ラッパ我リヤ「ヤバスギルスキル」の“ヤバさ”とは何なのか? 30年近くにわたる一大サーガを徹底解説
そしてそこからおよそ30年に渡って連作としてリリースされている「ヤバスギルスキル」シリーズだが、連作でありながら、実はそこに「パッケージ的な」連続性はない。
例えば人選。「パート1」以外は客演作として作られ、「パート2」にはSkipp、「パート5」はPAULEYと、ユニット・INDEMORALのメンバーが、「パート3」にはARK、「パート4」はGINRHYME DA VIBERATERと、ユニット・BACKGAMMONのメンバーが参加しているが、これはINDEMORALもBACKGAMMONもラッパ我リヤが中心となったクルー・走馬党に所属しているからであろう。その意味でもここまではクルーのメンツが参加する連作であったが、「パート6」にはTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINO、「パート7」ではDABOと、走馬党外のラッパーが参加。そして「パート8」ではZINGIから魔梵とMC仁義というラッパ我リヤの先輩世代とコラボを果たす。同じく「パート8」にはグラフィティライターのTOMI-E、「パート9」では山嵐のSATOSHIが参加し、ジャンルやアートフォームを横断。「パート10」では大阪の韻踏合組合とコラボし、地域も横断している。
また、サウンドとしても「パート1」は山田マン、「パート2」はDJ KENSEIを中心にINDOPEPSYCHICSがプロデュースし、当時のアンダーグラウンド感をビシビシ感じさせる煙たいダウナーなビートが印象的な作風。そこから満を持してのMummy-Dプロデュースの「パート3」は、さぞやハードなビートが……というリスナーの期待をうっちゃるようなスッポコヘッポコした音響には、リスナーが戦慄したものである。それに乗るラッパ我リヤのラップは、山田マンの〈どうせ老後も東京の路上に登場/BB弾くらっても元気な曾祖父さん〉という「後世に残したい韻100選」があったら確実に上位に食い込む言葉をはじめ、Qの〈お前の銀行の暗証番号/すなわち実像と大差ない残像〉という「……それは銀行残高じゃないの?!」という思わずツッコまざる得ないパートや、ARKの〈すまんなんせ!ARKのライムスタンガンで、スタンバッてるスタンハンセンもルパン三世のよう〉というロングライムの畳み掛けなど、とにかくエンターテインメント性に溢れた曲として制作され、それまでの「ヤバスギルスキル」像をガラッと塗り替えた。
またバウンスビートの「パート5」や、オールドスクール感のある「パート8」、ロックに振り切った「パート9」や「パート10」と、そのサウンド性も一貫するというよりも、その時代やラッパ我リヤのその時の趣向に合わせたビートがチョイスされている。
では世代も、サウンドも、クルーも、ジャンルも横断して制作される「ヤバスギルスキル」に共通するものとはなんなのか。
それは「いかに俺たちはヤバ過ぎるスキルを持っているか!」ということに尽きるのである。
なんてシンプル! そしてなんてラップが根本的にもつ「俺が俺が!」という主体性を押し出す本能に対して忠実なのだろうか。だからこそ、まさに〈執念深い 言葉尻のストーカー〉なハードライムを貫く「パート6」のILL-BOSSTINO、前半部をすべて「O/U」の母音でまとめ(もっと複雑なのだが便宜上)、中盤はフロウでまとめ、後半部は言葉をきっちり詰める形でDABO印のラップの心地よさを一曲に詰め込む「パート7」のDABOと、どの客演アーティストも、どのトラックメイカーも、そのアーティストの「得意技」や「必殺技」「チャレンジ」を惜しみなくぶつけるのだろう。
そしてその最新作となる「パート11」には、梅田サイファーからKBD、KZ、そして「山田マンを竹中直人だと思ってTSUTAYAで借りたのが『SUPER HARD』だった」という特異過ぎるラッパ我リヤへの入り口をもつ(単行本『Rの異常な愛情─或る男の日本語ラップについての妄想ー』参照)R-指定が参上。梅田サイファーの中でもライミングに強いフェチズムを持つ3人の起用は、必然だったと言えるだろう。また、KBDは〈R.G.力学〉、KZは〈現場アクター〉、R-指定は〈ウルトラハード/スーパーハード〉とラッパ我リヤのクラシックをワードに折り込むのも、ヘッズならではで心憎い構成だ。また、「パート11」ということで11、つまり『SLAM DUNK』の流川楓の背番号からバスケをリリックに折り込むR-指定だが、もしかしたらそこには『SLAM DUNK』だけではなく、ラッパ我リヤが主演した、なぜか黒沢清も出演している映画『3on3』(服部昇大の漫画『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』でも題材になった)も意識しているのかもしれない……というのは考えすぎか。
対するラッパ我リヤも、山田マンは前半は「O/U/E/U」で踏み続け、〈即破壊〉〈コブラ会〉とロングライムも決め、〈常時僕らマジ押韻凄く硬い〉と、まさに仰るとおりのリリックで纏める。対するQも〈脳みそ荒らすカラス分からすかます/寒さがアラスカだとハマる罠〉という、ライミングの鋭さで聴覚を刺激しつつ「……でも、どういうこと?」と謎をぶつけ、これぞ我リヤイズムと言わんばかりの構成で梅田サイファーを迎撃する。
……うーむ、まだまだ書きたりないのだが、締め切りが来ているのと、オーダーの2000字から倍以上書いてしまっているが、原稿料が増えることもないので、ひとまずここで筆を置くことにする。まだこの10倍は書こうと思えば書けるし、とにかくそれだけ「ヤバスギルスキル」はヤバすぎる作品なのである。改めて「面白いラップと押韻」を貫き続けるラッパ我リヤには敬服する他ない。これから40年、50年と「ヤバスギルスキル」サーガを生み出し続けてほしいし、一生聴き続ける所存です! 押忍!
■リリース情報
「ヤバスギルスキル11 feat. R-指定, KZ, KBD from 梅田サイファー」
2023.08.11 Digital Release
楽曲視聴リンク:https://linkco.re/49TPrmaQ
Official Site / https://www.msrecord.co.jp/rappagariya/
Twitter / @rappagariya_org
Instagram / @rappagariya_official