長瀬有花が下北沢に残したいくつもの痕跡 二次元と三次元を横断したコンセプトライブ『Home』

 6月11日、長瀬有花がバーチャルオンラインライブ『Yuka Nagase Concept Live "Home"』を自身のYouTubeチャンネルにて配信した。

 バーチャルの世界とリアルを行き来しながら活動するアーティストである長瀬有花。2023年3月から毎月東京・下北沢を舞台にしたコンセプトライブ『Form』を行っていた彼女だが、本公演『Home』は名実ともにその集大成のようなライブとなった。

 開演数分前、前回のライブ『FormⅢ』の舞台となったオオゼキ下北沢店の前をスタート地点に、下北沢の街を歩く映像が流れる。開演時刻の20時30分に到着したのはmona records。階段を上り中に入ると、ライブがいよいよスタートする。

 二次元の姿で現れた長瀬が1曲目に歌ったのは「駆ける、止まる」。無数に並んだライトに照らされ歌う長瀬の前には3Dオブジェクトが浮遊しており、その光景がドリーミーな曲調や歌詞にマッチする。

「ここは二次元と三次元が混ざりあう漂流次元空間です。今まで長瀬がたどってきた次元のキャッシュデータが蓄積しているようですね。ここ数カ月、長瀬が残してきた痕跡を一緒に楽しんでいきましょう」

 朗読のように穏やかに語られたMCでも触れられたように、この日のステージセットにはこれまで長瀬が行った『Form』の舞台をはじめ、下北沢の様々な場所がスキャンされた3DCGモデルが採用されていた。その流動的に変化するバーチャル空間と長瀬の楽曲の相性の良さはこの公演の見どころのひとつ。「アーティフィシャル・アイデンティティ」の〈バグかエラーだ〉〈0と1の羅列〉といった歌詞は数字が降り注ぐステージにぴったりで、「とろける哲学」に差し掛かると橙色に光る猫がステージを浮遊し、揺蕩うような長瀬の歌声を反映するようにカメラもくるくると回転した。「だつりょく系アーティスト」を自称している長瀬だが、ステージを問わず溶け込めるその脱力した雰囲気こそが、自由な空間設計やドリーミーな演出を大胆に使ったライブを可能にしているのかもしれない。

 アルキメデスが浮力を発見した際の逸話を語った長瀬は、「長瀬有花のあり方も、世界を変えるようなひとつの原理としてこの宇宙に広まっていくことになるのかもしれません。そんな長瀬有花の存在を、これからも観測し続けてくださいね」と伝える。その後オオゼキをスキャンしたステージに移り「白昼避行」でファルセットを柔らかく響かせると、「異世界うぇあ」では服屋をモチーフにした、水の中にいるようなステージに移動する。決して激しいわけではない、静かながら感情が滲み出てくるような長瀬の歌声と流動的に変化するステージが、夢の中のような穏やかさと混沌を生み出していた。

「そろそろこの次元の均衡も揺らいできました。まるで世界が脱力していくようです。もしこの世界が忘れ去られて過去になっても、自分の歩んできた痕跡が誰かの記憶に残り続けますように。この過去を歩んできた自分にもあなたにも、新しい世界の当たり前を作る力がきっとあるんだと信じています」

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