幸祜、『SINKA LIVE』第二弾で示したロックシンガーとしての決意 CIVILIAN コヤマヒデカズら“プレイヤー”とのシナジー

 楽曲のカットアウトと共にワープホールへと勢いよく跳躍し、彼女が降り立ったのは本邦初公開となる“神椿市旧肆番街”。予想外の風景に騒然とする観測者を他所に、重低音を強調したソロアレンジの「÷(ディバイド)」、そして「強欲」で公演は中盤戦へと突入する。そのまま流れを止めることなく始まったのは、ゲストを迎えるコラボパフォーマンスだ。まずは花譜と共に「歯車」を熱唱した後、交代するようにSINSEKAI STUDIOよりVALISが登場。本公演限りの「再見ロマネスク」スペシャルコラボ版を披露し、仮想空間を去る彼女らを見送った幸祜もまた、街のさらに奥へと向かっていった。

 移動の後、ここまでに漂っていた緊張感を束の間和らげるMCへ。先ほど登場したゲスト陣にも触れ、花譜と「歯車」のライブ初フル歌唱が叶った喜びや、幸祜自身がVALISの一員となる世界線も存在したというファン垂涎の裏話を口にする場面も。「今日はいろんな私の一面が出てくると思いますよ?」と期待を含ませる言葉を結びに、舞台は“カーゴタワー・ステーション”へと移行。神椿を象徴する紅い月を背景に「ASH」「Mayday」を連続で披露し、舞台装置となる電車の中へ幸祜は歩みを進める。

 車内に足を踏み入れた彼女の姿は、本公演で初お披露目となる衣装「type-real Betelgeuse」へ変貌。これまでにないヘルシーでモードな雰囲気に観測者のコメントも加速する中、大沼パセリによる新曲「ナナシノウタ」、今やライブアンセムとなった「the last bullet」を2曲連続でパフォーマンス。それと同時に彼女は移動装置でさらなる街の深部へと進み、演奏終了のタイミングで終点駅へ到着。MCでは新衣装や新曲についても触れ、終盤へ向かう中で公演を見守る観測者たちとすべてを曝け出しぶつかり合いたい、と強い思いの滲む言葉を口にした。

 辿り着いた都会的な“肆番街 ユニオンプラザ・ターミナル”では、音楽的同位体・狐子と共に「コンストラクト」(メドミア)「破壊少女」(香椎モイミ)を続けざまに披露。歌い終えた狐子と道を分かち、幸祜は上昇するエスカレーターに乗って“肆番街セントラル ハイライズテラス”へ。疾走感が印象的な新曲「私を纏う」を歌い上げ、たっぷりとした余韻の延長から繊細で雄大なピアノアレンジの「夜光を呼ぶ」を熱唱。パフォーマンスと同時に足元のステージが移動し、演奏終了後に彼女が到着したのは、ヨーロッパの劇場を思わせる荘厳な建造物。それを背に幸祜は、まもなくのライブ終幕と同時に「少しだけ私の話をさせてください」と前置き、訥々と自らの過去にまつわる言葉を紡ぎ始めた。

 幼い頃から対人関係に悩む中、見つけた音楽という希望。その道の途中にも度々他者から理不尽な扱いを受けた過去を、時折涙声になりながら明かしていく。そんな経験から臆病な性格になり、自分を引き入れてくれたKAMITSUBAKI STUDIOプロデューサー・PIEDPIPERも「最初は信用できなかった」と語る彼女。それでも大勢の仲間との関わりや観測者の存在が今では自分の幸せとなっており、「今目の前の光景が当たり前じゃないと知っているから」と、自分を取り巻くすべての人へ最大級の感謝の言葉を何度も口にしていた。

「過去の自分も受け入れて好きになりたい。この先も忘れられない景色を皆で作っていきたいです。だから、ついてきて」

 そう締め括ったのち画面にはこの日彼女が辿った“深化”の軌跡を追う文字が浮かび、最終段階である物語世界のもう一人の「自分」・輪廻此処との邂逅を経て、公演はフィナーレへ。最後の舞台“レガシーホール”にて歌い上げられたのは、自らが初の作詞作曲を務め、及川創介と共作した最新曲「ゲンフウケイ」。〈産まれ変われるよう強さを 君と出会えた事で〉〈恐れずに踏み出して 僕らは「終われないから」〉という歌詞の中に並ぶ言葉に滲むのは、確固たるプレイヤー・幸祜として歩み続ける揺るぎない決意。辛い経験を経てなお、しなやかに形を変え音楽という居場所を再び選び取った彼女の、これからの未来を力強く感じさせるナンバーとなった。

 バーチャルシンガーたちの“深化”を見届ける「SINKA LIVE」シリーズも、本公演を以て折り返し地点へ到達。残る春猿火、理芽、そしてV.W.P.による最終公演まで。織りなされる電脳の魔女たちの物語と、それらが架空都市・神椿市へ及ぼす影響を、引き続き注視し続けていきたい。

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