Superfly『下剋上球児』、藤井 風『いちばんすきな花』……意外なアプローチも見られる最新ドラマ主題歌

 2023年も10月となり、各局で秋のドラマの放送が始まった。そうなると気になってくるのがテーマ曲だ。今期もさまざまな主題歌が揃っているが、本記事ではその一部をピックアップしてレビューしたい。

Superfly「Ashes」(『下剋上球児』)

Superfly – Digital Single ”Ashes” Jacket Shooting Behind The Scenes (TBS系日曜劇場「下剋上球児」主題歌)

 まずは日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)の主題歌となっているSuperflyの「Ashes」。

 弱小野球部が甲子園を目指すこのドラマは、単なるスポーツものではなく、高校野球を通して現代社会の教育や地域、家族が抱える問題まで描いた“ドリームヒューマンエンターテインメント”。そんな作品にSuperflyが書き下ろしたこの曲は、サビで一気に景色が変わるような力強い構成のサウンドが印象的。Aメロの迷走するようなギターのリフ、低い位置をうごめくベース、Bメロの地を這うようなドラムロール。そこからサビでストリングスが華麗に飛び跳ねる、まさに“下剋上”と言うべき展開に、聴き終えると心が奮い立つような気持ちよさがある。

 歌詞は、ひと言で表すなら泥臭い。〈全部投げ出し遠くへ行こうか〉や〈やけくそでもいいでしょ〉といったように全体的に負の感情を帯びている。喉の不調により今年開催予定だったツアーの中止を余儀なくされたSuperflyにとって、こうしたネガティブな心情を掬い取ったメッセージは、非常にリアルだと言えるだろう。だが、そうしたマイナスのパワーを最終的にはしっかりとプラスへと変える力をこの曲には感じる。今のSuperflyだからこそ伝えられるものがこの曲には込められているのだ。

 そんなネガティブな感情が込められた歌詞は、Superflyがこれまでの楽曲で築き上げてきた、聴く者をエンパワーメントするようなアーティストイメージとはギャップがあるかもしれない。しかし、序盤の重苦しい雰囲気を、Superflyらしいパワフルな演奏と爽快感あるボーカルで跳ね除けるエネルギッシュな展開は、ドラマの物語に勢いを与えているのではないか。

藤井 風「花」(『いちばんすきな花』)

藤井 風「花」

 木曜劇場『いちばんすきな花』(フジテレビ系)は4人の男女による友情の物語。その主題歌として藤井 風が書き下ろした「花」は、一聴して穏やかなメロディに乗せて歌われる優しいボーカルが印象的な一曲。歌詞には花を題材とした彼らしい考え方が散りばめられており、聴いていると言葉が沁み渡ってくるような、詩的な美しさがある。

 プロデュースはイギリスのA. G. Cook。音そのものの響きを大切にしたこの曲のサウンドメイクは、結果的に藤井の発する言葉を引き立てている。海外プロデューサーの起用によってむしろ日本語が際立ち、言葉の力や語感の気持ちよさが増しているのだ。この品のある音作りによって、何度聴いても飽きが来ない、ドラマ主題歌に相応しい仕上がりとなっている。

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