長瀬有花、エンタメ性溢れる怒涛のステージ バンドセットならではのアレンジで魅了した初の有観客ワンマンライブ『Eureka』

長瀬有花、初の有観客ワンマンレポ

 2023年8月25日、リアルとバーチャルを行き来するシンガー・長瀬有花が恵比寿LIQUIDROOMにて自身初となる有観客ワンマンライブ『Eureka』を開催した。2020年にシンガーデビューを果たし、これまで数多くの楽曲をリリース。様々なライブパフォーマンスをインターネット上で開催してきた彼女だが、有観客ライブは活動3年目にして初となる。2023年はコンセプトライブ『Form』の連続開催や、6カ月連続デジタルリリースを行うなど、シンガーとして精力的な活動を行ってきた。そして、満を持して開催されたメモリアルなライブ『Eureka』のレポートをお届けする。

 19時をすぎた頃、暗がりのステージの中央からバーチャルの姿で長瀬有花が登場した。バンドメンバーが静止している中、控えめな青色のライトも同じように不動のまま「fake news」が流れ出す。さらには、長瀬有花が登場したにも関わらず会場にいたオーディエンス全員が微動だにしないという異様な光景と時間が広がっていた。リアルとバーチャルを行き来する存在である彼女がバーチャルの姿で現れたこと自体、何もおかしなことではないが、その場にいた全員が何かしらの違和感を抱えつつ、そんな光景をじっと見つめるように、虚ろな雰囲気を醸し、長瀬有花は機械的にリズムを刻みながら歌唱を始める。無機質に拍車をかけた電子音楽が鳴り止み、そのまま「駆ける、止まる」がスタート。オーディエンスは静止を続けたまま、気持ち程度にリズムを刻む。そして、長瀬有花の人気トラックに歓声が上がらないという異質な空間に合わせるかのように、映像と音が歪み、「長瀬有花 ライブ Eureka」のコールと共に長瀬有花本人がステージ中央の宇宙船の中に姿を現した。まるで夢から覚めたかのように、1秒程度の空白を経て大歓声が会場内に響き渡る。

 大々的なオレンジのスポットライトが行き交う中、わずか数分程度の演出に面食らったオーディエンス達が、スタートダッシュに遅れた走者のように慌ててステージ上のテンションに追いつこうと激走する。同時に、長瀬有花の存在証明を実感する必要があり、さぞ大変だっただろう。デビューして約3年、満を持しての有観客ライブ。バーチャルの姿をフリに使った演出に対して、アイロニーは感じられない。緻密でダイナミック、奇想天外ないつも通りの長瀬有花の3年間の集大成が詰め込まれたライブが始まったと再認識できるスタートだと感じた。白いフードに覆い尽くされた宇宙服をモチーフにしているであろう衣装に身を包み神妙な表情を浮かべる長瀬有花と、今まで聴いてきたものとは全く別の曲かのような生演奏の凄まじい迫力に圧倒され、さらには「やっと皆さんの前で歌うことができます~」という緩めの掛け声のコンボはとにかくいい意味でパニックだった。

 『Eureka』というライブ、とにかく怒涛のように楽曲が披露されていく。MCもほとんどなく、これまで溜まりに溜まった楽曲達を吐き出すかのように展開されていく。言葉通り、6カ月連続デジタルリリース第1弾でリリースした「白昼避行」が間髪入れずに始まった。長瀬有花の楽曲の中でも随一のアップテンポなダンスナンバーで、ライブ映えはピカイチ。サビのキャッチーさ、中毒性も高く、会場内は飛び跳ねるように湧き上がっていた。楽器隊のパワフルさと、脱力感のある歌声とのギャップを味わいながら、続いて「ライカ」の演奏がスタート。1stアルバム『a look front』と6カ月連続デジタルリリースの楽曲を交互に展開していくセットリストで、その狭間に新曲が突如披露されていく。ライブが始まってわずか5曲目には新曲「近くて、遠くて」が披露された。

 この日、バンドセットが一番遺憾無く発揮されたであろう「アーティフィシャル・アイデンティティ」が始まり、イントロの時点で会場からは大歓声があがった。曲のパワーも相まって、長瀬有花の動きも大きくなっていく。オーディエンスの熱気に負けじと衝動的ではあるが、飛び跳ねるような躍動感のある歌唱が見られた。そんな高まりまくった会場の高揚感を置き去りにするかのように「とろける哲学」を披露。再び脱力の波に引き戻していく。これが長瀬有花の世界観の真骨頂であり、オーディエンスもセットリストの緩急に自然と対応している姿が印象的だった。生バンドの演奏ということもあって、ほとんどの楽曲で様々なアレンジを体感することができたが、「とろける哲学」は、よりジャジーなピアノの旋律が印象的で、「皆さん脱力してますか~?」と脱力確認も律儀にコールされていた。

 囁きかけるように、それでも機敏な動きで表現していた「ハイド・アンド・ダンス」。メロディアスな部分はしっとりと歌い上げ、楽曲の中で緩急をつけて、見ていて飽きさせないようなパフォーマンスが光っていた。そしてここでまた新曲の登場。「むじゃきなきもち」は、長瀬有花のマストアイテムであるチロルチョコとのタイアップ曲。「とろける哲学」や「みずいろのきみ」でお馴染みのcat napの2人が再び長瀬有花の楽曲を手がけている。「ぜひ、味わってください」という声かけ通り、ファンシーポップな雰囲気がチロルチョコを絶妙に表現し、チロルチョコへの愛が伝わるような歌詞もユニークだった。そしてアカペラアレンジからスタートした「アフターユ」は、バンドアレンジでここまで楽曲の雰囲気が変わるのかと思うほど、表情の変化が凄まじかった。サビ部分で腕を前方に振り上げる長瀬有花に合わせて、オーディエンスも腕を上下に音に酔いしれていた。のめり込んで楽曲を聴くというよりは、純粋な音のグルーヴに体を委ねているような、そんな光景が広がっていた。

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