King Gnu、アルバムとしての統一性は成功したのか ポテンシャルと目指す場所のギャップ

 2023年の話題作のひとつに、King Gnuのニューアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』を挙げる人は少なくないだろう。破竹の勢いで活躍を続けてきたここ3年ほどのシングル曲を収めているという意味ですでに「鉄板」の作品と言えようが、わけても語り草になっているのが、アルバムとしての完成度の高さ。つまり、始まりから終わりまで「作品」としての統一感がある、ということだ。

 実際、インタールードや細やかな(ときに大幅な)リアレンジを通じて楽曲の世界を充分に広げつつ、没入感のある仕上がりにはなっている。その点に疑いはない。けれども、アルバムを聴いていると、部分部分で「結局のところ、これは成功しているのだろうか?」という疑問が浮かんできてしまう。

King Gnu - SPECIALZ

 たとえば、シングルから大きくアレンジが変更された「千両役者(ALBUM ver.)」「三文小説(ALBUM ver.)」の2曲。試み自体は興味深いが、効果的かというと疑問符がつく。「千両役者(ALBUM ver.)」はシングルバージョンと打って変わってダブステップを意識したハーフタイムのリズムパターンやベースラインが導入されている。けれども、ダブステップというジャンルの音響的な面白さは抜け落ちて、ある種のギミック的な意匠にとどまって聴こえるのが残念だ。

 また、トラックのなかでのベースの鳴りに加えて、16分音符単位でモジュレーションがかかったワブルベースの作り出すグルーヴが、同じく16分音符にはめた歌メロを必要以上に平板に響かせている。ひとつの効果として突き詰めれば面白いことになるだろうけれど、結局はシンセベースによるダイナミックなベースラインが登場してきたときのほうがピースがハマっている。結果として、スケール感はかえって縮減しているように思える。もっとスペクタクルになるポテンシャルを秘めた方向性であるのに。

King Gnu「千両役者(ALBUM ver.)」

 一方の「三文小説(ALBUM ver.)」は、シングルバージョンのスケール感を損なうことなく、アルバムの大団円を飾るにふさわしい壮大さを演出できている点で、King Gnuがサウンド面で目指すものがわかりやすく表れているように思う。とはいえ、前後に挿入されたインタールードの「仝」やアウトロの「ЯOЯЯIM」のほうがサウンドとして充実度は高く感じてしまう。ALBUM ver.として曲順のなかにはめ込まれたときに、曲の魅力が抑え込まれてしまったような気になる。

King Gnu「三文小説(ALBUM ver.)」

 アルバムとしての統一感のなかに、何かちぐはぐな印象が残る。『THE GREATEST UNKNOWN』はそんな作品だ。

 しいて今作からベストトラックを選ぶとしたら、「):阿修羅:(」だ。展開は大胆で、常田大希(Gt/Vo)の歌唱パートと井口理(Vo/Key)の歌唱パートの対比が見事。特に、ちょっとチージーなトラップ調の常田のパートに対比される、ドラムンベースやジャージークラブを借用した「外し」の効いた軽やかな井口パートの洒脱さが印象的だ。

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