイントって違うと思うんですが、僕は一番幸せ度が高いところに音楽が入ってくるんです。酔っぱらって最高の気分になったら歌いたくなったり、音楽を聴きたくなったりする性質で。だから、音楽というのが自分の生きた証でもあって、「サイン」もそういうことを歌ってますね。
――日常の幸せな出来事には音楽が付随していることが多いというか。
小山田:そうですね。そういう時間を音楽という形で残そうとする。なぜそれを残しているのかはわからないんですけど。ただ音楽が好きなだけだったら、曲として残さず即興だけでいいような気もするんですよね。それだけでも楽しいし、悩んだり苦しんだりしなくてもいいし。ミュージシャンって全然効率的な仕事じゃないと思うんです。でも、作品を残したいっていう気持ちが強くあるのは「何のためなんだろう?」って思う。ゴッホは「100年経っても残るようなものを描きたい」っていう言葉を残していて、死後100年後に自分の絵がそこに存在していることに意義を感じていたみたいなんですけど、その気持ちってわかりそうでわからなくて。僕はもうちょっと享楽的な人間というか、「今が楽しきゃいいじゃん」「死んだ後のことは知らない」っていう気持ちもあったりして。「いい作品を残したい」っていうことにここまでこだわるのは、何かしら自分の生きている証を残すことでメッセージを発信してるんじゃないかなと思ったりします。
――良い作品を作れば受け手が喜んでいることを知っているのは大きいんじゃないでしょうか。
小山田:確かにそうですね。でも、はっきり言って「ここを変えても誰も気づかないだろう」みたいなことまで異様にこだわるんですよね。それをやらないと「やってしまった!」ってずっと後悔し続けるので、そうなりたくないっていうことなんですけど。でも、こんなに自信をもって出せたアルバムはこれまでないんですよね。それぐらい「大丈夫だ」って思っているアルバムです。
※1:https://realsound.jp/2020/08/post-607953.html
■アルバム情報
小山田壮平
2ndアルバム『時をかけるメロディー』
2024年1月17日(水)リリース
配信:https://jvcmusic.lnk.to/amelodythatfliesbeyondtime
①初回限定盤(2CD):4,400円(税込)
②通常盤(CD):3,300円(税込)
③VICTOR ONLINE STORE限定セット(初回限定盤+オリジナルTシャツ):7,150円(税込)
<収録内容>
1. コナーラクへ
2. マジカルダンサー
3. アルティッチョの夜
4. サイン
5. 時をかけるメロディー
6. 月光荘
7. 彼女のジャズマスター
8. それは風のように
9. 恋はマーブルの海へ
10. 汽笛
11. 君に届かないメッセージ
12. スライディングギター
<初回限定盤収録ライブCD>
『弾き語りツアー2022(LINE CUBE SHIBUYA / 名古屋 CLUB QUATTRO)』
1. ゆうちゃん
2. 革命
3. ローヌの岸辺
4. 君に届かないメッセージ
5. アルティッチョの夜
6. 16
■アナログ盤リリース情報
小山田壮平『時をかけるメロディー』
2024年3月20日(水)リリース
アナログ盤(LP):4,400円(税込)
仕様:12inchレコード1枚組/ブラックヴァイナル/歌詞カード封入
予約ページ:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VIJL-60329.html
<収録内容>
A面:
1. コナーラクへ
2. マジカルダンサー
3. アルティッチョの夜
4. サイン
5.時をかけるメロディー
6. 月光荘
B面
1. 彼女のジャズマスター
2. 恋はマーブルの海へ
3. それは風のように
4. 汽笛
5. 君に届かないメッセージ
6. スライディングギター
■ライブ映像情報
小山田壮平『OYAMADA SOHEI LIVE 2022 2023』
2023年10月18日(水)発売
2DVD:6,600円(税込)
購入ページ:https://lnk.to/OyamadaSohei_live2022-2023
<収録内容>
[DISC1]
『弾き語りツアー2022(LINE CUBE SHIBUYA / 名古屋 CLUB QUATTRO)』
1. 投げKISSをあげるよ
2. 革命
3. 1984
4. それは風のように
5. ゆうちゃん
6. 遠くへ行きたい
7. 16
8. 輝く飛行船
9. ローヌの岸辺
10. 恋はマーブルの海へ
11. アルティッチョの夜
12. FULL OF LOVE
13. サイン
14. 君に届かないメッセージ
15. 夕暮れのハイ
16. Sunrise & Sunset
[DISC2]
『バンドツアー2023 (LINE CUBE SHIBUYA)』
1. 夕暮れのハイ
2. 彼女のジャズマスター
3. Life Is Party
4. サイン
5. スライディングギター
6. Kapachino
7. 雨の散歩道
8. 恋はマーブルの海へ
9. ベロべロックンローラー
10. スランプは底なし
11. ダンス
12. 旅に出るならどこまでも
13. グロリアス軽トラ
14. 時をかけるメロディー
15. 1984
16. 16
17. アルティッチョの夜