FLYING KIDS、2024年を生きる確かな希望 出会いと別れを重ねたからこそ沁みる「じゃーね」

 FLYING KIDSが2024年のシングル第1弾「じゃーね」を1月10日に配信した。再会を約束する挨拶がタイトルとは思わせぶりだし、昨年10月の配信シングル「REFLEX ACTION」からわずか3カ月足らずでのリリースに、今年のやる気を感じさせる。

 もちろん2007年の再結成後もマイペースで精力的に活動してきている。FLYING KIDSはアマチュアバンドのオーディション番組『平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS)で初代グランドキングとなり大きな注目を集め、1990年にシングル『幸せであるように』でデビューしてから今年で34年。2025年4月にはメジャーデビュー35周年を迎える。そんな節目を前に、浜崎貴司(Vo)はいろいろ思惑を巡らせているらしい。昨年11月にビルボードライブ東京で開催した『「FunKでしか言えない本当のことがある」〜第2回チキチキ還暦だヨ!全員集合!〜』終演後に雑談した際に「来年は、いろいろやろうと思っているんですよ」と言っていた。その第1弾が「じゃーね」になるようだ。

 この前に配信リリースしたシングル「REFLEX ACTION」を私は彼らのマイルストーンと書いた(※1)。デビュー以来模索し続けてきた新たな日本語ファンクという道を確かに歩んできた印になっていると思ったからだ。そんな一つの達成感といったものを感じさせる力強いファンクチューンから、次へのマイルストーンに向けて進み続けていることの証となるのが「じゃーね」。ひとつ荷物を降ろして身軽になって足取り軽く進み出す、といった趣きの曲だ。メロウなソウルナンバーを浜崎とElli(Vo)が伸びやかに歌っているところは、よく言えばダイアナ・ロスとマーヴィン・ゲイがデュエットでカバーしたフィリーソウルの名曲「You Are Everything」に通じるものがあると言えなくもないだろうか。

 これを浜崎と共同で作曲した伏島和雄(Ba)は「合唱できたり、複数人で歌えるような、シンプルなメロディのエバーグリーンな曲を作りたいなと思い、浜ちゃんにデモテープを渡したところ、『じゃーね』となって返って来ました」とコメントを寄せている。コーラスやシンガロングできるような曲という伏島の狙いを受けて、浜崎は誰もが口にするワード「じゃーね」を選んだ。ごくありふれた日常で特に深い想いもなく、友達や恋人や家族にも、ちょっと体を横に向けながら「じゃーね」と言う。それは今夜や明日にでもまた会うからだし、別れの言葉という意識はほとんどない。ただしばらく離れるだけ。そんな気持ちから出る言葉だろう。

 けれど「じゃーね」と言いたくない時もある。この「じゃーね」を聴いて、そう思った。アニメーションを使ったリリックビデオには都会で暮らす若いカップルが描かれる。80年代TVドラマみたいなシチュエーションを想像するが、何度も「じゃーね」と言い交わしてきたけれど、もう言い交わさなくていい間柄になりたいんだ、との思いがあるのかもしれない。一緒に暮らしたら「じゃーね」と言い交わさず、話の続きをずっとしていられる。そんな幸せの扉を叩いているように思える。デビュー曲「幸せであるように」を自らのアンセムとして歌ってきた浜崎、そしてFLYING KIDSだ。幸せの通過点として「じゃーね」の先を見るのは当然だろう。数え切れないほど「じゃーね」と言い交わし、その先を一緒に見ようと誓い合う。幸せは間違いなくやってくるだろう。

LYING KIDS - じゃーね (Lyric Video)

 だが、「じゃーね」と言うのはそんなシーンだけとは限らない。私はちょっと辛い話を思い出した。朝いつものように出かけるときに「行ってきます」と言えなかった。そのまま会えなくなった。あるいは「行ってらっしゃい」と言ったのに「お帰り」と言えないままになってしまった。新年早々の能登半島地震、翌日の羽田空港の航空機火災。言葉を交わし続けることができなくなった人がいる。それを思うと本当に心が痛む。そうした災害や事故だけでなく、日常の脆さは誰しも思うことだ。「じゃーね」と言うとき、今より少しだけちゃんと向き合うべきなのかもしれない。

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