ももいろクローバーZ 玉井詩織、アイドル戦国時代を煽動した“伝説の言葉” グループの未来を切り開く縁の下の力持ち

「バランスが良い」「安定感抜群」

 玉井詩織を評する際、そういった言葉が真っ先に出るだろう。

 書籍『ももクロ改』(2018年/日経BP)のなかで、ももいろクローバーZのチーフディレクターを担当していた宮本純乃介は「彼女の良さはライブで自分を見失うことがないこと。ももクロに限らず、アーティストには客席を前に歌って気持ちが高まってくると、ピッチが崩れたり、リズムが狂うなんてことは当たり前のようにあるんです。でも、詩織ちゃんはそういうことが極端に少ないので安心して見ていられる」と語っており、ボイスメイキングディレクターの岡田実音は、玉井がユニゾン(合唱)部分で人一倍声を出すことついて「文字通り“縁の下の力持ち”なんです」「グループにとってはすごく意味のあることなんですよね」とチームに欠かせない存在だとコメントしている。

 個人を際立たせるよりもチームの一員として自分をそこに溶け込ませる――。それが玉井が選択した「アイドル人生」だと思う。実際、ももクロのメンバーのなかで、唯一「ソロコンをやらない」と独自路線を掲げ、「とにかく私はひとりではやりたくなくて」(雑誌『OVERTURE』2016年12月号)とはっきり言っていた。玉井は、その理由について「みんなは演出的なものを含めて、本当にゼロから作ってるわけじゃないですか? 私にはそれができない」「たぶん誰かに演出は丸投げしちゃうんですよ。そうなったとき、他のメンバーのソロコンとは、まったく思い入れが違ってきちゃうから」と口にする。

玉井詩織12ヶ月連続ソロ曲プロジェクト『SHIORI TAMAI 12 Colors』特報ムービー

 そう話していただけに、2023年に始まった玉井のソロプロジェクト「SHIORI TAMAI 12 Colors」には驚きがあった。12カ月連続でソロ曲を配信リリースすることを発表し、さらにジャケット写真には着物、金髪などさまざまな装いが用意された。まさに色とりどりの玉井を楽しむことができ、ファンのあいだでも待望のソロコン開催への期待が高まっている。

 ただ、忘れてはならないことがある。それは2011年7月27日の出来事だ。この日、1stアルバム『バトル アンド ロマンス』発売記念キャンペーンとして、特製選挙カーを使って東京都内を巡回したももクロ。Twitterを使って時間や場所などのヒントをチラつかせるなどゲリラ的戦法をとった同プロモーションイベントは、当時としては斬新だった。フリーライブの会場となった新宿ステーションスクエアには、約4000人が集結。そして、新宿のアルタで生放送されていた『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のオンエア時間にあわせて正午に登場するという、これまたももクロらしい演出も施され、ボルテージは最高潮に。そんななか、玉井はこう叫んだ。

「ここが、この場所が、アイドル界のド真ん中だ! お前ら、みんなついてこい!」

 『TOKYO IDOL FESTIVAL』が初開催され、またAKB48の「選抜総選挙」が全国ニュースのトップを飾り、社会現象化した2010年。さらには全国各地でインディーズアイドルが続々と誕生し、2013年にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』が放送され、ローカルアイドルブームの決定打となる。地上/地下のアイドルが入り乱れる「アイドル戦国時代」となった。

 そんな状況のなか、プロレスラー・長州力の言葉を引用した玉井のこの“宣戦布告”は、アイドルシーンの激動期を象徴する伝説として今なお語り継がれている。アイドル戦国時代を大きく揺り動かした発言。現代のアイドルシーンは、玉井の発言以前と以降に分かれると言ってもいいだろう。

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