売野雅勇、40年に渡る作詞道 シャネルズ、中森明菜、チェッカーズ、坂本龍一……時代を超えて愛されるポップスの条件

売野雅勇、40年に渡る作詞道

GEISHA GIRLS「少年」秘話 坂本龍一にあった理論と直感の絶妙なバランス

売野雅勇(写真=林直幸)

――90年代においては、坂本龍一さんの楽曲でもいくつか作詞をされています。GEISHA GIRLSの「少年」(1995年)、坂本龍一さんのアルバム『スムーチー』(1995年)の収録曲「美貌の青空」、そして中谷美紀 with 坂本龍一名義の「砂の果実」(1997年)です。ご自身のキャリアの中では特別なものだったと伺っています。

売野:突出して僕の一番いいところが出たのが「少年」です。突然作詞の依頼が来たんですよ。一度ラジオ番組でお会いしたことがあっただけなのですけど、ニューヨークからレコード会社のフォーライフレコードに電話があったそうなんです。もともとダウンタウン側が用意した歌詞があるけど、坂本さんが売野さんに書いてほしいと言っていると。で、坂本さんはあさって日本に着いて翌日レコーディングするから、それに間に合わせてほしいと。

――坂本さんは、どうして売野さんを指名したと思いますか?

売野:気になっていたのでしょう。彼自身との共通の言葉が何かあったのかもしれない。とても本能的な人だから、何かを感じてくれたのだと思います。

――「少年」はフォーク調で胸に染みる楽曲でしたね。

売野:すごくいい歌詞が書けたから、坂本さんが何て言っているか気になっていましたが、担当ディレクターから事務所に電話があって、坂本さんが「それが、また良いんだよ」って言ったそうなんです。そこでうちのマネージャーが「“それが”は、いりません」って言ったという後日談もあるんだけど(笑)。要するにすごく気に入ってくれたんです。ただ一カ所だけ直されたのが〈いつまでもみんな‥‥〉というところで、僕は〈永遠にみんな‥‥〉と書いていたんです。そうしたら坂本さんが、「永遠っていうものはないんじゃないか?」って。それで冒頭の部分は〈いつまでも〉にしたんです。

――坂本さんの楽曲は、他の作曲家が作る曲とは何が違ったのですか?

売野:メロディの書き方の回路が、僕の知らないモードで書いている人だったんです。「少年」はフォークソングの優しいメロディだから、その時はまだそうは感じなかったですけど。「美貌の青空」と「砂の果実」はそうで、その2曲の間に(坂本がプロデュースした)中谷さんのアルバム『食物連鎖』(1996年)があって、そこで「MIND CIRCUS」や「STRANGE PARADISE」など5曲で作詞をしたのですが、中谷さんのスタイルを決めるまでは大変だったな。何でも「本能で書いてください」って言うから。

――坂本さん自身も本能で曲を作っていたのでしょうか。

売野:そもそもサウンドは知識と技術で何とでもできるんだけど、でもメロディは、コード進行と密接に関係はしているけど、感性さえあればコード進行を組み立てていくほうが理論的で簡単なんだと思うんです。メロディはそうした上で、本能から出てくるその人自身の姿ですから、メロディはすごく本能的にやっていたと思います。理論と直感が絶妙なバランスを保っていて、きっと右脳と左脳の連絡がちょうどいい具合に働いていたのだと思う。右脳と左脳をつなぐ脳梁が、多分人より何倍か太かったんじゃないかな(笑)。

作詞活動40年の間に伝えてきたメッセージ

売野雅勇(写真=林直幸)

――これは素朴な疑問ですが、前述の「星くずのダンス・ホール」やチェッカーズの「星屑のステージ」、西村知美さんの「君は流れ星」や伊藤かずえさんの「ガラスの星座」、桑田靖子さんの「星屑のメモリー」、沢田研二さんの「素肌に星を散りばめて」など売野雅勇さんの歌詞には「星」が多く出てきます。これには何か理由があるのでしょうか。

売野:それは単純に僕が宇宙好きで、「星屑」が好きだからでしょう(笑)。今ロシア人のMax Luxという女性ユニットをプロデュースしていて、僕が作詞した曲のカバーを歌ってもらっているのですが、彼女たちからも「星屑が多くないですか?」って言われたことがあります。宇宙に関しては気が遠くなるほど考えたし、乗れるものならロケットに乗って宇宙に行ってみたいです。ロケットには科学者や技術者が乗るけど、詩人も乗せなきゃダメだよね。表現する人を乗せなきゃ。宇宙はどういうものなのか、詩人の言葉でどう表現するか聞いてみたいじゃない。「一言で言うと○○だ!」って。そういうことを言うのが、僕らの仕事だから。

――その時代に対応しながら言葉を紡いでいく作詞家活動ですが、時代の空気を読むためのアンテナの張り方、空気のつかみ方はどんな感じなのですか?

売野:特別なことは一切ありません。

――今流行っているものは何かと調べたり。

売野:それは一番やらないことです。流行っているものであれば、調べたりしなくても自然と目や耳に入ってくる。それよりも自分が好きなものを突き詰めることのほうが大事だと思っています。こういう映画が好き、こういう本が好き、学問ならこういう分野が好きと。それは時代によって作品も変わるし、学問でも新しい解釈や論文が発表されるから、そういうことを突き詰めるのが好きですね。

――ちなみに売野さんより下の世代で、「この人の歌詞がすごい!」と思った人はいますか?

売野:しばらくいないけど、最後にすごいと思ったのは、Mr.Childrenの桜井和寿さんとスガ シカオさん。それ以降はいないです。才能を持った人は定期的に出てくるものなんだけど、しばらくは出てきていないから、新しい人に早く出てきてほしいと思います。

――最後に、7月15日に開催される『売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクトMIND CIRCUS SPECIAL SHOW 「それでも、世界は、美しい」』についてお聞かせください。

売野:僕は40年の間に戦争の歌を3曲書きました。初めて書いたのは山本達彦さんの「哀しみの外電(テレグラム) 」(1986年)。その後に、この日は出演しないけど南佳孝さんの「HOLY LEI」(1999年)、最後がさかいゆうさんの「崇高な果実」(2020年)です。「崇高な果実」には、〈死ぬのはいつでも他人だと思ってる〉という一節があります。これは聴く人に問うているもので、これが僕の戦争に対するメッセージです。自分たちのことに置き換えれば、死ぬのは自分かもしれないし、家族や親戚かもしれないし、恋人かもしれない。全体としては、あくまでも楽しいハッピーなショーだけど、同時に自分なりの考えを持つきっかけにしてもらえたらいいなと思います。「それでも、世界は、美しい」というタイトルの裏には、世界では今も戦争が起こっているし、悲しいこと辛いことも多いけど、「それでも、世界は、美しい」、「生きる意味があるし生きる価値がある」ということがメッセージされています。選曲や曲順もこだわって組み立てました。コンサートが終わった時に「そういうことか」と思ってもらえたら嬉しいです。「音楽は、私たちの人生を肯定するものだ」と。

■公演概要
『売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクトMIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」』
公演日時:2023年7月15日(土)開場16:00/開演17:00
会場:東京国際フォーラム ホールA

出演:麻倉未稀 / 稲垣潤一 / 荻野目洋子 / 近藤房之助 / さかいゆう / 杉山清貴 / 東京パフォーマンスドール(木原さとみ 他) / 中島愛 / 中西圭三 / 中村雅俊 / Beverly / 藤井尚之 / 藤井フミヤ / MAX LUX / 望月琉叶 / 森口博子 / 山内惠介 / 山本達彦 / 横山剣
※50音順。都合により出演者が変更になる場合がございます。予め御了承下さい。

音楽監督:船山基紀

演奏:MIND CIRCUS BAND
土方隆行(Guitar)/ 増崎孝司(Guitar)/ 安部潤(Keyboards)/ 岸田勇気(Keyboards)/ 川崎哲平(Bass)/ 長谷部徹(Drums)/ 三沢またろう(Percussion)/ グスターボ・アナクレート(Saxophone) / 高尾直樹(Chorus)/ TIGER(Chorus)

予定演奏曲目 / 全曲作詞:売野雅勇
Woman / 想い出のクリフサイド・ホテル / 哀しみの外電 / キスは少年を浪費する / 最後のHoly Night / SOMEBODY'S NIGHT / 少女A / 崇高な果実 / 誰に愛されても / Take Me To Fujiyama / デビュー~Fly Me To Love / 夏のクラクション / ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO / Baby don’t cry ~神様に触れる唇~ / 星屑のステージ / 水の星へ愛をこめて / 夢を継ぐ人 / 六本木純情派 他
※50音順。都合により曲目が変更になる場合がございます。予め御了承下さい。

全席指定:15,000円
※税込 ※未就学児入場不可

オフィシャルサイト:https://masaourino40.com/

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