麗奈、葛藤を前進する力に変えるまっすぐな歌声 「THE FIRST TAKE」や『オオカミ』シリーズでの飛躍が結実した1stアルバム
麗奈というアーティスト名に見覚えのある人は、きっと少なくないはずだ。彼女は、2001年生まれ、鹿児島県出身のシンガーソングライターで、近年、バイラルヒットを重ねながら、日本の音楽シーンにおいて着実に認知と支持層を拡大しつつある。本稿では、これまでの彼女の歩みについて振り返りながら、今、麗奈の音楽が多くのリスナーから求められている理由に迫っていく。
フォークソングが好きな家族のもとで生まれ育った麗奈は、9歳の時に初めてギターに触れ、中学生の頃に作詞作曲を始めた。そして高校生になると、路上ライブやライブハウス出演の経験を積み始めていく。最初の大きなブレイクスルーのきっかけとなったのが、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」が開催した一発撮りオーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』においてグランプリを獲得したことだった。5,000組を超える応募者が集まったこのオーディションにおいては、「1. ORIGINALITY “独自の表現力”」「2. SKILL “アーティストとしての技術力”」「3. WORDS “言葉の熱量”」「4. ATTITUDE “唯一無二の存在感”」「5. HUMANITY “人間として愛されるか”」という選考ポイントが設定されていて、麗奈はこの5つのポイントにおいて高く評価されたことになる。なお、ゲスト選考委員の一人である亀田誠治は、「麗奈さんはきっと2020年代を代表するシンガーソングライターになる」(※1)というコメントを残していて、このオーディションにおいて彼女が勝ち得た評価がいかに大きなものであったかが伝わってくる。
まだ麗奈の楽曲に触れたことがない方は、『THE FIRST TAKE STAGE』出演時の歌唱曲「僕だけを」を聴いてみてほしい。2021年7月、グランプリ発表と合わせて公開されたこの動画を初めて観た時、筆者はまず、彼女の透徹な輝きを帯びた清廉な歌声に心を動かされた。また、マイクの前に立つ彼女の凛とした佇まいからも終始目が離せなかった。「THE FIRST TAKE」は、極限までシンプルさを追求したセットや被写体の横顔を非常に近い距離から捉えるカメラワークも相まって、アーティストの本質的な表現力が浮かび上がるステージである。そうしたシチュエーションの中で堂々と弾き語りを披露する姿から、筆者は、まっすぐに未来を見据える彼女の強い意志を感じ取った。選考ポイントの「4. ATTITUDE “唯一無二の存在感”」「5. HUMANITY “人間として愛されるか”」の定義を具体的に言葉にするのは難しいかもしれないが、一見して伝わってくる彼女の意志の力が選考委員から評価されたのは間違いないだろう。
グランプリ獲得後、「僕だけを」に続く形で、配信専門レーベル「THE FIRST TAKE MUSIC」から「僕らの明日」「ぼく」の2曲がリリースされた。後に「“僕”3部作」と呼ばれるこの3曲を聴くと、麗奈は、広く普遍的なテーマを歌うアーティストであることが分かる。例えば「僕だけを」は、愛し合う〈君〉と〈僕〉の別れを描いた曲であるが、単なる恋愛ソングを超えて、そうした別れの先に長く続いていく人生を見据えた射程の広い楽曲になっている。また、「僕らの明日」「ぼく」は、同じ時代を生きるリスナーへ向けた輝かしい応援歌であり、この3曲からは、音楽を通してリスナーの背中を押したいという彼女の揺るがぬ想いが伝わってくる。
彼女が2度目のブレイクスルーを実現するきっかけとなった曲が、2022年8月リリースの「好いひと」であった。この曲は、ABEMAオリジナル恋愛番組『オオカミちゃんとオオカミくんには騙されない』のBGMに起用されたことで、10代〜20代のリスナーを中心に大きな支持を集め、番組の人気も相まって長きにわたるバイラルヒットへと繋がっていった。また今年の3月には、『花束とオオカミちゃんには騙されない』の挿入歌として書き下ろした新曲「うそつき」を発表。2期連続で『オオカミ』シリーズとのタッグが実現したことのインパクトは大きく、この曲も「好いひと」と合わせてバイラルヒットを記録した。「好いひと」における〈君のこと本当に信じていいの ?〉という一節、「うそつき」における〈騙されないでほしい/わたしの嘘に〉という一節は、『オオカミ』シリーズに寄り添う中で生まれた言葉であると推測できる。しかし、この2曲がバイラルヒットを記録したのは、切実な恋愛模様を描いたそれぞれの楽曲が、番組のファン以外の人の心にも響いたからだろう。上述した「“僕”3部作」にも通じるが、まっすぐに普遍性を射抜くソングライティングの精度の高さに改めて驚かされる。