Deep Sea Diving Club 谷 颯太、創作の中で経験した“ポップ”の不思議さ 自らの表現に影響を与えた3作についても聞く

DSDC谷が経験した“ポップ”の不思議さ

 福岡をベースに活動を続けるDeep Sea Diving Club(以下、DSDC)が、メジャーデビューEP『Mix Wave』を完成させた。昨年からリリースしてきた配信シングル3曲に加えてメンバー4人がそれぞれに作った楽曲を収めた全7曲、バラエティ豊かな音像でバンドとしての振れ幅の大きさを表現しながら、個々のメンバーのキャラクターもしっかりと伝える、DSDCの新たなスタートラインにふさわしい作品だ。そして、その個性豊かな作品を束ねるのが、フロントに立つ谷 颯太という人だ。EP最後の3曲、とりわけ最後の「ゴースト」には彼の内面性が強く出ていて、かつそうした楽曲がとてもポップなものに仕上がったところに、このバンドのこれからの可能性が潜んでいる気がする。そこで今回のインタビューでは作品についての話に加え、彼が影響を受けてきた音楽、映画、そして漫画についても語ってもらった。好きなものについて語る言葉から、彼という人間を少しでも知ってもらえたら嬉しい。(小川智宏)

「Miragesong」は歌詞について考える転換点に

Deep Sea Diving Club 谷 颯太(写真=梁瀬玉実)

――メジャーデビューEP『Mix Wave』、完成させてみての手応えはどうですか?

谷:前回のアルバムからメンバーが曲を作るようになって、かなり曲ごとのイメージがバラバラな作品になったんですけど、今回も負けず劣らずいい意味でバラバラになりました(笑)。シングルでリリースした「フーリッシュサマー」「Left Alone feat. 土岐麻子」「Miragesong」の3曲はそれぞれのテーマがあって作ったので、それをつなげる接着剤のように他の曲を詰め込もうかなと思ってたんですけど、結局1人1曲ずつ作るという流れになって。それも僕ららしいなって思うし、意外と並べてみるといい流れになったのかなと思います。

――メンバーそれぞれが曲を作るようになって、制作のプロセスは変わってきましたか?

谷:基本的に昔は出原(昌平/Dr)が全体のアレンジをしてたんですよ。でもそれぞれ自分でやれることのレベルが上がってきたので、今はみんなが作るデモの状態からすでに完成されているんです。そうなると自分もどういう音で歌えばいいかとか、どういう歌詞を入れればいいかとか、ここは感情を入れて歌ってほしいんだろうなとか、そういうことも会話せずともデモを聴けばわかるようになってきて。楽器で喋るじゃないですけど、本当に最後の確認だけで終わる感じになってきた気がします。

――曲を作った人の意思とかビジョンみたいなものがちゃんと尊重されるっていうか。

谷:そうです。メンバーのキャラクターにもよるんですけど、特に俺と出原とかは「やりたいことあるなら合わせるんで言ってください」っていう感じなんです。もちろんその中でも意見は出すんですけど、全員の気持ちを尊重するようにはしてるし、たぶんみんなもしてくれているんじゃないかなと思います。

Deep Sea Diving Club 谷 颯太(写真=梁瀬玉実)

――実際聴かせていただいても、たとえば「bubbles」と「リユニオン」って全然違うじゃないですか。曲調も温度感も全然違う曲が一緒になっているのがこのEPなんですけど、そういう振れ幅がある中で、Deep Sea Diving Clubらしさというのはどういうものだと捉えているんですか?

谷:これもメンバーで「バラバラだね」ってよく話すんですけど、自分はやっぱりボーカルなので、谷 颯太が歌っていればDeep Sea Diving Clubになるっていうふうになればいいなと思います。言葉もそれに合わせて考えていて、俺が言ってなさそうなことだったり、バンドが言ってなさそうなことは言わないようにしているんです。「リユニオン」はギターの大井(隆寛)が作った曲なんですけど、歌詞も大井が丸々書いていたんですよ。でも、言いたいことはわかるから、それを踏まえてもうちょっとリスナーの人が聴いて違和感がないようにしたいと思って、僕が書き直したりしました。だから、サウンドは正直なんでもいいと思うんですよ。なんでも好きですし、みんながかっこよければなんでもよくて。

――それを言葉と歌でチューニングするのが谷さんの役割だということなんですね。

谷:メンバーが書いた歌詞についてあまり口出しはしないんですけど、どうしても俺じゃ言えないなっていうところについては言わせてもらうようにしていて。ただ歌詞を書いたメンバーにもそれぞれこだわりがあるので、話し合いはしますね。

――「Miragesong」のときもそうでしたけど、今回、「リユニオン」や「ゴースト」で谷さんが書いている歌詞がすばらしいなと思いました。より研ぎ澄まされているというか。

谷:ありがとうございます。「Miragesong」は特にかなり作家的に作ったんですよね。曲を作ったドラムの出原から届いた歌詞の要望書に合わせて自分でかっこいいと思う言葉を並べて作るみたいな。それがかなり勉強になったし、楽しかったんですよ。やっぱりお題をもらって作るのって楽しいんだなと。それとあの曲では結構ポップなことをしたつもりだったんです。それで簡単な言葉でみんなに分かりやすいことを書いてかっこいいって、すごく難しいんだな、やっぱりみんなが分かるって大事だなと思ったんです。今までは分かるやつだけ分かればいいみたいなテンションでやってきたんですけど、そういうのって斜に構えててダサいなと思って。

――なるほど。

谷:「Miragesong」は僕らにとっての転換点じゃないですけど、作る中でメンバーで衝突して喧嘩したりしたんですよ。歌詞についてもこのぐらいからよく考えるようになって、簡単な単語で切れ味を出すのって難しいなと思いながらがんばったので、そこに気づいていただけたのは嬉しいです。

いい作品だと思う基準にある“気持ち悪い”表現が意味するもの

Deep Sea Diving Club 谷 颯太(写真=梁瀬玉実)

――なかでも「goodenough.」はおもしろい作り方をしたとツイートもされていましたけど、どういう感じだったんですか?

谷:もともとはBPMが倍でノリノリの曲だったんですよ。1番のデモがあったんですけど、その部分は出原が全部歌詞も書いていて。でもテンポを落としたら合わない部分が出てきたので、自分も歌詞を書いて調整していったんです。結果的に1番のAメロ、Bメロを俺が書いて、サビは出原の歌詞なんですけどここもちょっと自分が調整してて、2番のAとBが出原の歌詞、サビは自分っていう、地層みたいな構成になっていて。だから2番が先にあって、その話の辻褄を合わせるために後から1番を書くっていう。パズルのピースをはめてるみたいでおもしろいなと思いながら書いていきました。それではめてみたら違和感なく聴けるようになったので、出原とふたりで「よっしゃー、いけたね」って。

――じゃあ、本当にもう共作という感じなんですね。

谷:そう、しかも変な共作でした(笑)。

――サビの〈非常識な人間でなくちゃ 死の瞬間まで〉というフレーズにはちょっとドキッとしますね。どういうことなんだろう? って。

谷:その部分については出原が書いたんですけど、本当にあいつが常日頃言ってることなんですよ。服を買った話とかしても、「普通に買ってたらダメだよ」とか言ってる変なヤツなんです。そういう出原の考えがすごく出てていいなと思うし、やっぱり賛同できるポイントが自分にもあるかなと思います。でも俺、出原に「〈死〉って言葉、使う?」って聞いたんですよ。「使う」って返ってくるだろうなと思いながら聞いたんですけど、やっぱり「使います」って(笑)。自分じゃやらない手法なんですよ。お腹が空いたから「お腹が空いた」と書くのっておもしろくないと思っているので別の言い方をするんですけど。そういう自分みたいなスタイルをとってる人が一周回ってストレートな言葉を使うのもおもしろいと思うので、使いたいなら「じゃあ」と。だから最後のサビの〈悲しみを殺すような〉っていうところで〈殺す〉って単語を自分が使ったんですよ。出原の書いた〈死〉を支えてあげなきゃいけないなと思ったので。

――その〈死〉とか〈殺す〉とかっていうワードがあることで、取りようによってポジティブにもネガティブにも感じられる、不思議な歌詞になっていますよね。

谷:出原にとってはポジティブなんだと思うんですよ。ネガティブ味は自分が足しちゃったと思うんですけど、街の悲しさみたいなものを自分は出原の歌詞から感じて。〈画面見つめてみても一人〉とか〈またこの曲またあの人〉っていうのは大都会の悲しさだなと思ったので、それが混じってる気がします。だから歌詞を見るとふたりの人間がいるなっていう感じがするんですよね。変な曲ですね(笑)。

――そういう意味では「Miragesong」があってその「goodenough.」があって、最後の「ゴースト」があって。前後を谷さんが作詞した曲で挟むことで、「goodenough.」もより谷さんの感じていることにグーッとフォーカスされるような感じがあるんですよね。EPの最後に向かって、どんどん谷 颯太という人が出てくるような。

谷:ちょっと流れが変わる感じがしますよね。

――最初の「bubbles」はわりとキラキラした感じなんだけど、後半にいくにつれてグイッと内面性の方に寄っていく感じがきれいな流れだなと思いました。谷さんが作詞作曲した「ゴースト」はとてもいい曲ですね。

Deep Sea Diving Club 谷 颯太(写真=梁瀬玉実)

谷:そうですね。「Miragesong」を作って、それは本当によかったと思っているんですけど、やっぱり仕事味が少し強いなっていうのは感じたんですよね。その楽しさ、作家としての楽しさと表現者としての楽しさはちょっとまた別ジャンルの楽しさだったので、久々に気持ち悪い歌詞を書きたいなと思ったんです。本当に思ってることとか自分が好きな曲って、そういう曲が多いなと思ったんですよ。

――その「気持ち悪い」というのは?

谷:人に言えないようなことというか。でも本当はみんな思ってると思うんですよね。で、文学とか音楽とかって、そういうものに対する救いになると思っていて。自分もかなりそういう作品に救われてきたんです。自分の思ってることをよく言語化してくれていると感じる作品ってあるじゃないですか。昔はそういう曲を聴いたら「取られた」と思ってたんですよ。俺がいつか書こうと思ってたテーマなのに取られた、みたいな。でもだんだん学んでいくにつれてこういう表現もあるんだって思えるようになってきて。すると人の表現ももっと味わえるようになるし、やっぱり俺も人に自分の思ってることを言ってもらいたかったんだなって思うようになって、それが自分のいい作品だなと思う基準になったんです。自分も「これ、俺/私のことを言ってるな」って思ってほしいなと思ったんですよね。

――「ゴースト」はそういう部分を狙って出した。

谷:そうですね。メジャー1発目なので、本当はみんな「ポップに」って言ってたんですよ。でも……大井とかは独りよがりじゃないのがポップだって言ってて、それもすごくいいと思うんですけど、俺はそういうことを一旦無視して本当に作りたいものを作ってみようと、いろいろ好きにやらせてもらいました。

――でも、僕が聴いた印象だと、ポップなものを目指したという「Miragesong」も「ゴースト」も、同じ人だと思いますよ。谷さんのなかでは全然違うものという感覚かもしれないし、実際にプロセスとしてはそうだと思いますけど、結果にじみ出てるものは1ミリも変わらない感じがする。

谷:そうなってるならより嬉しいんですけど、本当ですか?

――そう思いますよ。「Miragesong」は確かに綺麗にラッピングしようっていう感じはありますけど、そのラッピングの隙間からドロドロ出てくるものがある気がします。

谷:意地みたいなものがやっぱり出てるんですかね。出原のオーダーをすり抜けた自分の意地みたいなものが。でも今の話を聞いて、みんなが「ゴースト」を「Miragesong」の後日談みたいに聴いてくれてもすごくおもしろいなって思いました。

――だからこの2曲に出ている感情が、谷 颯太という人の本質というか核の部分なんだろうなという気がします。それがどんどんまっすぐ出てきている感じがしますね。

谷:それが出せるようになってきたのであれば嬉しいなと思いますね。これはメンバーにも言ったんですけど、今まで作品をリリースさせていただいて、もっと聴いてもらえると思っていたギミックがその曲の中にはあるんですよ。仕込んだけど滑っているギミックがめちゃめちゃある。でもそれって自分だけ楽しんでるなと思ったんです。腕を組んで上からニヤニヤしながら見てる、みたいな。それってよくないなって思ったんですよ。なんか逃げてるなと。ちゃんとギミックがあるなら人に分かるように書かないとギミックにもならないから、今までやってたことってすごく失礼だったんじゃないかとも思うようになって。その塩梅は自分の中でまだ探してるんですけど、この曲はちょっとは出せたんじゃないかなって思います。

――うん。この曲も結果的にすごくポップなものになったと思いますし。

谷:そうなんですよ。不思議なんですよね。ポップと一番遠いところで作り出したし、俺はポップにならないと思って「ごめんな、みんな」と思って作ってたんですよ。でも結果、一番ポップになったからポップって不思議だなって思います。

Deep Sea Diving Club - Miragesong(Official Video)
Deep Sea Diving Club - ゴースト (Official Video)

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