色々な十字架、恵比寿LIQUIDROOMワンマンの快進撃 独自のユーモア溢れる“白サバト”を体感

 「有名な水族館の水を全部飲んだことがある」と、嘘か誠か真実は本人にしか分からないことを平気な顔で言うティンカーベル初野がtinkとしてエイプリールフールに企画として立ち上げたバンド、色々な十字架。正統派ヴィジュアル系の楽曲に倫理観のなさすぎる歌詞を乗せる奇妙な世界観が人気を呼び、活動開始から3年足らずで恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブ『☆えびす和紙の里で行う紙漉き体験☆』ができるまでに成長を遂げた。

 白サバト(ライブ)当日の11月21日は平日にも関わらず、ヴィジュアル系の音楽をこよなく愛するファンはもちろんのこと、色々な十字架を通してヴィジュアル系を知ったという人たちの姿も多く見られた。会場内に飾られた発注ミスかと見間違うほど画質が悪すぎるポスターや、関係者から贈られてきた色とりどりのフラワースタンドを横目で見ながらフロアへと辿り着く。

 すると、耳に入ってきたのは90年代を賑わせたヴィジュアル系楽曲の数々。さすが90’sヴィジュアル系リバイバルを謳っているバンドだけあって細かな部分まで徹底しているではないか。感心しているのも束の間、ナレーションと共にステージ全体を覆う紗幕にオープニング映像が映し出される。メンバーのシルエットが浮かび上がると「大きな大きなハンバーグ」の演奏が始まり、白サバトの幕開けを告げた。魅惑の音色を奏でるツインギター、抑揚の効いたリズム隊、これぞまさにヴィジュアル系というセンスを詰め込み、フロアを盛り上げていく。  

 彼らが作り上げる世界観に惹き込まれたのも束の間、このバンド何かがおかしい……ということに気づく。冒頭でも述べたが、tinkが描く歌詞の倫理観が崩壊しているのだ。彼らのライブは歌詞がスクリーンに映し出されるので何を歌っているのか一目瞭然だ。ここでは、耽美な世界観を提示しながらも〈めずらしい豆くれた近所のババァ〉や〈ガキがせっかく釣ったニジマス勝手に食う〉などと曲と整合性の取れない歌詞の内容でカオスな世界へと引きずり込んでいく。そのアンバランスさは次の「凍らしたヨーグルト」も同じだ。オリジナルのかき揚げが出てきたり、“ガキの基地”を壊したり、舟を盗んだり、最初は歌詞の内容にとまどいを隠せないが、聴き進めるうちにそれが普通となり、最後にはむしろ良いじゃないかと気持ちが変化していくのだから恐ろしい。そうして、あっという間に、しし者(色々な十字架ファンの愛称)の心を鷲掴みにしていく色々な十字架。

 新曲「スワロウテイル」は美しいメロディに泣かされた。対面での面接で感じた悲壮感を表している楽曲だけに、間奏で見せたギターソロは鋭さを覗かせながら後に続くtinkの歌声を引き立てていく。なお、この日は他にも新曲が用意されていた。寸劇始まりの「機械じかけの変態~ラケット女王様~」に続いて披露された「GTO(仮)」では、イントロからtacato(Gt)とkikato(Gt)が『太鼓の達人』専用コントローラーの太鼓をバチで連打する。misuji(Ba)とdagaki(Dr)は一輪車のサドルを手に、自分の体だけでペダルを漕ぐ。その横でtinkは「GTO! GTO!」と声高らかに場内を煽る。我々は一体何を見せられているのだ……とフロアに戦慄が走りながらも無我夢中で拳をあげる、しし者。気づけば「GTO!」の掛け声は「ヤンクミ!」と変化していく。テンションが高まったところで「終わりでーす」とtinkが告げて曲は終了した。曲中にサドルを使うバンドは今のところ色々な十字架しかいないだろう。

 この後にも新曲が披露されたのだが、正統派シューゲイザーの系譜を引きながらも色々な十字架らしく聴きやすさを目指した「第13セクターの子供達へ」は、今後かなりの人気曲になりそうな予感がした。そこからは定番曲が並び、しし者を楽しませていく。白サバト前半はいささか緊張した面持ちで演奏していたメンバーだが、「スイミーはそういうことではないです」辺りから一気に緊張が解けたのか、LIQUIDROOMでのステージングを満喫しているように見えた。それにしても衝撃的だったのは、表に飾ってあるフラワースタンドのひとつが、tinkが自腹(4万円)で出したものであるということがMC中に分かったことだ。色々な十字架から色々な十字架へ花を贈るとは、何ともシュールな光景。そうやって全力で白サバトを盛り上げようとする心意気は、素晴らしいとしか言いようがない。

 「続いてなんですが、我々が最初に作った曲で、いうなれば、我々の何かが狂い始めた、そんな曲です」との流れから、荘厳なイントロがフロアに漂う。企画として始まったバンドが最初に発表した楽曲「良いホームラン」は、冗談で始めたとは思えないほど完成度が高い。バンギャならお馴染みの振りである手扇子が似合う、それほどメロディアスな楽曲だ。また、“知らねぇババァの原付”を勝手に人に売ったり、“ちびっこ広場で遊ぶガキ”を泣かしてザコと呼んだりと、彼らのシュールな歌詞の原点もここにはふんだんに詰まっている。

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