和田アキ子「55年も歌うなんて思ってなかった」 歌手人生を支える存在、今歌うべき歌ーー“最後のホールツアー”への覚悟を語る

 和田アキ子が今年10月よりラストホールツアーを開催する。

 1968年のデビュー以来、「あの鐘を鳴らすのはあなた」や「古い日記」など誰もが口ずさめる名曲を世に送り出し、“和製R&Bの女王”として日本の音楽シーンの第一線で歌い続けてきた和田アキ子。最近ではフレデリックがプロデュースを手掛けた「YONA YONA DANCE」や、TikTokで数々のヒット曲を生み出しているmeiyoが提供した「KANPAI FUNK」を発表し、今もなおその歌声は広がりを見せている。

 テレビメディアなどから伝わる強いイメージとは打って変わって、取材を通して感じたのは長年のファンを心から思う真摯な姿勢であった。本インタビューでは、ホールツアーをラストと決めた理由をはじめ、自身のファンや歌を歌うことに対する思い、そしてデビュー55周年を迎えた今の心境を語ってもらった。(荻原梓)

今の全部を出し切って、かっこいい和田アキ子で締めたい

ーー『AKIKO WADA LAST HALL TOUR』を最後のホールツアーにしようと決めたきっかけを教えてください。

和田:昨年、左の股関節を痛めて、変形性股関節症と診断されました。それと右膝にも水が溜まっちゃって、普通に立っているだけでも辛いし、発声したらここ(股関節からお腹にかけて)に力が入らないんですよ。手術しないと治らないと医師に言われました。それで「これはひょっとしたら歌えないな」と思って、手術しようと思ったんですけど、手術するとリハビリに最低でも2週間、完全に復帰して声をちゃんと出せるようになるまで半年くらいかかると言われたんです。それじゃあ、すぐに手術は決断できないなって思いました。でもなんとか歌手・和田アキ子として、55周年の区切りはつけたかったんです。去年の暮れにブルーノートでは歌えたので、ライブはともかくとして、ホールツアーはひょっとしたら……と思いました。今年ホールツアーをやっておかないと、60周年の時に歌えるかどうかを自問自答してみた時、「それは体力的に無理やな」と思ったんです。それなら、たとえ今後もっと状態が悪くなったとしても、今の全部を出し切って、かっこいい和田アキ子で締めたいなと思ってるんです。でも、“ラストホールツアー”とは言ってるけど、今回うまくできたら、60周年でもやるかもしれない(笑)。

ーーぜひお願いします(笑)。

和田:去年のブルーノートは、ヒールも履かずにステージに椅子を置いて、痛み止めの座薬まで入れて、大変だったんですよ。ところが私、全然覚えてないんですけど、歌いながら踊りまくっていたらしいんです。だから、やってみないとわからない部分もありますね。歌はこれからも歌い続けるけど、ホールツアーを最後にしようと思ったのはそれがきっかけです。それにホールでしか響かない歌があるんですよ。

ーー今のうちに歌っておきたい歌があると。

和田:そうなんです。『NHK紅白歌合戦』で披露して当時話題になった「今あなたにうたいたい」みたいに、オフマイクにして客席の後ろのほうにまで届けるような歌い方をする歌は、ホールの広さでないと届かないですからね。そういうホールならではの歌を、なんとかみなさんにお聴かせしたいです。「今あなたにうたいたい」は、本当に今の私の気持ちなんです。だからこそ、心を込めてちゃんと届けられたらいいなと思ってます。

ーーホールツアーとなると、全国のいろんな人に会えますよね。

和田:それこそ「あの鐘を鳴らすのはあなた」の出だしの歌詞じゃないですけど、みなさんに〈あなたに逢えてよかった〉って伝えたいですね。ただ、55年もやっているとラジオ局でも出待ちをしてくれるファンがいるんですけど、もう年寄りばっかりなんです(笑)。「もっと目立たないところにいなさいよ!」って言うと、泣きながら「ファンになった時は14歳でした」「私は15です」なんて言ってきます。私は“あの子たち”って呼んでるんですけど、あの子たちが元気なうちは、ちゃんと歌って聴かせてあげたいですね。私と共に生きてきて、私が元気の源だって言ってくれていますから。

ーーファンと一緒に生きてきたと。

和田:そういうふうに、ずっと昔からのファンもいるので、(コンサートでは)休憩も入れたほうがいいかなとか考えていたりもしてます。ただ、2部構成にすると「1部の最後の歌はどうしよう?」とか「衣装も変えないといけない!」とか、いろいろ難しいんです。でもね、そういうことも含めて全部が楽しいなと今は思っていて、老若男女、みなさんが楽しんでくれたらと思っていますね。「あなたに逢えてよかった」という想いが、来てくださるみなさん一人ひとりに伝わればいいなと思います。

ーー最近はライブの現場もコロナ禍から元通りになりつつありますが、とはいえ、まだ腰が重い方もいると思います。ぜひ、そういう方のためにもライブで音楽を聴くことの素晴らしさをアッコさんの言葉でいただきたいです。

和田:まずね、生の和田アキ子を見られることって少ないと思うんですよ。よくステージで言うんです、「テレビより数段綺麗でしょ?」って(笑)。私の歌で言うと「笑って許して」という歌があって、私が〈笑って許して〉と歌うと「アッコー!」って返ってくるのが定番になってるんです。それが、この数年は声を出せなかったですからね。自粛期間が長かったぶん、今はライブに限らず外に人が出たがっているし、みんなワイワイ騒ぎたいと思うんですよ。そういう今だからこそ、「和田アキ子ってこんな歌も歌うんだ」とか「かっこいいじゃん」って思わせるチャンスだと思ってます。

ーー今はいろんな人に聴いてもらえる、いい機会だと。

和田:「YONA YONA DANCE」がヒットした時に、「若い人でも私の歌をわかってくれるんだ」と思いました。音楽に国境はないってよく言うけど、年齢も関係ないんだと思えたから、今回はいろんな意味で楽しみたいと思ってます。コロナ禍明けとか関係なく、みなさんにも楽しんでもらいたいですね。

和田アキ子 ー YONA YONA DANCE

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