OAUの音楽が心に残した温かくて熱い余韻 ツアー『Tradition』を通して伝えた人間の力強さ

 OAUが全国8都市のホールを巡ったツアー『OAU Tour 2023 Tradition』。ツアーファイナルの7月8日、東京・昭和女子大学人見記念講堂公演。4月にリリースされたアルバム『Tradition』を携えたということで、セットリストは同作の収録曲を中心に構成。ライブのオープニングを飾ったのはアルバムの1曲目でもある「Old Road」だった。RONZI(Dr)とKAKUEI(Per)が叩くリズムのみが鳴る冒頭はどこか厳かだが、やがてTOSHI-LOW(Vo/A.Gt/Bouzouki)、MARTIN(Vo/Vn/A.Gt)、KOHKI(A.Gt)、MAKOTO(Cb)が合流することで躍動感、力強さが出てくる。MARTINが「東京!」と叫び、KAKUEIがステージ前方に出てくるなど、ステージングにも動きが出てくると、観客も手拍子してバンドのアンサンブルに加わった。ホールということもあり、それぞれの楽器の鳴りが非常に豊かだ。なお、TOSHI-LOWがこの日メインで弾いていたのは、2022年から練習していて、『Tradition』のレコーディングにも使われたブズーキ。ギリシャやバルカン半島の民族音楽などで使用される楽器で、近年のアイルランド音楽でもアイリッシュ・ブズーキという楽器が使用されている。アイリッシュに近いテイストのOAUの音楽によくマッチしている音色だ。

 最初のMCでMARTINが「なんか最初からめちゃめちゃいいじゃない。届いてるよ。気持ちいいよ。ありがとう」と、TOSHI-LOWが「東京、いいね。話が早いっつうかね」と言っていたように、ライブが始まってすぐに親密な空気が生まれた。「もう、手叩いて一緒に曲作ろう!」(MARTIN)と会場全体の手拍子とともに始まったアメリカンカントリー「Family Tree」もかなり楽しい。バンドのアンサンブルも、それを受け取り体を動かす観客も純度が高く、命が喜んでいるようだ。そんななか、TOSHI-LOWが語る。「世界中といつでも、どこでも繋がれてるはずなのに、なんで寂しいんだろう。なんで孤独感のある人ばかりなんだろう。我々OAUは考えました。そっか、頭でっかちになってたんだなって。だったら体から発するもの、それが俺たちの答えなんだと」。そして、“こんな世界に変わってくれたらいいのに”という想いを歌った楽曲「世界は変わる」を、「世界は、みなさんが一緒に歌ってくれたら、変わる」というライブならではのMCを添えて届けていく。

 アイリッシュパブで演奏されていそうなインスト曲「Blackthorn's Jig」は、ライブだとアクセントのつけ方がより力強く感じられ、その力強さのまま、OAU流の反戦歌「月だけが」が始まった。いや、“力強い”を通り越してもはや激しい。リズムや旋律の端々までメンバーの情熱が行き渡っていて、楽曲に込めた想いを目の前の人に伝えようという強い意思が感じられる。振り返れば、「Old Road」で始まり、(アンコールの「懐かしい未来」「帰り道」があったものの)「This Song -Planxty Irwin-」で締め括られたこの日のライブは、アルバムの大枠を踏襲した構成だった。今回のツアーには、コロナ禍や戦争の影響を少なからず受けているであろうアルバムに込めた悲しみや祈り、悲しくてもなお希望を手繰り寄せようとする人間の力強さを、ライブを通じて改めて伝えようという意図があったのではないか。

 ライブの後半では、「楽しいのが戻ってきてよかったじゃない。長い3年だった。世界が訳の分からないふうに変わっていって、自分にとって誰が大事かを学んだ。自分が大事にしたいのは、家族やメンバー、そして長い3年間付き合ってくれたお客さんです。世界が変わっていっても、俺は変わらないんだって曲をやります」とMARTINが紹介した「Change」、アコギ2本のやわらかなアンサンブルを主軸としたインスト曲「Linden」、アコースティックとエレクトリックのハイブリッドのような、意匠を凝らしたサウンドデザインを堪能できる楽曲「夢の続きを」などが披露された。そして「A Better Life」、「Peach Melba」、「Homeward Bound」と畳みかけていく。MARTINがもっともっとと煽るような仕草をするよりも先に、会場は大盛り上がり。客席からのエネルギーを受け取りながら、KOHKIがとんでもないギターソロをキメている。RONZIとKAKUEIが交互にフレーズを叩くセクションも最高だ。完全にハイになった観客が「フゥ―!」と歓声を上げるなか、「Making Time」ではダンサーのATSUSHIが登場。しばらくは壇上で舞っていたが、曲中、TOSHI-LOWに何か耳打ちをされたATSUSHIは客席に下りていく。ATSUSHIのパフォーマンスを至近距離で目撃したことから、観客はさらに熱狂していった。

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