ハルカミライ、心の穴を埋める音楽 普通の1日をドラマティックに彩った2度目の武道館

 ハルカミライが、日本武道館での単独公演『A CRATER』を2023年12月21日に開催した。彼らが日本武道館で単独公演を行うのは、2023年の2月1日以来2度目。普段ライブハウスを拠点に活動しているバンドが1年に2度も日本武道館に立つこと自体珍しく、感心すると同時に、多くのファンが「どのようなライブを見せてくれるのか」と楽しみにしていたことだろう。

 そんな期待の渦巻く武道館で、ライブが始まってすぐに橋本学(Vo)が言った。「いつも通り。いつも通りの超普通な日を、特別な日にして帰ります」ーーその言葉通り、この日の武道館では、いつも通り、ステージに寝っ転がってみたり、曲が始まっているのに小松謙太(Dr/Cho)がドラムから離れてステージ上を動き回ったり、関大地(Gt/Cho)と須藤俊(Ba/Cho)がドラムセットになだれ込んだり、かと思えばステージに腰掛けて優しくフロアを見渡したり。日本武道館という会場に気負うことなく、ヨーロービルの一室でのライブのように、観客と一緒に歌い、観客の背中を押し続ける、そんなライブが行われた。

(写真=Taka_nekoze photo)

 舞台は会場中央に用意され、周りをぐるりと観客が囲む360度センターステージ。天井からは小さな電球がいくつも繋げられ、まるでサーカス小屋のようなセットが、ライブのスタートを今か今かと待ち構える。開演時刻になると、ステージへと続くレッドカーペットに、大きなフラッグを手にした小松を先頭にメンバーが堂々と登場する。最後に橋本がステージにたどり着くと大きな声で「ありがとう、日本武道館」と言い、バンドは前回公演と同じく「君にしか」でライブの幕を開けた。1曲目からさっそく盛大なシンガロングが響き渡る様は圧巻。観客はみんな、ハルカミライのライブを“観に”きているのではなく、“体感しに”きている。

 2曲目「カントリーロード」の曲間で「いらっしゃい!」と観客に声をかける橋本。「2回目の武道館。もう2回目だから……余裕。もう寝れる(笑)」と2度目の武道館に挨拶しながら、おもむろにステージに寝っ転がってみせる。

橋本学(写真=小杉歩)

 話しながらそのまま歌になだれ込んだり、言葉のように歌詞のフレーズを発したりする橋本のボーカルに、思わず引き込まれる。どこまでが歌詞で、どこからがアレンジなのかの境界線が曖昧で、だからこそ、彼が何を言うのか、一挙手一投足までも気になってしまう。そこが、ハルカミライが多くのファンを魅了する一つの要因でもあるのだけれど、つまりそれはハルカミライの楽曲の歌詞が、普段から橋本が思っていることと相違がないことの大きな証明でもある。

 中盤、「裸足になれるはず」の曲中に橋本が、静かに「『今だけ全部忘れろー!』みたいなMC、よくあるでしょ?」と語り始める。「でも俺はそう思わなくて。どうしても避けられない、やらなきゃいけないこととか、不安とか、あるやつがこの中にきっといるんだよ。それでいいと思ってる。抱えたまんまで、引きずったまんまで、音楽聴きゃそれでいいと思ってる。寒波だって? すげえ寒いんだろ、今日とか明日とか。めちゃくちゃ寒い中を、ときには超土砂降りの中を、ときには晴れすぎてかんかん照りすぎて暑い中を、俺たちは歩いていこう」と続けると、そのまま〈何でも出来ると思った事など/一度も無いけど私は生きてる〉とアカペラで歌い始め、バンドは演奏を再開。そして〈何でも出来ると思った事など無いけど/私は自由に私を歩めるの〉と最後まで歌い終えたあと、橋本は自身の足元に目をやり「靴紐がほどけた」と靴紐を結ぶ。そして〈結び直しながら 俺たちは何度も何度も歩き直せるの〉と、歌詞にはない言葉を歌って同曲を結んだ。

小松謙太(写真=小杉歩)

 MCでは「発表があります」と一度場内をざわつかせておきながら、翌日に小松が教習所の卒業検定を控えていることを発表し、場内から温かな応援の声が贈られる一幕も。また「この中で今、教習所通っているやついる?」と、客席とのコミュニケーションも取りながら進めていくアットホームさもまたいつも通り。

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