フジロック出演、最新曲「Dang」も話題に キャロライン・ポラチェックの“感性”に今ふれるべき理由

キャロライン・ポラチェックを観るべき理由

 コロナ禍を経て心身を縮こまらせていた反動なのか、ここ1年ほど、個人的に音楽のパフォーミングアーツとしての側面、すなわち、音楽に伴う肉体の活動を通じてどのように表現し演じるのか、ということに俄然関心を抱くようになった。そのきっかけとなったのが他でもない、2022年の『コーチェラ・フェスティバル』でのキャロライン・ポラチェックのアクトなのだ。

 2017年に前身デュオ・Chairliftの解散後、本格的にソロ活動を始めたポラチェック。Chairliftというと無骨なソングライティングにシンセサウンドを絡めた、良くも悪くもUSインディーポップ然とした素朴でそっけないイメージを持っていたのだが、彼女のソロでのパフォーマンスはまるで別物。ナンバー自体は歌モノだが、マイクを手にステージを練り歩き、エレクトロニックなサウンドとビートに合わせて手脚を独特にうねらせながら踊り歌うのである。しかも身体を強調したスキニーな衣装で。これまでのイメージを鮮やかに裏切って超然とした風格を放ち、しかしどこか人間臭く、それでいてとびきりエレガントな、全く新しいキャロライン・ポラチェック。今振り返るにそれは、シーンの話題を掻っ攫ったここ一年の前日譚だったというわけだ。今年リリースのアルバム『Desire, I Want To Turn Into You』は、ソロ名義4枚目(本名名義では2枚目)の作品なのだが、これが批評メディア他、一般のリスナーからもすこぶる評価が高くロングヒットが続いている(そして筆者にとっても個人的に今年1番好きなアルバムでもある)。

 『Desire, I Want To Turn Into You』は一つ前のソロ作から引き続きPC Music出身のプロデューサー、ダニー・L・ハールと共同制作したもので、サウンド的には彼女の盟友でもあったソフィーへのリスペクトも含んだ、ハイパーポップ的アレンジのアップテンポな歌モノアルバムだ。個人的に興味深いのは、そこにとりわけ肉体的なタフさを強く感じる点である。多くの曲で典型的なポップスの構成を採用せず、2ステップやブレイクビーツ、時にフラメンコギター、さらにはティンバランド(アリーヤのプロデュースでおなじみ)をイメージしたという反復する構成を意図的に用いたりすることで、解放的かつダンサブル、そして筋肉質な質感を作品にもたらしている。さらに、短く叩き込むようなパートと、オペラチックに絶唱するパートとが交互にやってくる彼女のボーカルにもまた、そうした自身の身体への挑戦を感じることができるだろう。

Caroline Polachek - Welcome To My Island [Official Music Video]
Caroline Polachek - Bunny is a Rider (Official Video)
Caroline Polachek - Smoke (Official Video)
Caroline Polachek - Billions (Official Video)

 この作品を携え今年の『FUJI ROCK FESTIVAL '23』に来日したポラチェック。SNSでも「ベストアクト」に挙げる声が非常に多くみられたのもまだ記憶に新しい。ただその熱狂は、先に挙げた『コーチェラ』がそうであったように、サウンドや楽曲そのものだけによるものではないようにも思う。彼女はソロになってからというもの、ステージデザインや衣装にも自ら関わることにも取り組んでいるそうで(※1)、ライブでの演出はもちろん、あらゆるビジュアルワークに一貫した美学 ── 過剰にプラスチックながらも、逆にそれがむしろ彼女自身の身体のシャープでタフな印象を際立たせるような ── 魅せ方を徹底している。ハイパーポップにタフさと洗練を宿した音楽の形をそのまま彼女自身の肉体が纏っているような、総合的なパフォーミングアートとしての音楽を生身の彼女が体現しているような……とでも言えば良いだろうか。

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