トンボコープ、the quiet roomを迎えた初めてのツアーファイナル バンドが奏でた「今が最高だ」と思える現在と未来への予感

 平均年齢21歳、東京発の4人組バンド・トンボコープ。2022年4月に本格始動してからわずか1年あまりの若いバンドだが、TikTok上で怒涛の勢いで公開し続けた楽曲が話題となり、その後さまざまなアーティストを差し置いて各種音楽サービスにてランキング上位を記録、『SUMMER SONIC 2023』への出演を果たすなど、まさに今勢いを増している期待のロックバンドだ。そんな彼らが、初の東阪ツアー『トンボコープ pre. 1st LIVE TOUR 「むしのしらせ」』を開催した。大阪ではosageとBlue Mashを招いての3マン、東京ではthe quiet roomを招いての2マン。ここではそのファイナル、東京・渋谷 Spotify O-Crestでの公演の模様をレポートする。全身で追い風を受けるようなフレッシュな勢いと、それとは裏腹に地に足のついた覚悟と未来への期待。つまり今トンボコープがいる場所を全力で伝える、気持ちのいいライブだった。

the quiet room

 トンボコープの黄色いタオルがたくさん目につくソールドアウトのO-Crestにまず登場したのはゲストのthe quiet roomだ。「the quiet roomです、よろしく!」という菊池遼(Vo/Gt)の挨拶から1曲目「Fressy」のポップなサウンドが弾けると、いきなりフロアでは手拍子が巻き起こった。そして「一緒に楽しもう」と「Twinkle Star Girl」でオーディエンスとの一体感をさらに高めると、「Vertigo」のヘヴィな音像で圧倒する――2010年結成のクワルーはトンボコープから見れば大先輩に当たるわけだが、その百戦錬磨の経験値が、とんでもないスピードで確実にフロアの温度を上げていく。

 そして、この日リリースとなった新曲「Tsubomi」を初披露して前に進み続けるバンドの姿を見せつけるとライブは後半戦に突入。「(168)日のサマー」や「キャロラインの花束を」など代表曲を畳みかけ、ラストは「Instant Girl」。力強い手拍子でさらに会場を熱くしてライブを終えた。ライブ中、菊池は「トンボコープが出てきやすいように会場をがっつり盛り上げていきたい」と宣言していたが、その役割をまっとうするどころか、完全にオーディエンスの心を鷲掴みにしてバトンを本日の主役につないでみせたのだった。

トンボコープ

 そして歓声に包まれるなかステージに立ったトンボコープの4人。「ストーリーモンスター」に「過呼吸愛」、序盤からすでにアンセム化している楽曲を投下して、転換で少し落ち着いたフロアの熱を一気に高めていく。メロディのキャッチーさや雪村りん(Vo/Gt)の声のよさはもちろんだが、林龍之介(Dr)とでかそ(Ba)のリズム隊が鳴らす音圧がものすごい。すでにO-Crestのスケールには収まらない“大きさ”を感じる。そして、そうしたバックの音があるからこそ雪村の歌も強靭な説得力を持つ。言葉の一つひとつがずしりと聴き手の腹に落ちてくる感覚は、彼らがライブバンドとして確かな骨格と筋力を持っていることの証明だ。

 イントロからドラムに耳を奪われる「独裁者」ではフロアの後方でも手が振られる。「俺にとっては幸せで大事な日です。トンボコープの歴史に残るような一日にしたいし、あなたの人生の歴史に残るような一日にしたい」。そんな言葉を投げかけると、そらサンダー(Gt)の軽やかなギターフレーズが鳴り響く。「サンポリズム」だ。サビで一気に広がる風景が、ライブハウスの真っ暗な空間を鮮やかに照らし出す。「歴史に残るような一日にしたい」とか、あるいは雪村がXのプロフィール欄に書いている「100年後の音楽の教科書に載ります」とか、そういう言葉のデカさとは裏腹に、彼らの歌う景色はとても親密でプライベートな匂いのするものだ。曲の合間にステージで喋っている雪村は自信なさげなようで実は密かに強い確信を隠し持っているような、つまりとても等身大な人だ。

 夏の終わりを切なく描き出す「信号花火」を経て「俺は嘘をつくのも、嘘をつかれるのも嫌いです。でもそんな嘘にも、人を救える力があると思う」と語りながら披露された「嘘だって」には、そんな等身大の彼の正直な心が刻まれている。世のなかの嘘を糾弾するのも、時に大言壮語を吐くのもロックミュージシャンの特権であり役割だけれど、彼は〈君〉を守るための嘘を〈これは本当の事が言えないくらい/弱い僕の戯言さ〉と言いながらつく。そのアンバランスな人としてのあり方がたまらなく愛おしい。その弱さや脆さを、ロックバンドという武器を携えてどこまで肯定できるのか。ちょっと大げさに言えば、トンボコープがこれから僕たちに見せようとしている未来の物語とはそういうものなんじゃないかと思う。そのためには、バンドの音はどんどん強くならなければならないし、遠くまで届け切らないとならない。ステージから前を見据える雪村の視線には、そんな意思を感じた。

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