チャーリー・プース、ポップミュージック愛が爆発した来日公演 生演奏の迫力でポジティブな空間に

 また、チャーリーの近作では、現代のリスナーの視聴環境やメインストリームの流れをしっかりと意識した、音数を絞って一つひとつの音の鳴りを聴かせるような音像や短めの再生時間(『CHARLIE』には2分台の楽曲も多く収録されている)が特徴だが、この日のライブでは音源を再現するのではなく、むしろ生演奏によって引き出されるバンドのアンサンブルや各楽器の魅力をしっかりと提示することに重きが置かれていたのも印象的だった。この日披露されたほとんどの楽曲はバンドアレンジによって演奏時間が長くなっており、各セクションの終わりにはドラム(「Attention」)、ギター(「Light Switch」)、キーボード(「Cheating On You」)、ベース(「Done For Me」)の各楽器陣によるソロタイムが用意されていた。冒頭から炸裂し、「Cheating On You」で披露されたチャーリー自身によるショルダーキーボードのソロも、まさにそうした試みの一つのように思える。

 また、ライブ中にチャーリーが何度も観客にシンガロングを促したように「観客の歌声」も、生演奏を構成する重要な要素の一つだ。ここまでの楽曲はもちろんのこと、後半のセクションでも、感情を絞り出すようなエモーショナルなメロディを誇る「That's Hilarious」や、掛け合いのようなコーラスが楽しい「Loser」など、つい歌いたくなるような楽曲が次々と披露され、(筆者を含め)観客は自然に口ずさんでいく。「Done For Me」では観客にサビのパートを任せて、チャーリー自身は原曲以上のハイトーンを歌い上げるという感動的な瞬間が訪れ、それはまるで自身が敬愛してやまない歴代のR&Bシンガーへのリスペクトを感じさせるような光景でもあった(開演前にはジャネット・ジャクソンやネリーといったアーティストの楽曲がBGMとして流れていた)。

 興味深かったのは、TikTokとの相性も抜群な、楽曲の隅々まで徹底的にキャッチーな要素を詰め込むチャーリーだからこそ、そうした「ライブならではの魅力」が遺憾なく発揮されるということだ。楽曲に収められた一つひとつの音色やメロディが、(観客の歌声を含む)生の演奏を通じて、音源だけでは知ることのできなかった、さまざまな美しい輝きを次々と放っていく。比較的若い層が多いように思えた観客(周りには「これが初めてのライブ」と語る人もいた)も、バンドが奏でるアンサンブルや各楽器のソロに歓声を送ったり、楽曲に合わせて手拍子をしたり、楽曲の歌メロやフレーズに合わせて歌ったりと、自然にライブならではの楽しみ方に入り込んでいく。それはTikTokのようなプラットフォームを入り口に、音楽の持つさまざまな魅力を味わわせることのできる、チャーリー・プースだからこそ実現可能な空間だったように感じられた。

 パンデミックの時期に迎えたスランプを、TikTokに自身の居場所を見出すことで乗り越えたというエピソードが象徴するように、チャーリー・プースは自分が感じたワクワクを他の人と一緒に分かち合うことに大きな喜びを感じる人物だ。そして、そのワクワクの源になるのは、自身が愛する音楽に他ならない。「Left and Right」で楽曲にぴったりのスネアドラムの音色が鳴った時や、「Dangerously」で美しいアップライトピアノの旋律を奏でた時に見せた嬉しそうな表情は、まるで初めて楽器に触った少年のような純粋さに満ちていた。自身の楽曲の制作プロセスを再現したり、観客を巻き込みながら生演奏を通して楽曲の魅力をさらに拡張してみせたこの日のライブの核となっていたのは、まさにチャーリーの中にある音楽への愛情と、それをみんなと共有したいという力強い想いだったのではないだろうか。

 おそらく、その試みは成功したように思える。熱烈なアンコールに応えて再びステージに登場したチャーリー・プースは、もはやどの曲を演奏しても凄まじい歓声が上がりそうなくらいにポジティブな空間を作り上げていた。そんな状況の中で披露された大ヒット曲「One Call Away」、さらに再びのアンコールに応えての「See You Again」の大合唱には、ヒット曲を聴くことができたという喜びだけではなく、何よりもこの場を作ってくれたチャーリーへの愛情と感謝の気持ちが強く込められているように感じられた。

 ライブを終えて、帰路につく中で考えていたのは、もしポップミュージックをマイケル・ジャクソンを王(キング)とする世界に例えるのであれば、チャーリー・プースは言わば、王を愛する吟遊詩人のような存在だということだ。これは優劣の話ではなく、王座にどっしりと座って圧倒的な存在感を発揮する姿よりも、街の人々と一緒になって無邪気に音楽を楽しむ姿の方が、彼にはよく似合っているのである。きっと今回のライブに参加した誰もが、今までよりももっと音楽そのものを好きになったのではないだろうか。

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