岡崎体育の心に刺さった日本語詞3選 歌詞を書く上でのインスピレーション源は「海外番組の翻訳」

岡崎体育の心に刺さった日本語詞3選

 アーティストにとっての“パンチライン”を聞いていく新連載「My favorite line」がスタート。第一回には岡崎体育を招き、歌詞が印象的な3曲を選んでもらったところ、LOSTAGE「手紙」、ピアノガール「安田講堂の虹」、THEロック大臣ズ「TODAY !」と京都・奈良にゆかりのあるアーティストの楽曲が揃った。それぞれのパンチラインや、岡崎体育が歌詞を考える上で意識していることなどを聞いた。(編集部)

〈母さん、〉から始まり〈母さん ねえ〉で終わるLOSTAGE「手紙」

――今回挙げていただいたのは、LOSTAGE、ピアノガール、THEロック大臣ズと、京都と奈良で育った体育さんにとっての地元アーティストの曲ですよね。

岡崎体育:地元ですね。音楽活動を始めて対バンするようになってからが初めて日本語の歌詞に真正面から向きあったタイミングで、その時に影響を受けたアーティストたちを今回選ばせていただきました。

――それ以前は海外の音楽を聴いていたということですか?

岡崎:そうですね。歌詞にメッセージ性とか意味合いを求めずに、その曲がカッコいいか、カッコよくないかだけで英語の曲を聴いてましたね。ちょうど僕が高校生の頃に、イギリスとかで流行っていたニューレイヴというジャンルで、例えばBloc Party、Klaxons、Enter Shikariとか、そういったアーティストが当時『SUMMER SONIC』でよく日本に来てくれていたんです。ロックバンドの中にシンセの音が入っていたりだとか、そういったサウンドが自分にとって新鮮でよく聴いていました。

――そういったジャンルだと踊れるかどうかが要素の一つにあるので、歌詞はそこまで重要視されないのかもしれないですね。

岡崎:当時はお金もなかったので、和訳がついてない輸入盤のCDを買ってたから、それをちゃんと訳せるわけでもなく、歌詞は音として聴いていましたね。

――まず1曲目がLOSTAGEの「手紙」。2004年リリースの1stミニアルバム『P.S. I miss you』に収録されている、LOSTAGEとしては最初期の楽曲です。

岡崎:まだ小文字のlostageの頃で、メンバーも4人いた頃だと思います。その当時、僕はまだ中学生でバンド自体に出会ってはいなかったんですけど、2012年以降に奈良のライブハウスでよく活動をしていたので、奈良代表がLOSTAGEみたいなところがあって、そこから彼らの音楽に触れることが自ずと増えていきました。彼らもあまり歌詞に意味合いを求めずに音楽を聴いてきたってインタビューなどで語っていますけど、その言葉の一つひとつに殺傷能力があるような歌詞だなというのは感じますね。

――具体的には歌詞のどういったところに惹かれたんですか?

岡崎:歌の中でしっかり歌詞を発音してないんですよね。〈全部計算のうち/計画実行〉っていう歌詞があるんですけど、〈全部計算の〉まで発音していて、〈うち〉って歌の中で発音してないように聞こえる。それでも〈うち〉が聞こえてくるような表現を、楽曲の中でも感じ取れるんです。最初のフレーズが〈母さん、〉から始まる歌詞で、最後も〈母さん ねえ〉で終わる歌詞がLOSTAGEっぽいなとも思います。〈母さん、〉から始まる曲って、これか「ボヘミアン・ラプソディ」(Queen)くらいですよね。〈母さん、〉の後の句読点までに心が掴まれます。あとは、五味兄弟(五味岳久、拓人)の生い立ちを考えると〈母さん、〉から始まる歌詞ってセンシティブで、言葉の意味合いが強いものだなって感じます。この曲を作った時のLOSTAGEって20代前半とか、下手したら10代と20代の間とかだと思うんですけど、曲の中に出てくるワード一つひとつが成熟しつつも、少年的なところも残っていて美しいなと思いますね。

――今振り返ると、その20代の五味岳久さんにしか書けないリリックというか。

岡崎:彼の書く詞は時代を経て大きく変わってきていると思うし、最近リリースしているアルバムの収録曲も、どこか自分に向けた内省的なものよりも、これからの人たちに向けたメッセージであるとか、自分が今まで経験したことをストーリーテラーのように紡ぐ歌詞が増えてきている気がします。年齢や経験で歌詞の書き方って変わってくるんだなっていうのがありますし、その中で一貫して芯の部分が感じられるところもある。少し前に『TAPESTRY / 五味岳久全歌詞集』が出たんですけど、それが昔から書いてきた歌詞と今の歌詞がしっかり繋がっている一つの証拠だと思います。いろんなバンドの変遷がある中で普遍性があるっていうところが、LOSTAGEの歌詞のいいところだなと思いますね。

――「手紙」のサウンド面に関してはどうですか?

岡崎:作り方としては欧米のオルタナティブロックを踏襲してるところもあると思うし、A→B→サビ→A→B→サビみたいな、J-POPの作り方とはまたちょっと違った構成の中で、コード進行に対するメロディの当て方とか、彼らが影響されてきた音楽が色濃く出てる楽曲なんだろうなと思っています。主旋律のメロディに対する言葉の当てはめ方も、LOSTAGEらしい曲だなと思いますね。しっかりとした分かりやすいメッセージというよりは、「あー、この曲なんかかっこいいな」っていうのが最初にきて、そこから歌詞の内容を考えて、いろんな受け取り方ができる曲だと思うので、そういったところは僕も影響された点です。

――体育さんは今年7月に自主企画イベント『TECHNIQUE』でLOSTAGEと対バンをしていますが、地元である京都の宇治市文化センター 大ホールに彼らを呼ぶのは感慨深かったのではないでしょうか。

岡崎:まず出てくれるっていうのが嬉しかったです。インディーズ時代は僕がLOSTAGEの地元にある奈良NEVER LANDでライブをして、五味さんがやってるレコ屋・THROAT RECORDSに遊びに行って、自分で作ったCDを置いてもらってっていうサイクルで、音楽と向き合っていたんです。それから月日が経って、自分が音楽で飯を食えるようになって、レコード会社に所属することもできて。大きい会場を押さえられるようにもなって、そこにLOSTAGEを呼んで一緒にまたライブができるのは、すごく感慨深かったです。本番のLOSTAGEの演奏を観ている時に、宇治から奈良まで原付で自分のCDを持って行って、バーコードを付けて売ってもらっていた、その時の経験を思い出しました。ある意味自分の青春でもあったので、LOSTAGEの演奏中はグッときてしまっていましたね。

――メンバーの皆さんとはどんなお話をされたんですか?

岡崎:「最近何してんの?」とか「ドラマに出る時ってどんな感じなん」みたいな、そういうたわいもない話です。LOSTAGEが今後、奈良でデカいフェスをやるにはどうしたらいいかとか、まず観光大使になるとこからじゃないかみたいな話とか、そういうことを昔と変わりない感じで話してくれるのが嬉しかったです。

――『TECHNIQUE』の特設サイトで、LOSTAGEについて「僕が思う日本で1番格好いいロックバンドです。」とコメントされていましたが、体育さんにとってどんなところがカッコいいと感じますか?

岡崎:ほかの日本のバンドでは醸し出せない独特な雰囲気を纏っているのもそうですし、LOSTAGEの3人の人柄ですかね。日頃の会話の端々、話す時の間、歌い方、演奏の仕方、全部がそうです。少ない小遣いを握りしめて、近所のレコ屋に輸入盤のCDを買いに行っていたような子どもであれば、誰でも好きになるバンドだと思うんです。僕の10代の頃の音楽の原体験に近いバンドだったので、LOSTAGEが日本で一番カッコいいバンドっていうのは、僕とくるりの岸田(繁)さんがずっと言い続けてることですね。それをLOSTAGEのメンバーは、めちゃくちゃ疑ってますけど(笑)。素直に受け入れてくれへんというか、絶対嘘やろって言い続けてるんで、照れ隠しなんかなと思います。そこで変に両手を広げる感じもなく、ずっと疑り深い彼らが好きですね。

一行目の歌詞で抗議している学生の様子が想像できる、ピアノガール「安田講堂の虹」

岡崎体育

――2曲目はピアノガールの「安田講堂の虹」。京都のバンドですね。

岡崎:ボーカルギターの内田秋が天才的ですね。作詞に関しては日本トップクラスじゃないかなって僕は思ってます。言葉の紡ぎ方が繊細で、琴線に触れる部分がたくさんある。僕はほとんど小説とか本を読まないんですけど、そんな僕でも彼の言葉の美しさは直感的に分かるし、本が好きな人だったらなおさら、彼の書く歌詞がすごいって思うんじゃないかなと。

――この曲は安田講堂事件をモデルにしているんですよね、

岡崎:そうですね。内田秋が三島由紀夫とかが好きで、子どもの頃から読んでたって話も聞きましたし、そういう学生運動とかが彼の人生に影響してると思うんです。エネルギッシュな言葉の中に物悲しい雰囲気を乗せるのが上手で、それを3分くらいの短い曲の中で物語として展開して収束させるまでの能力に長けていて。彼の才能はもっと多くの人に気づかれるべきだなと感じていますね。何回、秋っぽい曲を書こうと思っても、やっぱりできないんですよ。ペン先が牙みたいになっているような攻撃的なところと、ちょっとでも書き順を間違えたら折れそうなぐらいに柔らかな歌詞が共存していて、どうやって培った感性なんやろうなって不思議だし。でも、彼と喋っていても分からないんですよね。自分を持ってる人ではあるんですけど、それがどう培われたものなのか。それを聞くのも正直、野暮で。ほんまにすごい歌詞を書くやつにはあんまり聞きたくない、そこでパッと出るような答えであってほしくないという思いもある。奥深くて繊細で、言語化できないような、入り交じった感覚で書いた歌詞であってほしいと思います。

――具体的には歌詞のどの部分に才能を感じましたか?

岡崎:これもLOSTAGEと同じで最初なんですけど、〈明け方 薄い毛布 交代で眠った〉。安田講堂にバリケードを張って、抗議している学生の様子が想像できるじゃないですか。なんでこんな歌詞書けるんやろって。最初の1行でどれだけ引き込まれるかが歌詞は重要だと捉えていますね。

――サウンド的には刹那的なエネルギーを短い曲の中に詰め込んだような感じですよね。

岡崎:曲の尺的にはそんなに長くはないし、言葉の数自体もそこまで多くはないんですけど、スラッシュな歌詞というか、捲し立てる部分も多いので、そこの気持ち良さと音符に対する歌詞の流し込みの力が半端じゃない。音符に対して上手に日本語を扱ってる感覚ですね。

――ちょっと調べてみたら、2015年に京都GROWLYで、THEロック大臣ズのレコ発企画としてTHEロック大臣ズ、ピアノガール、岡崎体育……といったメンツで対バンをされていたみたいですけど、その当時の彼らとの思い出もあるんですか?

岡崎:僕はあまりライブの打ち上げには行かないタイプだったんですけど、THEロック大臣ズのたなか(けんすけ)くん、ピアノガールの秋たちとだけは打ち上げをしていましたね。人間的に素敵に見えた人たちだったし、どんなことを考えて生きてるのか知りたいと思って、打ち上げに関係なく、お互い休みの日に家に遊びに行ったりして、話を聞くのが好きでした。ピアノガールも、THEロック大臣ズも、活動していた時期や年代が近いので、刺激を受けていたのは事実ですし、彼らの書く歌詞に影響を受けていた自覚もあったりするぐらいに、身近な存在ではありました。羨む部分もたくさんあって、当時出会えてよかったと思う2人ですね。

――内田秋さんは現在また新たなバンドのNo Funとして活動をしていますが、今でも交流はあるんですか?

岡崎:たまに連絡をくれますね。岡崎って呼ばれてるんですけど、僕の方が年上なのに(笑)。「岡崎の最近出したあの曲めっちゃよかった」「サンボマスターのカバーよかったぞ」みたいに、曲に関することだけ連絡をくれて。お互いのその時のリリースで良かった曲があったら「これ良かったよ」「ありがとう」の、毎回短いワンラリーだけなんですけどね。また久しぶりに連絡を取りたくなりました。

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