春野、1stアルバム『The Lover』での感情の変化が表情からも明らかに 観客と心通わせた代官山UNITワンマン

 2017年よりボカロPとしてエレクトロニカで洒脱なオリジナル曲を制作し、その後シンガーソングライター/プロデューサーとしての活動を始めた春野。作詞、作曲、トラックメイキングを自身で行ない、70~80年代ポップスからローファイヒップホップやオルタナティブR&Bまで幅広いジャンルを横断する作品をリリースするなど、マルチな才能を発揮する。そんな春野が、5月10日にリリースした1stアルバム『The Lover』を記念し、ワンマンライブ『HARUNO “THE LOVER RELEASE ONEMAN LIVE”』を大阪の1DAY&東京2DAYSの計3日間開催。そのうち、7月15日、東京・代官山UNITにて開催されたライブの模様をレポートする。

 春野がワンマンライブをするのは、キーボードの前に立った春野とオーディエンスが向かい合う形で開催した昨年のワンマンライブ『HARUNO #25-26 ONEMAN LIVE』以来。会場が暗転すると、ステージ上が幻想的な青い光に満ちていく。今回もキーボードの前に現れた春野。しかし、ステージ上にはもう一人いた。1stアルバム『The Lover』収録曲「U.F.O」をはじめ、ギターで参加するようになったHISAだ(SIRUP、佐藤千亜妃などのライブにギタリストとして参加している)。打ち込みのベースやドラムに、ギターの生音が一味違う華やかなエッセンスを足したのは、今回のライブツアーが初となる。

 1曲目のローファイヒップホップの雰囲気が保たれたインストゥルメンタル曲「Iron」から、「Like A Seraph」へ曲が変わると、そのスムーズなグルーヴ感からオーディエンスも微かに身体を揺らし始めていく。時折鳴る打ち込みのベースがファンクサウンドを醸し出し、音像にますます立体的な広がりが生まれる。曲名通り、韓国語で‟天使のように”の意味である〈천사처럼〉が出てくるサビの歌詞。英語も韓国語も日本語の歌詞も違和感なく溶け込み、そのすべてがメロディとして成立する新奇さは春野の柔らかな歌声だからこそ。たとえ、言葉の意味が通じなくても心が通じ合う理論が春野の歌には存在する。

 「I’m In Love」を経て、「みんな歌えるか?」と身体をようやく起こし立ち上がり歌ったのは、yamaをフィーチャーした「D(evil)」。イントロの時点でオーディエンスから喜びの声が沸く。下を向き、重々しい佇まいで歌う「Buddha」では、低い声と繊細なファルセットが交互に行き交う様子が強調されていて、ボーカリストとしても新境地を切り拓いていたように思う。kojikojiをフィーチャーした「Dance At The Moonlight」、ピアノが優しい音を奏でた「KID」を挟み、再び、ファルセットを駆使する「Los Angeles」が流れる。

 春野は、初音ミクなどの音声合成ソフトを使い、ボカロ曲を制作してきたボカロPのうちのひとり。今でこそ、シンガーソングライターとしても活動するボカロPは増えたが、そのなかでもジャズやヒップホップに影響を受けた春野のメロディセンスや天性のボーカルワークは異彩を放っている。ある人は、ボカロ曲から。ある人は、インストゥルメンタルから。そしてまたある人は、ローファイヒップホップやオルタナR&Bから春野を知る――。このワールドワイドな音楽性は、確かに形を変えながら前に進み続けてきた春野ならではの特権だろう。

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