つんく♂が楽曲制作で常に意識してきたこととは? 「ズルい女」「Yeah! めっちゃホリディ」……ヒットの理由を自己分析
つんく♂が作詞・作曲・プロデュースで関わった楽曲データを完全掲載したムック本『ALL THE SONGS OF つんく♂』が発売された。収録された楽曲データは、シャ乱Qからソロワーク、ハロー!プロジェクトなどのプロデュース作品や提供楽曲、DVDでしか聴けない楽曲、未発売の楽曲まで、じつに2000曲以上。さらに秋元康、小室哲哉、ハロー!プロジェクトを擁するアップフロントプロモーション代表取締役・西口猛とつんく♂との対談、鈴木愛理・宮本佳林・小田さくらがつんく♂楽曲を語り尽くす座談会も掲載。また、著名人らによる「My Best つんく♂曲」アンケートなども収められている。
リアルサウンドではつんく♂にインタビュー。これまでのキャリアを振り返りながら、楽曲制作に対する考え方、プロデューサーとしてのスタンス、今の音楽シーンへの思いなどについて聞いた。(森朋之)
「ズルい女」は完璧じゃないバランス感が日本人に刺さりやすかった
――『ALL THE SONGS OF つんく♂』、すごく読み応えがありました。つんく♂さん自身もこれまでのキャリアを振り返る機会になったのでは?
つんく♂:そうですね。ライブで何回も聴いた曲、トラックダウンに立ち会った曲などはもちろん覚えているんですけど、トラックダウンしてない曲や提出しただけの曲については、忘れてる……とまではいかないけど、パッと思い出せないこともあってね。この本が出るにあたって、ハロー!プロジェクトのメンバーと対談する機会があったんですけど、みんなはよく覚えてくれてるんですよ。自分がライブで歌ってたり、誰かが歌ったのにせよ、聴き込んでたりね。で、「この歌詞は、どんな気持ちで書かれたんですか?」と聞かれて、「ごめん、どれだったっけ?」と、その場で検索して「あ、これか」みたいなこともありました(笑)。
――2000曲以上ですからね。
つんく♂:「何でそんなにたくさん曲を書けたんですか?」と聞かれることもありますが、作ったら忘れることが大事なのかなと。曲を作っていて「この曲、あの曲と似てるかな」なんて思うと続けられない。そういうことを気にしないでバンバンやらないと、逆に過去の曲を越えられないものです。
――もちろんインプットも必要ですよね。止まることなく、吸収しながら走り続けるというか。
つんく♂:そうですね。楽曲制作を始めた当時はインターネットもそこまで発達していなくて、週に1回くらいタワレコなど大型のCDショップに行って、気になるCDとかジャケットが気に入ったものとかをどっさり買ってたんですよ。それを聴きながらインプットしてましたね。「このつかみいいね」とか「この感じ、上がるね〜」とか言いながらね。あとはちょっとわけがわからないかもしれないけど、MTVのような音楽専門チャンネルを音を出さずにつけっぱなしにして、作曲とか作詞をしてるんです。基本は無視なんですが、時折目に飛び込んでくる映像が気になったら、音を出して聴いてみたり。まあ、キリがないんですけどね。
――なるほど。これまで世に送り出してきた膨大な楽曲のなかで、つんく♂さんのターニングポイントになった曲は?
つんく♂:まずは「ズルい女」(シャ乱Q)ですね。モーニング娘。でいうと「LOVEマシーン」「リゾナント ブルー」「One・Two・Three」。松浦亜弥はやっぱり「♡桃色片想い♡」かな。
――なるほど。「ズルい女」は、「シングルベッド」に続く代表曲。どんな狙いで制作された楽曲なんですか?
つんく♂:自分たちの前にはMr.Childrenやスピッツなどの流れがあって。彼らの音楽は今聴いてもよくできているし、J-POPの素晴らしさが詰まっている曲だなと思うんですが、当時は「彼らとの違いをどう出すか?」ということを考えてましたね。僕は70年代のディスコが好きだったから、それをバンドでやるのはどうしたらいいだろうと、よく考えてはいました。ただ、シャ乱Qメンバーの好きなジャンル要素はバラバラだったので、ファンキーなことをやろうとしても、みんな聴きかじりだからね。だからアマチュア時代のファンキー系の曲はちょっとコミカルに仕上がってましたね(笑)。デビューしてからも僕はそのあたりのジャンルが好きで。その辺を追求して、なんとなくブラックコンテンポラリーのかすかな匂いが出たうちの一つが「ズルい女」。完璧じゃないそのバランス感が日本人に刺さりやすかったんだと思います。もっと上手かったら、リスナーにとっては他人事みたいに聴こえていたんじゃないかなと。
――広く大衆に愛される曲は、本物すぎないほうがいい、と?
つんく♂:J-POPという観点のお話ですが、その境目がどこにあるかはわからないです。ただ、なんとなく、追求しすぎると聞き手を選ぶことになってしまうように思うんです。「ズルい女」のリズムは当時の日本のバンドサウンドにはなかったと思うし、僕らにとっては限界ギリギリのリズムへのチャレンジだったと今となっては思います。結果的に上手くいったという感じですね。その延長線上にモーニング娘。の「サマーナイトタウン」「抱いてHOLD ON ME!」があって。さらに追求したのが太陽とシスコムーンですね。あのグループには当時の僕の音楽的な知識、自分がやりたいことを全部ぶち込んだんですが、良くも悪くも「やり切った」というのがあの結果だったんです。太陽とシスコムーンでいろんなチャレンジをしたからこそ、その後の「LOVEマシーン」が生まれたんですよね。
――太陽とシスコムーンはむしろ今のほうが評価が上がっている印象があります。
つんく♂:それは、時間も手塩も相当かけたので、今ごろ染み込んできてると思います。だから何も押しつけてないけど、Juice=Juiceが「Magic of Love」をカバーしてくれたりね。ありがたいです。オリジナルのような、「ガチファンキーなのにポップなあの感じ」は、時代を超えてもなかなか出せないんですよね。例えばMISIAみたいな本格的な歌手が4人集まっても、本物すぎて面白くなくなるんだろうな~みたいな。そういう意味で、太陽とシスコムーンは今聴いても「よくできてるな」と思いますね。
ファミレスのメニューのように広げたジャンルはそれぞれへの“入門編”
――『ALL THE SONGS OF つんく♂』には、著名人による「My Best つんく♂曲」アンケートも収録。蒼井翔太さん、朝井リョウさん、岩尾望さん(フットボールアワー)などが参加していますが、みなさん選んだ楽曲が見事にバラバラですね。
つんく♂:「TOUCH ME」(TSUNKU)を選んでくれた方が二人いましたね。けど、あとは被ってなかったです。楽曲のことを書いている人もいるし、歌詞について分析している人もいて。当時の自分自身とシンクロさせている人もいたり、いろいろな感想があって面白かったです。愛のこもった感想ばかりで何度も読み返しましたね。うれしかったです。
――小出祐介さん(Base Ball Bear)、ハマ・オカモトさん(OKAMOTO’S)などのミュージシャンのコメントも興味深くて。下の世代のミュージシャンへの影響について、どう感じていますか?
つんく♂:自分の曲をきっかけにして、そのジャンルに深く興味を持ってくれたらいいなと思っていますね。入門編というか、ヒップホップやディスコなどいろいろなジャンルの曲をファミレスのメニューみたいに並べてきたので、「この曲、好きだな」と思ったら、そこから先を追求してもらえたらなと。ベースラインが面白い曲も多いし、もしかしたらハマくんも何かを感じてくれてたのかもしれないですね。
――「ファミレスのメニューみたいに、いろいろなジャンルの曲を並べる」というのは、意識してやっていたんですか?
つんく♂:そうですね。「いろんなメニューがあるけど、全部ちゃんと出汁から作ってるんだな」と、わかる人には感じてほしかったというか。「あそこに行けば何でもあるよ」みたいなファミリー店に食べに来て、普通は、お腹いっぱいになったらお支払いしてそのまま帰るじゃないですか。基本的にはそのまま帰ってもらっていいんですけど、時折、味のわかる人が「あれ? このラーメン、美味くない? え、3日かけて出汁取ってるの?」ってなれば、口コミもするだろうし、きっとハマってくれるはずなので。
――気軽に食べられるんだけど、じつは本格的。
つんく♂:そうそう。家族連れで来ても大丈夫というか、「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」(ミニモニ。)は小さい子でも楽しめるし、見た目が可愛いってだけでもいい。でも、それだけじゃなくて、それぞれの曲が音楽としてもちゃんと成立していたからこそ、これだけたくさんの人が興味を持ってくれて、30年以上続けてこれたのかなと。やっつけでやらなくてよかったと思ってますね。
――異なるジャンルの組み合わせ方もすごいですよね。たとえば「Yeah! めっちゃホリディ」(松浦亜弥)のインド音楽の取り入れ方や楽曲全体の展開は、今聴いてもめちゃくちゃ斬新です。
つんく♂:当時、インド音楽にハマってたんですよ。The Beatlesのジョージ・ハリスンがハマったというのも納得でした。急にインドの音楽の不思議さが気になって。「あれ? ただのドレミファソラシドじゃないぞ!」って思って、音階などを自分なりに分析して、すごく面白いなと。まず「ハッピーサマーウェディング」(モーニング娘。)を作って、さらに表現力を増した状態で作ったのが「Yeah! めっちゃホリディ」だったんですよ。サビから始まるんですけど、じつはAメロが命で。ジェットコースターの最初のカタカタ上がってく感じがこのAメロのイメージです。で、あの不思議なインドな感じのAメロからBメロで急にスピードアップして。で、サビで一気に落下する、そうやってイントロに戻るとめっちゃ安心するんです(笑)。ちなみにAメロのメロディ(音符)ですが、一つの音符で本来のピッチのある位置より音がニョキと飛び出して、そこから急降下してニュルっと正しいピッチに戻るというのがあの気持ち悪さ(不思議感)で、それがだんだん気持ちよさに変わるんですよね。