気鋭の女性シンガーやUKロック勢の充実、新世代フェス台頭……2023年の来日公演を総括
『SONICMANIA』と『NEX_FEST』に感じた「新世代のフェスティバル像」
ついに復活を果たした『LOUD PARK』や『KNOTFEST JAPAN』、『METAMORPHOSE』を筆頭に、今年は例年以上にさまざまな音楽フェスティバルが開催された1年だったが、個人的に特に興味深かったのは、そうした群雄割拠の状況の中で新たな意味が提示されていたように感じられた8月の『SONICMANIA』、そして11月に初開催された『NEX_FEST 2023』である。
従来はあくまで「サマソニの前夜祭」としてロックとダンスの中間を狙ったラインナップという印象を抱くことの多かった『SONICMANIA』は、今年は「サマソニ本編のMOUNTAIN STAGEのヘッドライナーを流用しない」という判断を含め大胆に方向性を変え、エッジすら感じさせるほどのダンスミュージックフェスティバルへと変貌を遂げた。特に印象的だったのはAutechre、ジェイムス・ブレイク、シャイガール、ムラ・マサというUKのダンスミュージックの歴史を辿りつつ、まさに「今」のシーンの活況を捉えたラインナップが集結していたことであり、まるで現地の熱狂が直送されたかのような興奮が早朝まで幕張メッセを踊らせ続けていたのである(特に午前3時台の出演にも関わらず、ピンクパンサレス&アイス・スパイス「Boy's a Liar Pt. 2」などを次々と投下してフロアを大いに盛り上げたムラ・マサは個人的な今年のベストアクトだ)。
一方で、現在のラウドシーンを代表するバンドとなったBring Me The Horizonが主催するという時点でスペシャルな存在感を発揮していた『NEX_FEST 2023』は、自身やBABYMETALを中心としたラインナップが組まれたことによって、まさに新時代のラウド/メタルフェスティバルを定義したともいえる画期的な試みであったように思う(なにせ、キャリアで言えばマキシマム ザ ホルモンがラインナップにおいて断トツでベテランなのだ)。メインステージ(NEX_STAGE)のトップバッターとして登場したYOASOBIが驚異的な親和性を発揮し、VMOやKrueltyが壮絶な轟音を響かせ、I Prevailやヤングブラッドがアリーナを盛大に盛り上げ、ついに実現した「Kingslayer ft. BABYMETAL」の生演奏が最高のクライマックスを演出した同フェスティバルとその熱狂(東京公演は見事にソールドアウトしていた)は、まさにデスコアからハイパーポップまで全てを飲み込みながら進化を続けるBMTHという存在と、そんな彼らの感覚に今のオーディエンスが強く共振しているという事実を、シーンに対して強烈に叩きつけていたのではないだろうか。
ダンスミュージックとラウド/メタルという、まるで異なる音楽性が中心となっている『SONICMANIA』と『NEX_FEST』だが、その異質な存在感と現場における凄まじい熱狂は、可能であれば今年限りではなく、来年以降も続いてほしいと切に願いたいほどにフレッシュで強烈な体験だった。
数年前とはガラリと変わった来日公演を取り巻く状況
さて、これで本文を締めくくりたいと思うが、冒頭で書いたようにこれはあくまで筆者の個人的な視点から見た総括であり、決して絶対的なものではない。その上でテキストを続けると、本稿を書いている中でふと思い出したのが、数年前、例えばチャンス・ザ・ラッパー、ザ・ウィークエンドの初来日が実現した時や、ケンドリック・ラマーの『フジロック』のヘッドライナー出演が決まった時のような、叶わないと思っていた願いが届いたかのような喜びと、果たして動員が十分に埋まるのだろうかという懸念が同居する感覚を、すっかり抱かなくなったということである。
少なくとも、本稿で紹介したようなライブの多くは(筆者が行った範囲では)ソールドアウトしており、そうでなくても非常に多くの観客が集まっていた。今年の『SUMMER SONIC』のチケットが歴代史上最速でソールドアウトしたのも、現在の洋楽シーンがかつてない需要に溢れていることを象徴した出来事だったように思う(5年前の『サマソニ』の動員が不安視されていたのが、もはや懐かしい)。もちろん、その背景にはインバウンド需要を含むさまざまな要因があり、単純に「日本の洋楽人気が上がった」と言えるわけではなかったりもするわけだが、少なくとも余計な心配をする機会は激減した。ビヨンセの『Renaissance World Tour』が日本に来るのかといった由々しき問題は残っているのだが、少なくとも数年前のようなほぼ諦めに近いような感覚は、今はもうない。
これが良いか悪いかでいえば、少なくとも個人的には「良いに決まっている」と言いたい。「あまりにも首都圏にライブが固まりすぎている」「チケットの値上がりが凄い」といった意見はあると思うが、ひとまずはスタートラインにいるのだ。今、最も心配するべきことは、ライブの動員ではなく、貯金の残高と時間の確保に他ならない。来年もブルーノ・マーズ、テイラー・スウィフト、ジャネット・ジャクソンから、Wilco、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、スティーヴ・レイシーなど錚々たるラインナップが来日を控えている。そして、今日もまた新たなチケットの発売日を迎えるのだ。
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