藤井 風、「grace」で迎えた転換点をリリースから1年の今あらためて考える 外との繋がりで手にした新たなフェーズ
サウンドにおいては、美しく響き渡るストリングスの音色や、軽やかに跳ねるピアノのタッチが印象的で、そのなかで日本語中心の歌詞を優しいメロディが穏やかになぞっていく。その心地好さは藤井 風作品のなかでも随一と言っていい。途中でやってくるギターのバッキングと藤井による多重コーラスがメインとなる箇所は、ジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」を引き合いに出したくなるほどの神々しさだ。アウトロまで延々と続く四つ打ちのビートは瞑想的で、もはや神秘的なパワーさえ感じる音作りである。
MVは、インド文化へのシンパシーや、そこに暮らす人々への敬意、ひいてはもっと大きな人類愛のようなものまで感じる壮大なスケールの映像となっている。ここまでの世界観の楽曲に至ったのは、ひとえにプロジェクトが掲げていたテーマの力に他ならないだろう。「すべてのひとに、才能がある」という、ある意味で理想的で啓蒙的な言葉が、彼の奥底に眠っていた考え方を掘り起こし、凝縮させ、純度を高めて、非常に規模の大きな形でアウトプットさせたのだと思う。
この曲の発表の後、藤井は大阪 Panasonic Stadium Suitaでのスタジアムライブ、全国アリーナツアー、そして初の海外公演となるアジアツアーを開催し、精力的にライブ活動に励んできた。その間どれだけ楽曲制作ができたのかは不明だが、現状リリースされているのはアメリカのシンガーソングライター・JVKEの楽曲をリミックスした「golden hour (Fujii Kaze Remix)」と、先述の「Workin' Hard」のみ。制作よりもステージでパフォーマンスする時間の方が多い一年だったのかもしれない。
藤井 風の人気は日本を飛び越え、アジアへ渡り、さらには世界へと波及しつつある。この一年で経験した葛藤や、そこから抜け出せたことが、今後のさらなる飛躍へと繋がる重要な布石となるのではないか。そうした側面から見ても「grace」は、大きな意味を持つ曲だったとあらためて感じさせられたのだ。
※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/4132/

























