GACKTなど手掛けたプロデューサー鮫島巧によるアイドル・24emotions 対談で明かす“ファン0人でZeppワンマン”の真相
このシーンは“勝ち”にしつこく執着した人こそが勝てる世界(鮫島)
──今年の3月には、デビュー曲「24emotions」のMVが公開されました(デジタルリリースは同年5月)。
鮫島:最初の名刺代わりになる曲は王道アイドル感の強いロック曲とはじめから決めていて、そこから徐々に自分たちの世界観が出せる方向性にズラしていくことを事前に想定していました。方向性の模索や研究も兼ねて、多くのアイドルイベントにも出演して、エモいロック調の曲、自分たちの目指す世界観の曲、双方がアイドルシーンや、オンラインのなかでどう映えるかを、お客さんやユーザーの反応を見つつ、自分たちなりに方向性を固めていきました。そこから、1stアルバムのサウンドの世界観を創り上げました。基本的には自分たちの好きなことを思いっきりをやっています。
──MVの作風も、最初の2作品(「24emotions」「ふぁびゅらす」)は、続く「Miracle Mirror」や「mia mia」と異なるテイストです。
鮫島:最初の2曲は、結成して1カ月後くらいに同じ日に撮ったんです。急ピッチで進めていたので衣装も撮影2日前に仕上がるとか、そういうレベルでしたし。24emotionsは、あえて色をつけないで真っ白な状態からスタートして、一流の監督さんやスタイリストさん、カメラマンさん、デザイナーさんなどとのクリエイティブのぶつけ合いによってキャンパスに色を塗っていこうと思っていました。いろんな色を塗っていただくことで、僕が見えてくるものもありますし、彼女たちが見えてくるものもある。今は1カ月ごとに新しいMVを発表していますが、垢抜けていくスピードは誰が見てもわかるレベルでかなり変わってきています。1作目と4作目を比べたらびっくりするんじゃないかと思います。
ハルナ:デビューしてまだ半年も経っていないというその事実に、自分たちがいちばん驚いていますから(笑)。最初はMVを撮るたびに自分たちのその時のベストを出していたけど、毎回そのベストが更新されていることに、あとから気づくんです。
サキ:1作目の時はそれ以前の私たちよりも垢抜けたと思っていたけど、今と比べたら全然ですからね(笑)。
サクラ: 1作目は白い背景に自分たちをそのままアピールするだけでしたが、曲の世界観に合わせてダンスや表情を作っていくという工程を積み重ねていくなかで、みんなの表現力も徐々に変わっていきましたし。
サキ:表情に関しても、1作目は笑顔が中心だったけど、だんだんとかっこいい雰囲気だったりちょっとセクシーな顔つきだったり、自分に合った新しい表現ができるようになりました。
──この短期間で、自分のなかで新たに見つけられたものはありましたか?
クルミ:私は、何かに対して命を懸けるほど頑張るということが以前は得意ではなくて。何事も平均的にできたらいいかなと思っていたんですけど、このプロジェクトに関わってからはすべてに全力で取り組んだり、何か目標に向けて走る姿勢を新たに見つけられたと感じています。
サクラ:今までは人前で何かを話したりする時に、自分のことをうまく表現できなかったんですけど、この活動を通して自分に何が必要かを必然的に考えられるようになってからは、「自分は今どんな状況にいるんだろう?」と一つひとつ踏みとどまることが増えて。そういう意味では、何事からも逃げないようになった気がします。
ユラ:私はもともと何かを考えることが大嫌いだったんですけど、この活動を初めてからは自分がどういう立場なのか、どうしたら24emotionsが成長するために自分が役立てられるのかを考えたりすることが増えていて。それこそ、最近は自分の見せ方だけじゃなくて、メンバーのこともたくさん考えるようになりました。あと、わからないこともそのままにせず、メンバーに質問できるようになったのは成長したところかもしれません。
ハルナ:(24emotionsを結成する)以前は男性のなかに混ざって踊ることが多くて、こうやって女の子だけで踊ることがまったくなかったから、踊り方も男性と一緒に踊っていた頃と変えたくないというこだわりがあったんです。でも、今はこの5人で踊る時の魅せ方を曲ごとに変えていかなきゃいけないと、柔軟に考えられるようになりました。
サキ:私はもともとワンピースとか花柄の可愛らしい服装が好きだったんですけど、そういう自分の好みと24emotionsでの自分のキャラクターにギャップが出てきたなと感じていて。というのも、3作目のMV「Miracle Mirror」でかっこいい系のパンツスタイルで、女スパイみたいな衣装に挑戦したことが大きくて。私、腹筋を鍛えてバキバキのタイプなので、露出の多い衣装を与えられたことで、外から見られることに対しての意識が高まって、最近はパーソナルジムにも通うようになりました。
──そうやって模索していった結果、現時点でこれが24emotionsの武器だと思えるものは見つけられましたか?
鮫島:僕はこれまで、最前線で活躍されている一流アーティストの方々とずっと一緒に仕事をしてきましたが、彼らは仕事とプライベートの境もない。常に意識がプロフェッショナルなんです。この世界を勝ち残っていく難しさも痛感してきた。ほとんどがいなくなっていく世界ですから。彼女たちはまだ新人ですが、目指す場所に行くためには、今の第一線にいる人たちと競いながら、より多くの評価を得なくてはいけない。そのために、自分たちの武器になるものはすべて会得していかなくちゃいけないわけですが、今はまだまだ足りていない。とはいえ、このトップスピードの船に振り落とされそうになりながらも、みんなが必死にしがみついて着いてきてくれているので、全員がかなりのスピードで成長しているのはすごく実感しています。その過程で培った忍耐力や適応力も、今の彼女たちにとっては大きな武器なのかもしれません。
僕はSNSについては、たとえばTwitter(現X)がニュースを発信する場だとしたら、YouTubeはMVが中心なのでクオリティを重視していて、24emotionsにとってはステージと一緒であり、TikTokは、トレンドを追う動画やドキュメントムービー含め、メンバーのパーソナリティをしっかり見せられたり、楽曲をいろんな形でプロモーションできる自分たちの番組だと考えています。MVを1カ月に1度のハイスピードなペースで発表し続けているのには、まだ24emotionsを知らない方への入り口をひとつでも多く増やして、興味を持っていただくことが目的です。今はまだ地盤固めの時期で、メンバーがさまざまなSNSを使い分けるということも、グループの拡大にはオンラインメディアは再重要ですので、日々どのSNSが効果的に数字が伸びていくのかをいろいろな角度から試していって研究しています。そういったツールもすべて武器になっていきますので。
サキ:本当に毎日が戦いです(笑)。
──でも、そこで闘争心を失ってしまったら、モチベーションはどんどん落ちるだけですし。
鮫島:それこそ4th MV撮影前日に、僕が「もう解散するぞ!」と怒った出来事があったんですが、みんなは「これが最後の作品になってしまうかもしれない……」という気持ちで、モチベーションも必死で上げて撮影に臨んだと思うんです。そういうシリアスな状況だったので、あの時は非常に緊張感があるMVに仕上がりました。
サクラ:これからMV撮影の前は、毎回怒られるかもしれない(笑)。
クルミ:あれ以上の作品を作るためにはね(笑)。
鮫島:僕は彼女たちを怒りたいと思って怒っているわけじゃないです(笑)。なんとしてでも勝たせたいの一心。グループとしては、来年1月にKT Zepp Yokohamaでのワンマンライブを成功させることを今の目標に掲げていますが、このシーンは勝ちにしつこく執着した人こそが勝てる世界。たまたまバズって、運よく成功する人も一握りはいるのかもしれないけど、たいがい成功者は、必死で研究して実践して反省しての繰り返しがしっかりできる人。惰性でなんとなくな気持ちでやっているだけじゃダメなわけで、「成功のイメージをしっかり描く、勝ちに執着する」ということをずっと言い続けています。
サクラ:以前の私は「歌が好きなんだから、ただ歌えればいい」と、ちょっと浅はかなところがあったんですけど、活動していくなかでアーティストとはどういうものなのかを巧社長から教えていただいたことで、自分たちが発言していく言葉の一つひとつに責任を持たなきゃいけないし、ただ歌うだけじゃなくて、私たちが伝えたい想いは何なのかをちゃんと考えたうえで歌わないと届かないんだということを最近実感しています。
先日、みんなでMrs. GREEN APPLEさんのライブを観に行かせていただいたんですけど、その時に1フレーズだけでも信じられないくらいに感情を揺さぶられて、開始5秒ぐらいで号泣しちゃったんです。そういう感動を与えられるアーティストさんって、普段どんなことを考えながら生活をしているんだろう?と思うと、やっぱり私たちにはまだまだ足りものばかりだし、もっとやらないといけないこともたくさんある。だからこそ、Mrs. GREEN APPLEさんみたいな表現者になれるように、熱意だけは絶やさないようにしていきたいねって、いつも話しています。
鮫島:バンドなどと違って24emotionsのようなガールズグループは自分たちで曲を作っていないけど、作り手の気持ちを理解することはすごく大切。なので、制作過程の最初のデモの段階から曲の意図を説明します。こういうインタビューでもメンバーが作ったと錯覚してもらえるぐらいのことを言えるようになってほしいんです。実際そういう話ができるアイドルグループって、説得力があるじゃないですか。彼女たちもどんどん吸収していってくれたら嬉しいなと思っています。