ulma sound junction、“天邪鬼”な姿勢がもたらした新境地 アルバム『INVISIBRUISE』を語る

「今の我々の記録と言えるアルバムになったと思う」(田村)

――「Obsidian Sugar」は、トライバルなビートやギターの単音リフのエスニックな雰囲気が聴きどころだと思いました。

田村:そこは狙ったところでもありますね。

――「Lequeios」も印象に残ったのですが、Aメロとサビだけというulmaにしては極めてシンプルな構成が異色ですよね?

田村:ライブの幕開けに使える曲を、アルバムごとに一曲は持っておきたいと考えていて。そのために作った曲ではあるんですけど、今となってはライブの幕開けじゃなくても全然いいかなと思ってます。

加勢本:尺は短いですけど、詰め込みました。難易度で言ったらアルバムでもいちばんなんですよ(笑)。

――「Lequeios」はポルトガル語で琉球人を意味するそうですが、歌詞では郷土愛、沖縄愛を歌っていますね。

田村:バンド名から、僕らのことを沖縄出身だと思ってくれる人ってもちろんいると思うんですけど、何の情報も知らない人がこのアルバムを聴いてくれた時に、何かひとつ我々が沖縄出身なんだという自我みたいなものも少し残したかったんです。それで、歌詞とタイトルで沖縄らしさを出させてもらいました。

加勢本:曲は全然、沖縄っぽさはないですけどね。メタルコアみたいな曲だから(笑)。

田村:そうですね。ボーカルはちょっとオリエンタルなところがあるけど、それも沖縄っぽいかと言ったら違いますからね。

――「Patient of Echo」はネオサイケデリックなギターサウンドを含め、空間系の音像が新境地なのかなと思ったのですが、さっきおっしゃっていたように過去曲のリテイクだそうですね。

田村:特にギターの空間系のエフェクトは前々作から制作に参加してくれているレコーディングエンジニアの克哉くん(SLOTHREAT/Misanthropist)からのアイデアもあると思います。終盤のタッピングにフェイザーがかかっているけど、オリジナルはそこまでかかってなかったと思うんですよ。

山里: 15年前の音源とは違うものにしたいという話を克哉くんとして、そこは変えました。ただ、この曲がまとっている空気感は15年前からそんなに変わっていないですね。この曲を15年前に作った時に、バンドの新しい方向性が定まったという思い出があるんです。この曲で味を占めて、このバンドは長い曲をやり始めたんです。ここから沼にハマっていきました(笑)。

田村:オルタナとかプログレとか(笑)。

山里:それまではニューメタルとか、そっち系だったんですけど、この曲を作った時にいい曲を作れたと思えたし、バンド仲間からも評判がよかったんですよ。

加勢本:ライブでは結構やっていた曲ですけど、自主で作ったアルバムにしか入ってなかったから、今回リテイクして入れたんです。

田村:リスナーの方からも「あの曲の音源はないんですか?」って言われることも多くて。そういう曲は他にもあって、でもそれはそれでやっぱり長いこと活動している我々のまだ掘っていけるところだと思うので、今後小出しにしていけたらいいですね。

――では、今回、リテイクするにあたっては、オリジナルの曲が持っていた魅力を際立たせたわけですね。

山里:レコーディング環境が昔と今では全然違いますからね。かなりブラッシュアップできたと思います。

加勢本:リテイクしてよかったよね。

――バラードも2曲入っています。バラードはこれまでもやってきましたが、「Irreal」はボーカルとピアノだけという大胆なアレンジが聴きどころですね。

田村:こういうアレンジは初めてでした。「Irreal」ともう一曲のバラード「Welcome Back」はアレンジャーを迎えて、しっかり作りました。僕らが持っていないものをどんどん取り入れていきたいと思ったんです。

――「Welcome Back」はストリングスに加え、女性のコーラスも入っていて、これまでにない楽曲に仕上がりました。

田村:実は各メンバーの家族、友人、知人に歌ってもらったんです。メジャーレーベルからフルアルバムを出したというひとつのメモリアルとしてやってみてもいいんじゃないかという、アレンジャーの発案だったんです。曲としてもピースフルな曲なので、そんなふうにみんなで作り上げるという作り方は、ふさわしかったと思います。

――王道のバラードの方法論をulmaのサウンドに落とし込んだという印象でした。

田村:アレンジャーの力が大きかったと思います。僕らだけでは発想できなかった曲ですね。

――曲によってはアレンジャーを迎えるということも、今後どんどんやっていこうと?

田村:その力におんぶに抱っこはイヤなので、バンドメンバーで消化して、今後自分たちだけの力でできればいちばんいいんですけどね。それができるまでは、もしかしたら力を借りるかもしれません。新しい風を吹かせるという意味では、今回とてもいい機会だったと思います。

――そういう新境地も取り入れつつ、アルバムの最後を飾る10曲目の「Protopterus」はバンドの真骨頂と言える10分超えのプログレメタルナンバーで。

山里:作った時からアルバムの最後を飾る曲だと決めてました。

加勢本:途中で消さずに最後まで聴いてください、って思います(笑)。

――(笑)数え方にもよるんでしょうけど、11展開ぐらいしていますよね?

加勢本:してますね。

田村:テンポチェンジもそれぐらいしていると思います。我々を知っているバンドマンからよく言われるのは、「そのリフひとつで、もう一曲作れるから」って(笑)。そこも天邪鬼なんでしょうね。これまでもフルアルバムにはこういう長尺の楽曲をほぼ毎回入れているんですけど、「メジャーデビューして変わった」とは絶対に言われたくないという我々の気持ちを表すために入れた部分もありますね。

――そんな全10曲が揃った段階で『INVISIBRUISE』という、タイトルにもなっている“見えない痣”というテーマが導き出されてきたのでしょうか?

山里:「INVISIBLE」(見えない)と「BRUISE」(痣)を組み合わせた造語なんです。今までのアルバムは曲のカラーに合わせてタイトルを考えていたんですけど、今回はそうではなくて。子どもの時の火傷の痣って、大人になるにつれて広がっていくじゃないですか。僕ら4人、子どもの頃からの付き合いで、痣と同じようにバンドも歴が長くなってくるにつれて、ないがしろにしてきたり、なあなあにしてきたりしたことが段々と広がってきたんです。それで今回のアルバムを作るタイミングで、今後10年、20年続けていくためにしっかりと話し合いを持つ機会があって。自分のなかでもいろいろ思うことがあったので、それをジャケットのデザインとして表現してみたんです。その原案は、体に痣があって、いばらにも刺されていて、でも、自分を慈しんでいるというイメージを提案したら、デザイナーのhonmarinさんが今回のジャケットを作ってくれて、「なんだ、これは!?」「すごい!」と思いました。

――たしかに、山里さんが作ったイメージからこのジャケットの発想につながっていくのはすごいと思います。

山里:そうなんですよ。僕が考えたコンセプトを活かしつつ、タロットカードの「吊るされた男」をモチーフに加えてくれて。調べてみたら、「吊るされた男」には正位置の場合は「受難を静かに受け止める」という意味があるんですけど、それが逆位置になると「解放」という意味になる。自分が出したネガティブなイメージを「吊るされた男」というモチーフを加えることによって、そんなふうに変えてくれたんだと思ったら、少し救われた気がしたんです。ジャケットをひっくり返すと、男の人が「よし、行くか!」と歩き出そうとしているように見えませんか? 

田村:一年かけてレコーディングしてきましたからね。そのあいだにもいろいろあったんですよ、我々も人間なので(笑)。山里も言っていたようにつきあいが長い分、言わなくなる部分がどうしてもあって、それもよくないと思い、最近はミーティングの回数も増やしているんです。やっぱり言語化していかないと、わだかまりを残したままひきずっちゃうこともありますから。

 話し合いをしているなかで山里はそう解釈したってことなんですけど、ネガティブなアイデアがポジティブなものとして返ってきたうえで、タイトルとアートワークが全部一致して世に出せてよかったと思います。

山里:メジャーデビューも含め、仕切り直しという意味では、ちょうどいいタイミングだったんですよ。

田村:そういう意味でも、本当に今の我々の記録と言えるアルバムになったと思います。

ulma sound junction - ROAR (Official Music Video)

――『INVISIBRUISE』を聴いてあらためて思ったのが、ulmaはいい意味でひとりのスタープレイヤーがひっぱっているバンドではないということでした。つまり、4人それぞれの個性がどの曲にもちゃんと表れているということで。それぞれのプレイの聴きどころを教えてください。『Reiginition』の時、福里さんはブリッジミュートを練習したとおっしゃっていましたが。

福里:そうでしたね。その甲斐あって、今回はもうばっちり弾いてます(笑)。僕個人としては、このバンドにはギターがふたりいて、それぞれに得意なプレイがあるんですよ。普通であれば「そこは俺が弾くよな」と自分が思ってたパートを、今回は山里が「自分が弾く」って言ったんですよ。得意じゃないはずのパートを選んだから、「大丈夫かな?」と思いました。そういうところが聴きどころです。

加勢本:え、そこなの(笑)?

福里:正直、リズム感は僕のほうがいいと思うんです(笑)。でも、今回は山里がリズム感を求められるパートを選んだから。「Obsidian Sugar」のイントロだったり。でも、「Appetite」は逆の現象が起きてますね。「それ、俺が弾くんだ?」っていうところを弾かされたんですよ。どちらの曲もそれぞれのギタープレイを左右に振っているので、ぜひ聴き比べてみてほしいです。

――得意ではないプレイに挑戦した山里さんは?

山里:毎回面白い音色を使いたいんですけど、今回は「ROAR」のBメロのやたらエッジのきいたギャリッとしたギターの音は、たぶん自分のギターでしか出せないと思います。あのギターも十数年使っているせいか、ピックアップのハーフトーンを使うと、そこのポイントでしか絶対に出せない音があるんです。「ROAR」のレコーディングでスタジオに入っている時にかっこいいと思ったんですけど、今までどのアルバムでも使わなかった音色なんです。そこは聴いてほしいです。

加勢本:僕はタムを含め、使いたいドラムを使えたので、大満足でした。低音と生々しさがすごく出ている。「どの曲が」というのは難しいけど、全体的に迫力のある音になっていると思います。

田村:もちろん全曲、聴きどころなんですけど、ボーカルに特化したことで言うと、「Irreal」はほぼ1発録りなので、生々しさがすごく出ていると思います。2サビが終わるまでずっと録りっぱなしで、それをそのまま採用してもらったんです。自分としては発音がもう少し……と思う部分もあるんですけど、そのまま使いました。“非現実な”という意味のタイトルとは真逆ですけど、それもその時のリアルとして聴いてもらえたらうれしいです。

『INVISIBRUISE』

■リリース情報
『INVISIBRUISE』
発売中

定価 3,300円(税込)/KICS-4129
Music & Lyrics:ulma sound junction
M2のみ Music:ulma sound junction/Lyrics:Amon Hyashi , Hisao Tamura

<収録曲>
M1. Appetite
M2. ROAR(Invisibruise edition)
M3. Seizure
M4. Patient of Echo
M5. Welcome Back
M6. Lequeios
M7. Irreal
M8. Obsidian Sugar
M9. Kameroceras
M10. Protopterus

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