ceroは無邪気なポップミュージックラバーであり続ける 『e o』の隙間から問いかける“古今東西の音楽の原点”

 ともすれば、すぐ解けるかもしれないこの“緩い結び目”に、ceroの3人は「音楽そのものの原点回帰」を見ているのかもしれない。ジャズだろうがファンクだろうがエレクトロだろうがロックだろうがカントリーだろうが、元はと言えばただの音楽でしかない、そしてそれは「自分(たち)」という尺度でしか推し量れないという真理に気づいてしまったようにも思えるのだ。例えば、筆者がまさにこのceroの新作の横に並べて聴いている1枚に、ミシェル・ンデゲオチェロのニューアルバム『The Omnichord Real Book』がある。ブランディー・ヤンガーやジェフ・パーカーらも参加したこの作品は確かにジャズの領域で紹介されることもあるのだろうが、実際は30年ほどをかけてジャズやR&Bの領域を自然と拡張させ、それをただ「自分」の「音楽」とするンデゲオチェロの哲学が凝縮された素晴らしいアルバムだ。そのンデゲオチェロがゲストボーカルで参加したサム・ゲンデルの最新作『COOKUP』も、ソウルやR&Bのヒット曲をカバーした企画作であるものの、最終的にはそれはもはや同じ「自分であるだけ」という目線で作られた「優れた音楽」でしかない。この2作品をリリースしたのが、それぞれBlue NoteとNonesuchという共に世界の大衆音楽の原点を知り、大胆に推進させてきた老舗レーベルであることを思うに、確実に今の音楽は「過去の在り方に倣った未来形」を指針にしているようにも思える。ちなみにBlue Noteの現在のトップは、あのドン・ウォズだ。

Meshell Ndegeocello - Clear Water (Official Video)
Sam Gendel - Anywhere (feat. Meshell Ndegeocello) (Official Visualizer)

 そして、ceroのニューアルバムにもそれらの作品、レーベルの今日的な姿勢に似た息吹を感じることができる。8曲目「Fdf (e o) エフ・ディー・エフ (イーオー) 」は素直なエレクトロファンク指向をベースにした曲だ。筆者がDJならTrouble Funk「Pump Me Up」と繋げてかけるだろう。だが、そこに初期ファミコンの音楽のようなチープな電子音が飛び出したり、70年代のニューソウル~ディスコへの展開が視界を広げたりするこの曲からは、ゴーゴーのようなファンクビートへの生真面目な研究・探求ではなく、それもいいけど、ゲーム音楽や大ネタのディスコだって面白いから入れてもいいんじゃないか? とでもいうような邪気のなさに筆者は思わず目尻が下がってしまうのだ。

Fdf (e o) エフ・ディー・エフ (イーオー) Official Audio

 「過去の在り方に倣った未来形」というのは、要するに「自分」がその音楽にいかに魅せられているか、夢中になっているのか、といった本能的な瞬発力がもたらすものではないかと思う。ceroのニューアルバムにほとんど恣意的な造作が感じられない、ただただ、目の前で夢中になれる音楽を放り込んだだけのような雑然性があるのも、そもそも音楽なんて好きなものを好きなように形にすればいい、という彼らの原点への気づきがそうさせているからかもしれない。『e o』というアルバムをどう難しく解釈するのもそれは自由だ。曲数の少なさ、短さから、ポップな作品だよね、と捉える人がいてもいいし、実際に筆者もそう思う瞬間がある。けれど、ともあれ、これはceroの3人が「とにかく音楽が好きな自分」であろうとした結果である、ということを筆者は承知していたい。

 バンド名の「Contemporary Exotica Rock Orchestra」から「Contemporary」と「Rock」を抜いたことはある意味でシンボリックではある。「現代の、当代の」「ロック」ではないということは、逆に言えば、その空いた隙間に何を入れてもいいよ、というサインでもあるだろう。あなたなら、そこに何を入れるだろうか。

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