堂本剛がファンクを鳴らす理由 人生への苦悩、突発性難聴の発症……自身を支えてきた音楽と理解者の存在
頭と心で考えて制作を進めていくことが生きていく喜び
ーーFUNK sideはどのようにして制作が進んだのでしょうか。
堂本:今はキーボーディストのGakushiくんと一緒に作ることがほとんどです。思いついたものをどんどん打ち込みまくっていくっていう、HIPHOPアーティストのトラックの作り方が一番近いかもしれないですね。ベースラインからできるか、ドラムパターンからできるかは本当にバラバラで。基本的にはハネてることが大切で、ファンクのジャンルでいうとGO-GOとか、ああいうビートの感じが好きです。でもそれをそのままやるとどんどんオールドファンクになっていっちゃうので、音色とかタイム感で工夫しつつ、アレンジをしている感じです。
ーーファンクを作る上で新旧の融合というか、HIPHOPでいうサンプリングのような、先人をリスペクトして制作する文化もあると思います。今回の『Super funk market』の楽曲にもThe J.B.'sの「Pass The Peas」や、過去の楽曲「Crystal Light」(2018年リリース『HYBRID FUNK』収録)にはParliamentの「Bop Gun (Endangered Species)」を思わせるフレーズが入っているように感じましたが、これは意識的なものでしょうか。
堂本:意識的に入れているものもありますが、そうではないものもあります。このコードの感じでこのビートで……って選択していくと自然と近くなってくることもあると思います。でもそれは「白米にこれが合うよね」みたいなもので、どう考えても白米と合うおかずはあって、先人たちが「これは白米と合うで」って言ってきたものからは逃げられないから、その辺が難しいなと思っています。先人が作った王道から外して上手くいく時もあればそうじゃない時もある。頭と心で考えて、制作を進めていくことが生きていく喜びにもなります。
ーー堂本さんの楽曲を聴いていると徐々にラップパートが増えているような印象があります。これは突発性難聴がきっかけだったのかなとも感じるのですが。
堂本:それはかなり大きいと思います。今は左の耳のほうが聴こえづらいのもありますが、半音フラットして聴こえていて。だから歌う時は右でしか聴いていないし、単に音量を上げればいいというものでもないんですよね。退院して2年くらいはマイクの感度が壊れてハウリングしているような状況が続いていて。今は、日常生活的には問題ないのですが、それでもライブは大きな音になるからハウリングし始めるんですよね。それで歌いづらくなっちゃって、ピッチがあるようでない、でもグルーヴになるようなものを開発していったという感じです。Pファンクに倣ってジョージ・クリントンや、ファンク集団のボイスアプローチにリスペクトを込めて多重録音をしています。自分のメインの声としゃがれたローの音を出している声、鼻で歌っているような声などを録ってそれをどうバランスをとるか、どれを主役にするかというのを考えるイメージで、身体を患ってもストレスや無理なく自由にファンクするために編み出したアプローチです。歌いづらくて落ち込んだりするのはいいんですけど、それよりもお金を出してライブにきてくださる人のことを考えたり、レコーディングがスムーズに進まなかったり、そういう方が嫌で。みんなが僕の身体に対して気を遣うことなく、僕だけが変わればみんなは今のままで過ごせる方法はないかなと思って考えた一つのやり方です。
ーーすごく優しい理由ですね。実は僕自身も片耳が聴こえにくかったり、ラップに惹かれた理由の一つがピッチを取るのが苦手だからというのもあるので、とても共感します。
堂本:症状が見た目に現れるわけではないから理解されづらい部分もあって。特に音楽をやっていない人には、ハウリングしているのがどんな状態なのかを伝えることが難しかったりするし、伝えたくても伝わらないこともあるから、自分もみんなも楽しくなれる環境を作っていく努力も必要なのかなと思います。