坂本龍一が映画『怪物』にもたらしたもの 登場人物の心境、希望を示唆する音楽の効果

 “生”があるということは“死”もあるということ。“死”は終わりではなく、新しい“生”へと繋がっていくということ。こうした死生観は、坂本の音楽としがらみのなかでもがく少年二人(湊と依里)の間で共振しているように感じた。その兆しを見せる頃に流れる「hibari」は、即興で弾いたピアノフレーズのループで構成され、少しずつ長さを変えて重ねることでずれが生じ、曲終わりに再び合うようになるという仕組みが施されている。

 ひとつの軸が終わりを迎える頃に別の軸が始まる、その繰り返しは生と死の循環にも似ている。そして希望を見出す頃、喜びを象徴するように「Aqua」が流れる。坂本自身の娘である坂本美雨のために書かれた同曲に備わる、大切な人を想う温かな気持ちやみずみずしい生への喜びが映像と深くリンクし、少年らの命をより一層きらめかせた。是枝が「坂本さんに断られていたら、根本から発想を変えるしかなかった」と語る理由はここにあるような気がした(※2)。

 この映画のために書き下ろされた「Monster 1」「Monster 2」の2曲は、物語において重要な場面で流れる。どちらも『12』から地続きとなる、息遣いが聴こえるほど静かで素朴で、自然に溶け込むような音楽だ。心の奥底でうごめくものが身体の内側からじんわり滲み出ていくように響く。そして、劇中すべての音が重なり合えば、愛しさが溢れた吐息となり、悲痛な叫びとなり、目覚めの産声となる。そのとき、音楽と映像がこれほど共振するのかと震えるとともに、美しいコラボレーションの妙に恍惚とするだろう。

※1:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6466e01ce4b0355739351555
※2:https://lp.p.pia.jp/article/news/276127/index.html?detail=true

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