Chevon、文学とボカロをルーツに持つ新進気鋭の注目バンド 「音楽は最後の砦」鮮烈な言葉に込められたエゴと願望

自分が生きている意味を、その人を通じて見出したい

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ーーでは、最新曲「ノックブーツ」についてお聞きします。この曲はテレビドラマ『●●ちゃん』の主題歌として書き下ろされたものですね。

谷絹:オファーをいただき、原作やドラマ化に向けての資料などを読ませてもらってから曲を作りました。最初に送ったデモは、「性」に対する割とネガティブな側面に焦点を当てた歌詞だったのですが、それはちょっとドラマの世界観とはイメージが違うということで3日後のレコーディングに向けて、歌詞もメロディもアレンジも全て一から書き直すという……。ちょうどその方向性を変えようと決まった時に、3人で集まっていたからすぐ曲作りに取り掛かることができましたが、もしそうじゃなかったらと思うと怖いですね(笑)。で、そこからたった数時間で今のバージョンを完成させたのは、我ながら頑張ったなと思います。

 増田有華さんが演じるドラマの主人公・史恵は、「性」に対してポジティブというか、開放的な考え方を持っているんです。そんな彼女の目線で描いた、私自身は全く共感できない完全なフィクションというか(笑)。こんなふうに原作の世界観を掘り下げながら、それを歌詞に落とし込んでいくのはChevonとして初めての試みでした。

ーー韻の踏み方もユニークだし、ダブルミーニングもたくさん散りばめていて。

谷絹:そういうの、やりたいタイプの人間なんです(笑)。文章として気持ちいい語感と気持ちいいリズム。それこそ和歌とか俳句に端を発し、普通に長い文章でも「こことここが押韻していて、それがこの段落と対照になっているから読んでいてスッと入ってくる」みたいな仕掛けが大好きなんですよ。難解なことが書いてあっても、リズムの気持ちよさでスッと入ってくるような文章。もちろんラップ的な韻の踏み方も大好きなのですが、私がやっているのはどちらかというと押韻に近いのかもしれないです。

ーーしかもこういう官能的な内容の歌詞だと、ダブルミーニングや押韻がより効果的に効いてきますよね(笑)。

谷絹:確かにそうですね(笑)。「エロ過ぎる」というか、直接的に表現し過ぎるのはChevonっぽくないよねという話は3人でしていました。これまでのChevonのレパートリーにちゃんと収まりつつ、ドラマの主題歌としても成立させるためには、こういう歌詞の表現がベストだなと。スキャットで歌っている部分を「(自主規制)」と表現しているのもそう。本当は、この部分でいちばんエロいことを言っているし、やっているんですよ(笑)。そこをスキャットにして、聴き手の想像力に委ねるという。今、おっしゃっていただいたように、「エロ」ではなく「官能的」な歌詞になっているのは、そういう工夫をしたからだと思っています。

ーー以前のインタビューで「売れたい」とおっしゃっていました。今は「売れる」といってもいろんな定義があると思うのですが、Chevonにとっての「売れる」とはどういう状態のこと?

谷絹:「自分たちがやりたいことを、やりたいだけ出来る環境を手にする」のが、私にとっての「売れる」ということなのかもしれないです。私が「救えたかもしれない」「幸せにできたかもしれない」人たちが、私のことを知らないまま不幸になったり、不幸でいたりするようなことがないようにしたくて。そのために、より多くの人に知ってもらう努力をしなければと思っています。今年になってTikTokを始めてみたのもそう。もちろん、「お金がほしい」「音楽で食べていきたい」「楽しいからこのまま続けたい」という気持ちもありますけどね(笑)。

ーー「だれかを救いたい」「誰かを幸せにしたい」という思いが根底にあるのですね。

谷絹:私自身がすごく病みやすい人間なのですが、病み方には段階があるんですよ。まだ軽傷の時はSNSに吐き出したり、誰かに愚痴ったりして助けを求めているんですけど、重症になると一人で閉じこもっちゃうんですよね。「今から死にます」とかツイートして助けに来られたら困るので。

 そういう時でも音楽は、「最後の砦」として機能することもあるんじゃないかと私は思っていて。その人が言葉で言い表すことのできなかった心のモヤモヤを、もし私の歌詞で「あ、こうやって言えばいいんだ」「これは私の気持ちに近い」「私の歌だ」と感じてもらえたら、「自分は一人じゃない」と気付いてもらえる気がするんです。

ーーインタビュー冒頭で、「自分が言葉で言い表せないことがないようにしたかった」とおっしゃっていました。きっと谷絹さんも、誰かに自分の気持ちを言語化してもらって、それで救われたことがあるんじゃないかなと。

谷絹:まさにそれを「薄明光線」という曲でも歌っています。言い表せないことを、「こういう言い方があるよ?」と示すことができれば、心が軽くなったりするのかなって。

ーーちなみに、誰かに「この気持ちを言語化してもらって救われた」と思ったことはありました?

谷絹:今ぱっと思いつくのは中島敦の短編小説『山月記』や横光利一の『蠅』、夏目漱石の『こころ』などですが、他にも映画の中のちょっとしたセリフとか、たくさんありました。私が哲学を好きなのも、生きていく上での考え方を何個か持っておくことが大切で、そのためにある学問だと思っているからなんですよね。

 ある考え方があって、「こういうことだ」と言葉で噛み砕き、それを人に説明できると、自分が「ああ、死にたい!」と思ったときに、いろんな角度で「死にたい」という気持ちを検証できる。それで救われたことが何回かあるんです。それでここまで生きてこられたのかなって(笑)。バンドを組むまで希死念慮(死にたいと願うこと)が酷かったんですけど、Chevonで歌詞を書くようになったことは、私にとってかなり大きかったなと。

ーーそうだったんですね。

谷絹:しかも、そういうバンドが「ちゃんと売れて」いれば、「私のこの気持ちをわかってくれる人が、世の中には結構いるのかもしれない」とリスナーが思えるじゃないですか。それを「救う」という言葉で表すのはおこがましいかもしれないですけど、少しでも誰かに寄り添って、しんどくならないように出来たらいいなと思っているんです。

 きっと、それをすることで自分自身も救われたいのでしょうね。他の誰でもない、私だけが救える人を私自身の言葉で救えたら、私がここにいる意味があるじゃないですか。要は、その人を救いたいのではなく、自分が生きている意味を、その人を通じて見出したいという自分のエゴでもあるんです。もしかしたら、それが表現の本質なのかも知れない。

■リリース情報
「ノックブーツ」
https://lnk.to/chevon

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