堂本剛がファンクを鳴らす理由 人生への苦悩、突発性難聴の発症……自身を支えてきた音楽と理解者の存在
ジョージ・クリントンとの共演で感じた「お前を生きろよ」というメッセージ
ーー今年5月には『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』にてジョージ・クリントンとの共演も果たしました。率直に、どのように感じましたか?
堂本:「本当にこんな日が来るんだ」と思いました。「ジョージ・クリントンとセッションできそうですけど」という話が急に舞い込んできて、「セッションって言っても何をすればいいの?」と聞いたら、「歌っても演奏しても何でもいい」と言われて。「曲は何をやるの?」と聴いても「まだ何も決まってない」と、ずっとその調子だったんですよね。それで、何かを求めた自分が馬鹿だったなと痛感したというか。「答えを求めるな、お前はただPファンクの宇宙船に乗れ」と言われたように感じました。実際、リハに入って、Pファンクのみなさんがいろいろ教えてくれるんですけど、教え方が違いすぎて(笑)。とはいえ、ちゃんと仕事をしたいなという気持ちはあったのでドラムのベンジャミン・"ベンゼル"・コワンに「僕はこういうことをやろうと思っているけど、これで大丈夫かな」と聞いたら「ジョージ・クリントンが弾けって言ったらギターソロをかましてPファンクしてろ」っていう答えしか返ってこなくて。実際のステージでも権利の都合で僕がセッションできるのは1曲だけになるから、「この曲が終わったら捌ける」ということをジョージ・クリントンに伝えたら「俺はそういうのはどうでもいいと思ってる、お前がいたいだけいていい」と返ってきて。昔Pファンクを聴いた時に感じたものと同じ、「お前はお前やろ、お前を生きろよ。なんでお前がお前を生きるってことを諦めてんの、ふざけんなよ」みたいなメッセージが飛んできたような気がして、あの時感じたものは間違いじゃなかったんだと思いました。その会話があったから、本番では命のギターが弾けたなという感じがしましたし。本当に最後の最後、会場を出ていく手前でジョージ・クリントンが立ち止まってくれて、廊下で2人になる状況があったんですね。その時に「ありがとう、ギター最高に良かったよ」とだけ言って去っていって。家族とか仲間と分かち合いたいくらい最高に嬉しい瞬間でした。まだ実現はしていないけど「一緒に楽曲を作ろう」「Welcome to the Mothership」ってコメントもいただいて。ずっと気持ちがフワフワするような貴重な時間を過ごせました。
ーーそういったレジェンドたちとの交流は音楽的に学ぶこと以上のインパクトを残してくれると思います。他にも人生を音楽に救われてきたな、という経験はありますか?
堂本:以前、これ以上自分の命を続けるのは果たして幸せなのか、みたいなことを考えた時もあって、今にも消えそうな自分がもう一度生きようと思った瞬間に感じたものが、音楽を通じて得た感覚なんですよね。本当に音楽がなかったらいま生きていたのかなって思うし、僕の人生に寄り添ってくれる人たちが僕の人生を認めてくれるから、そういう人たちの存在は大きいと思います。すごくシンプルに言うと、さまざまな言葉を投げかけるべき立場であることは理解しているけど、でも僕もあなたと同じ人間だから、僕の人生とあなたの人生が一緒にこれからも自分らしく続けばいいな、ただそれだけを思って生きているんですよね。これをずっと伝えているだけなので、それに対して共感してくれる人たちの存在はやっぱり大きいかな。だから自分のままに生きる喜びというメッセージを伝える側ではあるんですけど、実はラジオとかいろいろな場所を通してメッセージをもらいながら、僕自身も「僕のままに生きていいんですよ」と言ってもらっている。この循環がずっとできているから、本当に恵まれた人生だなって思います。
ーー確かに、「自分のままでいい」というメッセージは堂本さんの音楽を聴いていても感じますし、歌詞だけではなく、演奏的にもその“自由さ”がファンクの特徴でもあると思います。
堂本:“絶対にこうしなきゃいけない”というものがある音楽は、練習すればいやでも良くなっていくと思うんですけど、それは“旨みがないけど美味しいご飯”のような感じがします。そういう料理もいいとは思うけど、ファンクミュージックはそういう部分を覆すような、演奏する一人ひとりが自由を感じていることが大前提にあるので。いつもベースアレンジやキーボード、ブラスやドラムパターンまで何もかも自分の口で伝えています。音源に打ち込まないといけない時は打ち込んで伝えていますが、大半は口で伝えて、それをミュージシャンがアウトプットして、それに向き合ってどんどん構築していく。ファンクミュージックはその人がいなければそういうフレーズ、グルーヴにならなかったというような“貴重”の連続が叶えやすいものだと思います。
堂本剛がファンクを鳴らす理由は
ーー堂本さんの音楽を聴いているリスナーの方の中でも「こうやって自由になって前に進んでいいんだ」と感じる人が増えているのかなと感じます。
堂本:そうだと思います。僕はそれを言葉や音楽で伝えてきたので。毎日1秒も余すことなく完璧に生きている人なんていませんよね。自分に甘えが出ることもあるし、愛は求めるものではなく与えるものだと分かっていても、求めてしまう時がある。でも愛とか平和や、自分というフレーズを言うことをやめてしまうのが一番良くないから。それは言い続けないといけないなと思っています。誰もが完璧なわけじゃない、完璧なものを探すのが人生ではなくて、自分を探し求めるのが人生だから、みんな早くそれに気づこうよってずっと思っています。お互いに支えあったり、“ここがもうちょっと成長したらいいんじゃない”というところがあったら愛を持って伝えたり、そういう風に進めていければいいなって。一見真面目で堅い哲学のような話も、いろいろな人たちが聞きたがっている時代になっているような気がします。
ーーかつて堂本さんがファンクミュージックから感じた「自分の人生を生きろ」というメッセージをふまえて、リスナーやこのインタビューを読んでいる人に伝えたいことはありますか?
堂本:ファンクミュージックとか、HIPHOPは自分が自分であることが必要な音楽なんだと思います。「なんでみんな自分を生きようとしないんだろう」という疑問が歳を重ねれば重ねるほど出てきて、だからそれを言葉にするよりもファンクに乗せて伝えればもっといろんな人が聴いてくれるのかなと。でも僕は自分のままに生きることによって幸せだと感じる時間が増えたし、何かに悩んだり苦しんだりしている人がこのインタビューを読んでいたら、そういう人ほど自分の人生を生きてほしいと伝えたいです。自分自身を何かにカテゴライズしたり、何か決まりごとがあった方が豊かな人生になることもあるかもしれないけど、そういうことって誰が決めたことなの? って思うんですよね。「自分を生きる」って難しいかもしれないけど、意外と自分のままに生きてみたら仲間が増えることがある。だからもし自分の現在地に納得がいってなかったり、苦しさを感じているのなら、少しでいいから動き出してほしいなと思います。街中に広がるノイズに負けないで、自分っていうファンクネスを鳴らして、そのノイズを蹴散らしてほしいです。LOVE。
■リリース情報
.ENDRECHERI. New Digital ALBUM
『Super funk market』配信中
.ENDRECHERI. 『Super funk market』Super funk WEB market盤
2023年10月23日リリース
価格:16500円(税別)
注文受付は2023年9月20日23時59分まで
詳細はhttps://johnnys-shop.jp/s/j/item/detail/JECT-0061
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