花譜が辿る“非”予定調和な物語とダンスミュージックの関連性 MONDO GROSSOやケンモチヒデフミらとの「組曲」を考える

 そもそもダンスミュージックに限定したところで、国内のシーンにおけるジャンルは極めて曖昧だ。2010年代、渋谷のTSUTAYAの「クラブミュージック」のレンタル棚を参考にしよう。そこにはWarp RecordsとNinja Tuneの諸作品、そしてポール・オーケンフォールドやスティーブ・バグのクラブトラックス、さらにはジェイムス・ブレイクのアルバムといった具合に、様々なテクスチャーを持つ作品がABC順に並べられていた。すなわち、ベッドルームもダンスフロアも「クラブミュージック」の名のもとに等号で結ばれていたのだ。Brainfeederの諸作品も、当然のようにここに鎮座していた。

 その状況も、花譜の「組曲」のラインナップと重なりはしないだろうか。

【組曲】花譜×長谷川白紙 #98「蕾に雷」【オリジナルMV】
【組曲】花譜×ORESAMA # 116「CAN-VERSE」【オリジナルMV】

 さらに日本のダンスミュージック界のレジェンドたちもまた、奇しくもインターネット以降の才能とは別のベクトルでダンスミュージックを様々な形で解釈していた。

 大沢伸一や石野卓球、TOWA TEIなどは、明らかにダンスミュージックとクラブミュージックを区別しながら、それぞれのジャンルの楽曲を制作していた。オールナイトのイベントでDJをするかたわら、映画やドラマの劇伴や主題歌を作るのである。かつて石野卓球が主催していたレイヴイベント『WIRE』のラインナップを見てみると、彼が明確に「クラブミュージック」を志向していたことも分かる。

 この同時進行的なダンスミュージック/クラブミュージック観は、それぞれの作品に特徴として現れているように感じる。それこそ今回MONDO GROSSOがプロデュースした「わたしの声」は、ダンスミュージックでありリスニングミュージックでもあるのだ。フィジェットハウスがどのような性質を持っているかを今一度整理しよう。分かりやすい大ネタ使いに、うねるようなシンセベース、それらが奇怪なドロップとして採用されたのが“フィジェット”だ。参考までにThe Count & Sindenの「Beeper」(2008年)を引き合いに出す。

The Count & Sinden - Beeper (featuring Kid Sister) (Official Video)

 「わたしの声」はこの曲と比較すると解像度が高く、クリーンな印象を受ける。しかし同時に、歌詞からは「Fidget(せかせかした、そわそわした)」な切迫を感じ取れやしないか。これまでにも花譜は自身の声を歪ませたり、くゆらせたりしながら曲に感情を乗せてきたが、それは今回も顕在している。シンセとパーカッションが喧騒を作る中、リバーブの効いた空間的なボーカルが響く。

 このアンビバレンスで微妙なニュアンスは、お互いの職人芸がぶつかりあった結果だが、先述した日本のダンスミュージック観と無関係ではないように思う。花譜の物語を考える上でも、具体的な指標がないほうがひとりの観客としてはありがたい。映画はオチが読めるものよりも、先行き不透明なほうがドキドキする。

 音楽を辿る上ではジャンルは重要だが、そのときこそ我々メディアやレコードショップのバイヤーの出番だ。その意味で、「組曲」プロジェクトは“解き明かす”楽しみがある。物語の結末が待ち遠しいような、まだまだ終わってほしくないような、なんとも矛盾する心境だ。

花譜、ジャンルレスなコラボが生む“バーチャル×リアル“を越境した音楽

日本の何処かに棲む、何処にでもいる、何処にもいない17才。2018年に歌手デビューし、2021年で3周年を迎える花譜が、リアルア…

第十四弾 花譜×MONDO GROSSO「わたしの声」

■リリース情報
コラボ企画『組曲』
第十四弾 花譜×MONDO GROSSO「わたしの声」(2023.8.6 Release)
https://phenomenon-record.lnk.to/myvoice

<『組曲』配信一覧>
第十三弾 花譜×ケンモチヒデフミ「しゅげーハイ!!!」(2023.7.5 Release)
https://kaf-kenmochihidefumi.lnk.to/handicraft-high

第十二弾 花譜×ズーカラデル「秘密の言葉」(2023.4.5 Release)
https://kaf-zookaraderu.lnk.to/secret-word

第十一弾 花譜×東京ゲゲゲイ「メイドインあたし」(2023.3.8 Release)
https://kaf-tokyogegegay.lnk.to/Made-in-me

第十弾 花譜×ORESAMA「CAN-VERSE」(2022.10.12 Release)
https://lnk.to/kaf_can-verse

第九弾 花譜×可不「流線形メーデー」(2022.7.13 Release)
https://lnk.to/kaf_streamline_shape_mayday

第八弾 花譜×MIYAVI「Beyond META」(2022.5.11 Release)
https://lnk.to/kaf_miyavi_beyond_meta

第七弾 花譜×長谷川白紙「蕾に雷」(2022.4.20 Release)
https://lnk.to/kaf_thunder_in_bud

第六弾 花譜×くじら「春陽」(2022.3.23 Release)
https://lnk.to/kaf_springtime

第五弾 花譜×羽生まゐご「わたしの線香」(2022.2.23 Release)
https://lnk.to/kaf_maigohanyuu_myincense

第四弾 花譜×たなか「飛翔するmeme」(2022.1.19 Release)
https://lnk.to/kaf_tanaka_flymeme

第三弾 花譜×佐倉綾音「あさひ」(2021.12.8 Release)
https://lnk.to/kaf_ayanesakura

第二弾 花譜×大森靖子「イマジナリーフレンド」(2021.11.17 Release)
https://lnk.to/kaf_imaginaryfriend

第一弾 花譜×GLIM SPANKY「鏡よ鏡」(2021.10.27 Release)
https://lnk.to/kaf_mirrormirroronthewall

花譜 『組曲』オフィシャルサイト
https://kaf3rdanniversary.kamitsubaki.jp/project/kumikyoku/

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