Deep Sea Diving Club 谷 颯太、創作の中で経験した“ポップ”の不思議さ 自らの表現に影響を与えた3作についても聞く
キリンジから昭和元禄落語心中まで……谷 颯太が影響を受けた音楽・映画・漫画
――おそらくこれから谷 颯太という人の中身がどんどんポップに出ていくことになるんじゃないかと思います。そういうタイミングでもあるので、谷さんが影響を受けてきた作品についても話を聞かせてください。音楽、映画、漫画の3ジャンルで挙げてもらったんですけど、まず音楽はキリンジということで。なんとなくキリンジが好きというのはわかる気がするんですが――。
谷:でも、じつはキリンジを好きになったのって最近なんですよ。よく言われるんですけど、このバンドを組んでからちゃんと聴くようになったんです。もちろん存在は知っていたんですけど。でも今は本当に影響を受けてるというか、そもそもの生き方ぐらいまでに染み込んできてますね。キリンジがグッとくるようになって、そういう人間になれた嬉しさみたいな喜びがあります。
――好きになったきっかけは何かあったんですか?
谷:ずっとわからなかったんですよ。いいものとされているけど、自分にはよくわからない。アーティストとして語れなきゃいけないけど、正直わからないっていう。自分の中でキリンジってそうだったんですよ。ちょっとがんばってはみるけど本質的に理解できていないっていうコンプレックスがあったんです。でもあるときポチって再生したら「わかる」ってなったんですよ。そのタイミングがすごく嬉しくて。フィッシュマンズもRadioheadもここ1、2年なんですよね。それって、バンドみんなでコードの話をしたり歌手の話をしたりするようになって、レベルが上がったからわかるようになったんだと思うし。
――どんなところに影響を受けていると思います?
谷:キリンジって、歌詞の出典が全然わからないんですよ。何に影響を受けているのか一切わからない。最近の曲は神話っぽいんですよね。Twitterに書いたんですけど、キリンジって自分たちで作ったオリジナルの神話をずっと喋ってるだけなんじゃないかなって思うくらい。それってめっちゃかっこいいなと。やっぱり自分は他のものに影響を受けてものを作るタイプの人間なので、そういうところに憧れがあるんですよね。俺、神話が好きで『古事記』とかも好きなんですよ。星座の話もめっちゃ好きなんですけど、その話を聞いているみたいな。日常の、たとえばペットボトルとかが歌詞に出てくるのにめっちゃ神話っぽく聞こえるってすごいなって思います。その塩梅は自分にはまだ出せないなって。
――続いて映画の『エターナル・サンシャイン』。これも言わずと知れた名作ですが。
谷:これは最初に大学の哲学の授業で観たんですよ。大学が心理学科だったんですけど、その哲学の先生がめちゃめちゃおもしろくて。たぶんいろんな人にわかりやすく説明するために映画を使って授業をしてくれたんだと思うんですけど。その時の先生のコメントもよかったんですよね。そもそも『エターナル・サンシャイン』ってラブロマンスって言われますけど、じつはめっちゃSFなんですよね。
――うん、人の記憶を消すみたいな話ですもんね。
谷:そう。よくある日本ならではのプロモーションのおかげでじつは超SFなのに、そこでまず損してる。だから本質を見ろ、みたいなことを先生が言っていたんですよね。あとジム・キャリーが出ていて、相手のクレメンタインをケイト・ウィンスレットが演じていて。ジム・キャリーっていう『マスク』ですごいおちゃらけたダンスをしていた人が、超暗い、いわゆる陰キャの男を演じていて、宮廷の女性役とかをやっていたケイト・ウィンスレットが会うたびに髪色が変わるチャラい女の人をやっているっていうミスマッチの妙みたいなところもすごく好きだし、ストーリーも好きなんです。
――時系列もあえてごちゃごちゃにしているし、単純なロマンス映画とはいえないおもしろさがある作品ですよね。
谷:記憶を彼女が勝手に消しちゃって、それにイラっとして自分も記憶を消すんだけど、その途中でやっぱり消したくないと思って、記憶の奥隅に彼女を逃がすんです。「ゴースト」で歌っていることともかなり近くて、なんかわかるんですよ。最初はむしゃくしゃして忘れてやるとか、次の恋見つけてやるとか思うけど、本当に好きな人のことに気づく。結構難解なシーンも多いんですけど、精神世界を上手に描いてるなって思います。俺もすごく矢印を内側に向ける人間なので、人の内面がよく出てくるな、わかるなって。物語の構成も、途中はポップじゃないシーンが多いんですけど、最後にグルンとポップになる感じ。この映画はセリフや人の表情、時系列の組み方がかなり理想に近いんです。こういうギミックの曲を作れたら嬉しいですね。曲作りにおいてもかなり参考にしていると思います。
――そして漫画では『昭和元禄落語心中』をピックアップしてくれました。
谷:これは短歌をやっている友達が地元にいたんですけど、結構漫画の話をするヤツで、「おまえ絶対好きやから読め」って言われて、そいつの家に遊びに行ってバーって読んだんですよ。この作品はふたつの視点で進むんです。最初は刑務所に入ってた主人公が慰問で来た落語家に憧れて、出所した後に弟子入りするんです。そのヨタ(与太郎)っていう男が主人公で進んでいくんですけど、途中からその師匠の話に入るんですよ。で、師匠がどんどんメインになって最後はこのヨタちゃんが自分もすごい人になって終わるっていう。その流れもおもしろいし、あとこの作品、めっちゃお化けが出てくるんですよね。
――お化け?
谷:死んじゃったお師匠さんのライバルとかが「おまえの落語はどうなるのか見てる、おまえの肩にはそういういろんな思いが乗っているんだ」って。お師匠さんはもうそんなのを背負ってやりたくないよっていうんですけど、そういうのって演芸の世界はあるなって思うんです。自分にもあって、歌を歌うステージの上でやっぱり感じるんですよね。そういう人たちの気持ちや重圧を。そういうのが好きなんです。やめてしまった人とかいなくなってしまった人に自分の後ろで見ていてほしいなって思うし、この作品はそれをすごく上手に描いてくれているなって思います。
――お話を伺っていると、挙げてもらった3つの作品、どれも全部バンドをやっている自分とかものを作っている自分とかとめちゃくちゃリンクしている感じがしますね。
谷:そうですね、「こうありたい」とかはあると思います。あと嬉しいんですよね。自分はこれを言いたかったんだな、これを書きたかったんだなっていうのを表現してもらえると、やっぱり今でも救われる感じがするんです。ひとりの人間としての体験だったり、悲しみだったり、いろんな感情が救われる気がするので、嬉しくなる。そういう3作ですね。
■リリース情報
New EP『Mix Wave』
5月10日(水)CDパッケージ
Streaming:https://TF.lnk.to/MixWave
CD:https://lnk.to/DSDC_MixWave
<収録曲>
1. bubbles
2. フーリッシュサマー
3. Left Alone feat.土岐麻子
4. リユニオン
5. Miragesong
6. goodenough.
7. ゴースト
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