King Gnu、ポピュラリティと挑戦の両立 トレンドや情緒との距離感から生まれる強力な個性

 King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』のコンセプトや制作体制については、メンバー自身が各誌のインタビューで具体的に述べている。

 例えば、常田大希(Gt/Vo)は、自分にとってはアーティストの一番大事なフォーマットはアルバムで、曲単位でなくアルバム単位でなければ伝わらないことを意識して構成していった点や、“当事者はあなたですよ”という見せ方をしたかったから、今回は鏡というものをキーにしたことを明かしている(※1)。また、収録曲については、これまでのキャリアで実績と信頼を積み重ねた結果、クリエイティブにおける自由と余裕を勝ち取れたこともあって、タイアップであろうがなかろうが同じように作ることができたと述べている(※2)。

 また、井口理(Vo/Key)が語る今作の位置づけとしては、『Tokyo Rendez-Vous』『Sympa』を経て、『CEREMONY』でインディオルタナティブから完全にJ-POPになったことに対するカウンターであり、原点回帰しつつ進化したアルバムになっているとのこと(※1)。新井和輝(Ba)曰く、個人スタジオができて各々の持ち場でひとりで制作を進めることが多くなった結果、内省的な雰囲気が生まれ、それがバンドの規模の拡大と同時になされた結果、曲としてはデカいのにすごく個人的だという矛盾感をうまく内包する作品が完成したという(※2)。

 以上の発言は、現在のシーンにおける今作の意義やKing Gnuの姿勢を申し分なくよく示している。というわけで、本稿ではそれらとは別の角度から、今作の成り立ちのすごさと面白さ、J-POPを通過した超メジャーなロックバンドでなければ作り得ないアルバムの魅力について掘り下げていきたい。 

J-POP流の歌メロを獲得したからこその“オルタナティブな音楽性”

 今作に関してよく話題になっているのが、主題歌やCMソングといったタイアップが13曲もあり(そうでない新曲は「IKAROS」のみだが、これも井口理が出演したウイスキーのCMを意識して作られたものだという/※2)、そこにインタールード/スキット的な小曲を7曲加えることで、完成度の高いコンセプトアルバムを組み上げてしまっていることだろう。各曲の音楽性はそれぞれ異なり、既発のシングル版を個別に聴くと雑多に思えるのだが、今回のアルバムにおいては違和感なく並んでいて、一つひとつの曲よりも全体としての居心地のほうが印象に残る。これは、ALBUM ver.として制作されたリアレンジの賜物でもあるわけだが、そもそもそれ以前に、近年のKing Gnuの楽曲がいずれも一貫した聴き心地を備えているのが大きいように思われる。

 『CEREMONY』期のKing Gnuは、歌謡曲やJ-POPの明快で情緒的なメロディを積極的に採用し、それを優れた演奏表現力で披露することにより大きな人気を集めてきた。そうした持ち味は『THE GREATEST UNKNOWN』収録曲にも引き継がれ、サウンドがどれだけ多彩になろうが良い意味で印象が変わらない部分になっている(様々なファッションを着こなしながらも“顔のよさ”は一貫しているというふうに)。その意味で、風通しよく綺麗な歌メロは音楽的な統一感を生む軸になっていて、それが同時に圧倒的な聴きやすさをもたらしてもいる。わかりやすさと音楽的挑戦の両立はポピュラー音楽の永遠の課題だが、King GnuはJ-POP流のメロディと入り組んだアレンジを掛け合わせることでこの難題を見事にクリアしているのだ。

 King Gnuのこのような音楽性は、歌メロがキャッチーだから、展開が複雑でもその場その場で惹きつけてしまえる効果を生んでいるわけだが、それは今作のまとまりの良さに少なからず貢献している。個々の曲の時点ですでに構成が入り組んでいて、どの曲にも甘くリッチな混沌が備わっているために、それらを集めてアルバム化しても混乱の度合いはあまり変わらず、違和感なく聴き続けることができる。そうした特性は、曲調の異なるタイアップ曲を並べて一つのアルバムとして成立させるような構成と非常に相性が良いし、バンド自身がそうした持ち味を意識的に活かしている場面さえある。例えば、優しく感傷的な「CHAMELEON」「DARE??」に続く「SPECIALZ」で急に暗転する序盤の流れなど。曲調の雑多さがアルバム全体の特異な居心地に繋がり、しかもそれらがとことん聴きやすく提供される『THE GREATEST UNKNOWN』は、J-POP流の歌メロを獲得したからこそ実現できたオルタナティブな音楽の傑作と言えるだろう。

King Gnu - SPECIALZ

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